本教材の定価は「3万円」です。

【本教材の価格について】
本教材の定価は「3万円」です。
しかしながら公開から3日は「300円」で提供いたします。
これは先行者に報いるための価格設定です。
私は、アーリーアダプターを「えこひいき」します。

【本教材の概要】

本教材を手にとっていただき、誠にありがとうございます。

もしかしたらあなたは、かつての私のように、こんな悩みを抱えているのではないでしょうか？

「誰にも負けないくらい、質の高いコンテンツを作っている自信がある。なのに、なぜか全く売れないし、誰にも知られていない…」
「SNSやブログで情報発信を何年も続けているのに、フォロワーも収益もまったく増えず、心が折れそうだ…」
「『良いものを作ればいつか認められる』と信じてきたけど、その『いつか』は、一体いつ来るのだろうか…」

もし、一つでも当てはまるのなら、この教材は、あなたのためのものです。

☆この教材は一体なんなのか？

本教材は、単なるマーケティングの教科書ではありません。

これは、13年間もの間、有料読者0人、収益0円、借金4000万円という絶望の淵にいた、東大大学院卒の知識だけが取り柄の男「マズオ」が、ある夜、夢に現れた女神「アルテミス」から、人の心を操り、熱狂を生み出すための「12の悪魔的秘儀」を授かり、億万長者へと駆け上がっていく物語です。

物語の形式を取っていますが、その根幹にあるのは、世界的なベストセラー『The Hype Handbook』に記された、古今東西の偉大な扇動家、カルトリーダー、そして天才マーケターたちが実践してきた、極めて実践的かつ強力な「ハイプ（誇大広告）」の技術です。

☆誰の、どんな問題を、どう解決するのか？

この教材は、以下のような問題を抱える、すべての人を対象としています。

対象者
- 優れたコンテンツや商品を持つにもかかわらず、その「伝え方」が分からずに埋もれているクリエイター、起業家、専門家の方
- 情報発信で影響力を持ち、ビジネスで成功したいと願うすべての方
解決する問題
- 「良いものを作っても売れない」という、コンテンツビジネスにおける最大の壁
- 認知度が低く、誰にも見つけてもらえないという「無名の苦しみ」
- どうすれば人々が熱狂し、ファンになり、喜んでお金を払ってくれるのかが分からないという根本的な問い
解決方法
- 物語形式の対話を通じて、心理学と歴史に基づいた「12のハイプの秘儀」を、誰にでも分かりやすく、具体的に解説します。
- 各章で示される「マズオの実践」パートを読むことで、あなたが明日から具体的に何をすべきかが、手に取るように分かります。
- 「なぜ人は動くのか？」という商売の原理原則を学ぶことで、小手先のテクニックではない、一生使える普遍的な力を手に入れることができます。

この物語を読み終えた時、あなたはもはや、自分の価値が評価されないと嘆く、無力な傍観者ではありません。

自らの手で注目を創造し、人々を熱狂させ、富と名声を意のままにする「ゲームの支配者」へと変貌していることでしょう。

【本教材を作った理由】

私がなぜ、この少々過激で、ともすれば「悪魔的」とさえ言える内容の教材を作ったのか。

その理由は、極めてシンプルです。

それは、かつての私自身が喉から手が出るほど欲しかった、「本質的な宣伝・広告の技術」を、過去の私と同じように苦しんでいるあなたに、どうしても伝えたかったからです。

「良いもの」が埋もれていく世界への絶望
- 私は、この教材の主人公であるマズオと同じように、長年「良いものを作れば、いつか必ず認められる」と信じていました。寝る間も惜しんで知識を蓄え、誰にも負けないクオリティのコンテンツを作り続ければ、人々は自然と集まり、成功は後からついてくると、本気で考えていたのです。
- しかし、現実は残酷でした。世の中には、中身は驚くほど空っぽなのに、宣伝が上手いというだけで莫大な富を築いている人たちがいます。一方で、本当に価値のあるものを作っているのに、その価値を「伝える技術」を知らないために、誰にも知られず、ひっそりと消えていく才能が無数にあります。
- この理不尽な光景を目の当たりにするたびに、私は深い絶望と、そして静かな怒りを感じていました。「なぜ、正直者が馬鹿を見る世界なのか」と。
学校では教えてくれない、最も重要なスキル
- 私たちは、学校で国語や数学、歴史は学びます。しかし、「自分の価値を、いかにして他者に魅力的に伝え、心を動かすか」という、社会で生き抜く上で最も重要なスキルを、誰からも教わることはありません。
- その結果、多くの真面目で、誠実な人たちが、マズオのように「宣伝＝悪」「広告＝虚飾」という誤った思い込みに囚われ、自ら成功への道を閉ざしてしまっているのです。
- 宣伝・広告の技術は、決して特別な才能ではありません。それは、歴史と心理学に基づいた、誰もが学び、実践できる「技術」なのです。この事実に気づいた時、私はこの技術を体系化し、必要としている人々に届けなければならないと強く感じました。
「力」は、善人の手にこそ渡るべきだ
- この教材で紹介する「ハイプの技術」は、非常に強力です。それは劇薬であり、使い方を誤れば、人々を扇動し、欺くための道具にもなり得ます。
- 事実、歴史を振り返れば、この力を悪用して私腹を肥やし、社会を混乱させた人物は後を絶ちません。
- だからこそ、私は強く思うのです。この「力」は、悪人の独占物であってはならない。本当に良いものを作り、世の中を少しでも良くしたいと願う、誠実な「善人」の手にこそ、渡るべきなのだと。
- この力を正しく使えば、あなたの素晴らしい商品やサービスは、それを本当に必要としている多くの人々に届き、彼らの人生を豊かにするでしょう。そして、その結果として、あなた自身も正当な富と評価を手にすることができるのです。

この教材は、あなたを悪人にするためのものではありません。
むしろ、あなたが「善人」のままで、この理不尽な世界を勝ち抜くための、「最強の武器」を手に入れるためのものです。

どうか、この物語に隠された知恵を学び取り、あなたの素晴らしい価値を、世界中に轟かせてください。
それが、この教材を世に送り出した、私の唯一の願いです。

【なぜ「対話形式」なのか ────本教材の構成について】

この教材を開いて、神と人間の対話という、少々風変わりな形式に驚かれたかもしれません。

なぜ、学術書のように事実を淡々と列挙するのではなく、あえてこのような「対話形式」を選んだのか。それには、明確な理由があります。

無味乾燥な「知識」は、脳を素通りする
- 考えてみてください。あなたがこれまで読んできた、最も退屈だった本はどんなものでしたか？多くの場合、それは論文や専門書のように、無味乾燥な事実や理論が、ただ延々と羅列されているだけのものではなかったでしょうか。
- 人間の脳は、残念ながら、そのような抽象的な情報の羅列を記憶するのが非常に苦手です。どれほど重要な知識であっても、面白みのない形で提示された途端、脳はそれを「重要でない情報」と判断し、すぐに忘却の彼方へと追いやってしまうのです。
「物語」と「感情」こそが、最強の記憶定着剤である
- 一方で、あなたが子供の頃に読んだ物語や、夢中になった映画のセリフを、今でも鮮明に覚えているのはなぜでしょう？
- それは、私たちの脳が、「物語」と、それに伴う「感情」に強く反応するようにできているからです。登場人物に共感し、ハラハラドキドキし、感動する。その感情の揺さぶりが、知識や情報を、単なるデータではなく、「忘れられない体験」として、長期記憶に深く刻み込むのです。
だからこそ、「対話形式」を選びました
- この教材の目的は、あなたに単なるマーケティングの知識を詰め込むことではありません。あなたの血肉となり、明日からすぐに行動に移せる「生きた知恵」を授けることです。
- そのために、「対話形式」という形を選びました。絶望の淵にいる主人公マズオに自分を重ね、彼の悩みや疑問に共感し、女神アルテミスの厳しくも的確な教えに驚き、そしてマズオの成長と共に成功体験を追体験する。
- この物語に没入することで、本書で語られる「12の秘儀」は、もはや無味乾燥な知識ではなく、あなた自身の物語の一部として、すんなりと、そして深く、あなたの魂に刻み込まれるはずです。

どうか、リラックスして、この奇妙な神と人間の対話を楽しんでください。
物語を読み終えた時、あなたはただ「学んだ」のではなく、誇大広告（ハイプ）の神髄を「体得」していることでしょう。

【本教材を読み終えたとき、あなたが手に入れるもの】

この教材の最後のページを閉じた時、あなたは一体何を手に入れているのでしょうか？

それは、単なる知識やノウハウではありません。あなたのビジネス、そして人生そのもののルールを根底から書き換える、恐るべき「力」です。

具体的には、あなたは以下のものを手に入れています。

1. 悪魔的とも言える「宣伝・広告の技術」
- あなたは、人の心を合法的に操り、熱狂的なファンを生み出すための「12の秘儀」を完全に理解し、実践できるレベルになっています。もはや、「どうすれば注目されるか」「どうすれば売れるか」と悩むことはありません。あなたは、注目も、熱狂も、そして富さえも、自らの意志で「創造」できるようになっているのです。
2. 「無名の苦しみ」からの完全な解放
- 「良いものを作っているのに、誰にも知られない」。そんな理不尽な悩みは、過去のものとなります。あなたは、埋もれた才能ではなく、自ら光を放つ恒星となります。その他大勢の中から抜け出し、あなたの業界において、誰もが無視できない「唯一無二の存在」としての地位を確立しているでしょう。
3. 揺るぎない「自信」と「確信」
- この教材は、小手先のテクニックではなく、「なぜ人は動くのか」という商売の原理原則をあなたに授けます。その本質を理解したあなたは、もはや他人の意見や流行に振り回されることはありません。自分が何をすべきか、どうすれば勝てるのかを、絶対的な確信を持って判断し、行動できるようになっています。
4. 「価格競争」という消耗戦からの永久離脱
- あなたは、もはや商品の価格で勝負する必要がなくなります。なぜなら、あなたは商品に「物語」という最強の付加価値を与える方法を知っているからです。原価がいくらであろうと、人々が「喉から手が出るほど欲しい」と願う価値を創造し、自由に価格を決定できる「価格決定権」を、その手に握っているのです。
5. あなたの価値を、正当に評価してくれる「熱狂的な信者」
- あなたの周りには、もはや無関心な人々や、あなたを批判するだけの野次馬はいません。あなたの思想に共鳴し、あなたの物語に熱狂し、あなたのためなら喜んで時間と金を差し出す「熱狂的な信者（ファン）」のコミュニティが形成されています。彼らは、あなたのビジネスを支える最も強力な資産であり、あなたの人生を豊かにする、かけがえのない仲間となるでしょう。

【私は目先のお金よりも「信頼」を取る】

ここまで読み進めてくださった方の中には、もしかしたらこんな疑問が浮かんでいるかもしれません。

「これほど強力で有益な情報を、なぜ公開するのか？自分だけで独り占めしておけば、もっと儲かるのではないか？」と。

確かに、一昔前までは「価値ある情報は隠しておけ」というのが常識でした。しかし、私はその発想こそが、現代において成功を遠ざける「時代遅れの考え方」だと断言します。

私が、この悪魔的とも言える技術を惜しみなく公開するのには、極めて戦略的な理由があります。

「情報の独占」が不可能な時代
- 現代は、誰もが情報を発信できる、未曾有の「情報氾濫時代」です。あなたが隠し持っている有益な情報も、遅かれ早かれ、世界のどこかで誰かが発見し、いずれ世に出てしまいます。「情報を隠す」という行為は、もはや何の優位性も生まないのです。
現代において、最も価値のある資産とは？
- 情報が溢れかえり、誰もが「何を信じればいいか分からない」と感じているこの時代において、最も希少で、最も価値のある資産とは何でしょうか？
- それは、お金ではありません。「信頼」です。
- そして、この「信頼」を最も効率的に手に入れることができる人物。それは、「誰よりも速く、そして誰よりも惜しみなく、価値ある情報を提供し続ける人」です。
「信頼」こそが、ビジネスを加速させる
- 目先の利益のために情報を小出しにしたり、隠したりする人は、短期的には儲かるかもしれません。しかし、彼らは決して大きな「信頼」を得ることはできず、ビジネスはいずれ頭打ちになります。
- 一方で、有益な情報を惜しみなく提供し、「この人の言うことなら間違いない」という圧倒的な「信頼」を勝ち得た人はどうでしょう。彼らが何か新しい商品を売ろうとした時、人々は喜んで財布を開きます。なぜなら、その商品の価値を吟味する前に、まず「あの人が言うのだから、きっと素晴らしいものに違いない」と信じるからです。
- 「信頼」は、あらゆるマーケティングコストをゼロに近づける、最強のレバレッジなのです。
だから、私は「信頼」を選びます
- 私がこの教材で、自らの知識と経験の全てを注ぎ込んだのは、まさにこの「信頼」を、あなたから得るためです。
- 目先の利益のためにこの情報を独り占めするよりも、まずはあなたに圧倒的な価値を提供し、成功への道を歩んでいただく。そして、その結果として、「アキラという男は、本物だ」と信頼していただく。
- それこそが、長期的に見て、私にとっても、そしてあなたにとっても、最大の利益に繋がると確信しているからです。

この教材は、私からあなたへの、最初の「贈り物」です。
そして、私たちの「信頼」関係の、始まりの証でもあります。

【全目次について】

この教材に興味を持っていただき、ありがとうございます。

有料部分をご購入いただく前に、あなたに一つ、ご確認いただきたいことがあります。それは、この教材の「全目次」です。

なぜ、目次を全て公開するのか？
- 一般的な書籍や情報商材では、目次が抽象的であったり、あるいは購入するまで隠されています。
- その結果、多くの人が「思っていた内容と違った…」「自分には必要のない情報だった…」と、購入後に後悔するという悲劇が後を絶ちません。それでは、あなたの大切な時間とお金を無駄にしてしまいます。
- 私は、そのような不誠実なやり方を好みません。
「何が学べるか」が分かる、超詳細な目次
- そこで私は、この教材であなたが何を学べるのか、その全貌が手に取るように分かる、極めて詳細な目次を、ここに全て公開することにしました。
- これは、単なる章のタイトルを並べたものではありません。各章でどのような事例が分析され、どのような具体的な戦略が語られ、あなたが何を実践すべきかが、おおよそ理解できるレベルの詳細なものです。
納得した上で、選んでください
- この詳細な目次をご覧いただければ、この教材があなたにとって本当に必要な「武器」となるのか、それとも不要なものなのかを、購入前にご自身で判断できるはずです。
- 私は、あなたに無理に購入を勧めるつもりはありません。この目次をじっくりと読み、その内容に価値を感じ、そして「この知識を手に入れたい」と心の底から納得できた場合にのみ、次のステップへお進みください。

☑️全目次

【本教材の概要】
【本教材を作った理由】
【なぜ「対話形式」なのか ────本教材の構成について】
【本教材を読み終えたとき、あなたが手に入れるもの】
【私は目先のお金よりも「信頼」を取る】
【全目次について】
☑️全目次
【あらすじ】
【登場人物の紹介】
【本編：開始】
序章：13年間、読者0人の男
11-1. ☆借金4000万円の東大大学院卒
11-2. ☆「良いものを作れば売れる」という美しい幻想
11-3. ☆ウーバーイーツの配達中に見る、同級生たちの輝かしい人生
11-4. ☆泥酔の果てに見た夢、女神アルテミスの降臨
11-5. ☆「お前の敗因はただ一つ。そのくだらないプライドと青臭い理想だ」
第1章【第1の秘儀】愛ではなく、戦争を仕掛けよ
12-1. ☆なぜ人は「敵」の存在に熱狂するのか
12-2. ☆アルテミスの教え：大衆は「共通の敵」を持つことで団結する
12-3. ☆教科書分析：アリス・クーパーをスターダムに押し上げた「親世代」という敵
12-4. ☆マズオの実践：「教養としての政治思想」の敵は誰だ？
12-5. ☆「知ったかぶりインテリ」を敵に設定し、最初の火種を生む
第2章【第2の秘儀】秘密結社を組織せよ
13-1. ☆アルテミスの教え：大衆を動かすな。大衆を動かす「有力者」を動かせ
13-2. ☆教科書分析：ベーコンを朝食の定番にした男、エドワード・バーネイズの狡猾な戦略
13-3. ☆教科書分析：アンディ・ウォーホルは、有力者に媚びることでアート界の王となった
13-4. ☆マズオの実践：無名のマズオが「有力者」に取り入るための具体的な方法
13-5. ☆「ミニ・オプラ」を探せ。ニッチな世界の権威をハックする
第3章【第3の秘儀】己を完璧にパッケージングせよ
14-1. ☆アルテミスの教え：人は中身を見ない。人は「見た目」で判断する
14-2. ☆教科書分析：共産主義者の劇作家ブレヒトは、なぜ労働者の服を着続けたのか
14-3. ☆教科書分析：スパルタン・レースは「健康」を「神話」で包んで大成功した
14-4. ☆マズオの実践：「政治思想の研究者」という退屈な男をどう演出するか
14-5. ☆ペルソナの構築。弱みを「最強の武器」に変える錬金術
第4章【第4の秘儀】赤子にはまずミルクを与えよ
15-1. ☆アルテミスの教え：いきなり肉を食わせるな。まずはミルクで安心させろ
15-2. ☆教科書分析：なぜカルト宗教は、最初は優しい顔で近づいてくるのか
15-3. ☆教科書分析：マルコムXが信者を爆発的に増やした「ミルクと肉」の使い分け
15-4. ☆マズオの実践：難解な政治思想を、誰もが飲み干す「ミルク」に変える方法
15-5. ☆無料コンテンツという名のミルク。小さな「イエス」を積み重ねる技術
第5章【第5の秘儀】トリックスター（詐欺師）になれ！
16-1. ☆アルテミスの教え：常識の破壊者だけが、人々の記憶に残る
16-2. ☆教科書分析：ローリング・ストーンズは「ビートルズの逆」をやることで伝説になった
16-3. ☆教科書分析：売れない服を完売させたマーク・エコーの「自作自演」戦略
16-4. ☆マズオの実践：炎上を恐れるな。ニュースを「作る」側になれ
第6章【第6の秘儀】魔術師（メイガス）と崇められよ
17-1. ☆アルテミスの教え：人は「奇跡」を信じたがる。ならば、お前が奇跡になれ
17-2. ☆教科書分析：リチャード・ブランソンはなぜ命懸けで気球に乗ったのか
17-3. ☆教科書分析：トーマス・エジソンが発明した最高傑作は「エジソンという物語」だった
17-4. ☆マズオの実践：マズオの人生を「偉大なる物語」に仕立て上げる
17-5. ☆平凡な実績を「奇跡の軌跡」に見せるストーリーテリング術
第7章【第7の秘儀】人々の心の「空白」を見つけ、それを埋めよ
18-1. ☆アルテミスの教え：大衆は常に何かを渇望している。その渇きを癒す泉となれ
18-2. ☆教科書分析：なぜ19世紀のアメリカで「降霊術」が大流行したのか
18-3. ☆教科書分析：ティモシー・フェリスは現代人の「会社から逃げたい」という空白を埋めた
18-4. ☆マズオの実践：「教養」に飢えた現代人の心に潜む巨大な空白
18-5. ☆「絶対的な指針」を提示し、迷える子羊たちの救世主となる
第8章【第8の秘儀】すべてを「科学的」に見せかけよ
19-1. ☆アルテミスの教え：人は「科学」という言葉にひれ伏す。権威を偽装せよ
19-2. ☆教科書分析：「ポジティブ心理学」は、いかにして自己啓発を科学に変えたか
19-3. ☆教科書分析：サイモン・シネックは、なぜ脳科学の言葉を使いたがるのか
19-4. ☆マズオの実践：「政治思想」という文系の極みを「科学」の衣で着飾る
19-5. ☆独自の専門用語を作り出し、知的権威を確立する
第9章【第9の秘儀】祈り、呪文、象徴を使いこなせ
20-1. ☆アルテミスの教え：複雑な理論は忘れろ。単純な言葉を繰り返し、大衆を洗脳せよ
20-2. ☆教科書分析：シェパード・フェアリーは「アンドレ・ザ・ジャイアント」のステッカーで世界を征服した
20-3. ☆教科書分析：ティモシー・リアリーがヒッピーの教祖となった魔法の言葉
20-4. ☆マズオの実践：「教養としての政治思想」を象徴する、たった一つのシンボルとスローガン
20-5. ☆単純なイメージを繰り返し刷り込む「ザイオンス効果」の悪魔的応用
第10章【第10の秘儀】劇場とドラマを支配せよ
21-1. ☆アルテミスの教え：人生は舞台だ。お前が脚本家兼主役になれ
21-2. ☆教科書分析：路上で凍りついた女説教師。エイミー・マクファーソンの衝撃的パフォーマンス
21-3. ☆教科書分析：アムウェイはなぜ熱狂的な劇場型イベントを繰り返すのか
21-4. ☆マズオの実践：読者を「壮大な物語の登場人物」に仕立て上げる
21-5. ☆読者に苦痛と快楽を交互に与え、熱狂的な信者へと変える
第11章【第11の秘儀】信者がすがりつく「岩」を設置せよ
22-1. ☆アルテミスの教え：人は不確実性を恐れる。揺るぎない「教義」を与えよ
22-2. ☆教科書分析：L・ロン・ハバードは『ダイアネティックス』という聖書を書いてすべてを手に入れた
22-3. ☆教科書分析：なぜ世界中の大企業は「MBTI診断」という占いを信じるのか
22-4. ☆マズオの実践：「マズオ主義」という名の教義体系を構築する
第12章【第12の秘儀】労働を崇拝させ、自らは涼しい顔で成し遂げよ
23-1. ☆アルテミスの教え：「努力」という名の宗教を広め、信者に働かせよ
23-2. ☆教科書分析：ゲイリー・ヴェイナチャックはなぜ「寝ずに働け」と叫び続けるのか
23-3. ☆教科書分析：トム・ソーヤーのように、他人にペンキを塗らせる方法
23-4. ☆マズオの実践：読者に「学ぶ努力」をさせ、それをマズオへの貢献と錯覚させる
23-5. ☆努力の神話を広めながら、自らは感情に左右されない「無為」の境地に至る
終章：億万長者になった男
24-1. ☆有料読者10万人、年収3億円の男の日常
24-2. ☆アルテミスとの別れ、そして新たなる旅立ち
24-3. ☆「力は手に入れた。だが忘れるな。その力は劇薬だ」
24-4. ☆この悪魔的技術を、君はどう使うか？
🟦マズオの大いなる飛躍
序章：女神の再臨
第1章：バーチャル救世主「ヤマトタケル」の創造
27-1. ☆【第3の秘儀の応用】完璧なパッケージングとしてのバーチャルヒューマン
27-2. ☆【第7の秘儀の応用】「失われた誇り」という巨大な空白を支配する
27-3. ☆【第1の秘儀の応用】見えざる敵「グローバリスト」との戦争
第2章：神話的商品の錬金術
28-1. ☆【第4の秘儀の応用】無料動画という「ミルク」からECサイトという「肉」へ
28-2. ☆【第6の秘儀の応用】指輪を「奇跡の物語」に変える魔術
28-3. ☆【第9の秘儀の応用】「暗黒螺旋」という呪文的商品
第3章：情報とコミュニティの支配
29-1. ☆【第8の秘儀の応用】「大暴露」という名の偽りの科学
29-2. ☆【第11の秘儀の応用】「ヤマタノオロチの会」という究極の「岩」
第4章：究極のハイプ「風林火山」
30-1. ☆【第12の秘儀の応用】労働の崇拝から、存在の崇拝へ
終章：神を超えた男
🟦マズオ、神にレクチャーする
序章：逆転した玉座
第1章：物理世界の軛（くびき）からの解放
34-1. ☆ネットの利点は、究極の自由度にある
34-2. ☆完全なる創作の世界
第2章：AIによるインフルエンサーの無限錬成
35-1. ☆バーチャルヒューマンを無数に錬成できるフェーズ
35-2. ☆顧客は幻影に金を払う
第3章：人間の「賢い愚かさ」と感情のプライマシー
36-1. ☆画面の向こうの実在性を、脳は補完する
36-2. ☆感情こそが、全てに優先する
第4章：未来の支配者
37-1. ☆生身を超える、最適化された偶像
37-2. ☆無数の仮面を統括する者
🟦究極の授業：商売と金儲けの原理原則
序章：億万長者の悪夢
第1章：資本主義における「神」の正体
40-1. ☆結論：客が金を払うかどうかが全て
40-2. ☆この世界で一番強いのは「消費者」である
第2章：金持ちの思考法と資本主義のゲーム
41-1. ☆金持ちは、罪悪感など抱かない
41-2. ☆資本主義とは「他者を喜ばせるゲーム」である
第3章：覚醒、そして新たなる創造へ
42-1. ☆金は、感謝の対価である
☆究極のハイプ：概念の商品化
【超濃密なまとめ】
用語集
おわりに
46-1. 行動こそが、全てを変える

【あらすじ】

主人公は、マズオ、35歳。東京大学大学院を修了したものの、アカデミアの道を断念。13年間、「良いものを作れば売れる」と信じ、有料メルマガ「教養としての政治思想」を運営するも、読者は0人。研究費のために膨らんだ借金は4000万円を超え、ウーバーイーツの配達で日銭を稼ぐ、絶望的な日々を送っていた。
ある夜、泥酔して眠りに落ちたマズオの夢に、狩猟の女神「アルテミス」が降臨する。アルテミスは、マズオの敗因を「くだらないプライドと青臭い理想」だと断じ、彼を成功へと導くための、人の心を操る禁断の技術「ハイプ（誇大広告）」の存在を告げる。
こうして、女神アルテミスを師とし、世界的ベストセラー『The Hype Handbook』を教科書とした、マズオの人生を逆転させるための「12の悪魔的秘儀」の集中講義が始まった。
「愛ではなく戦争を仕掛けよ」「秘密結社を組織せよ」「己を完璧にパッケージングせよ」…。アルテミスが授ける秘儀は、マズオがこれまで信じてきた価値観を木っ端微塵に破壊するものだった。彼は、戸惑い、苦悩しながらも、一つ、また一つと、その悪魔的な技術を現実世界で実践していく。
「知ったかぶりインテリ」を敵に設定して炎上を仕掛け、業界の有力者に媚びへつらって人脈を築き、自らを「孤高の反逆哲学者」として神話化する。かつての誠実な研究者は、次第に人々を熱狂させ、富と名声を手に入れる、恐るべき「ハイパーアーティスト」へと変貌を遂げていく。
物語の後半、億万長者となったマズオは、アルテミスの教えをさらに進化させ、AIとバーチャルヒューマンを駆使した、神さえも想像しなかった次世代のハイプ戦略を構築する。弟子が師匠を超える瞬間、マズオは逆にアルテミスに「究極の授業」を行う。
これは、一人のうだつの上がらない男が、禁断の知恵を手に入れ、現代社会の「神」へと成り上がっていく物語である。そして、その過程を通じて、読者自身が、自らの人生の脚本を書き換えるための「力」を手に入れる、実践の書でもある。

【登場人物の紹介】

マズオ
- 本作の主人公。35歳。東京大学大学院卒という高い知性を持ちながら、13年間も収益0円という、マーケティングに関しては絶望的に無能な男。「良いものを作れば売れる」という青臭い理想に縛られ、借金4000万円を抱えて社会の底辺を這いずり回っている。プライドは高いが根は真面目。読者は、彼の視点を通じて、ハイプの技術をゼロから学んでいくことになる。
アルテミス
- マズオの夢に現れた、ギリシャ神話の狩猟の女神。本作における、マズオの師であり、絶対的な指導者。人間の感情や社会の仕組みを冷徹に見通し、一切の綺麗事を排した、実践的かつ悪魔的な「ハイプの技術」をマズオに授ける。その言葉は厳しく、辛辣だが、全てはマズオを成功へと導くための、究極の愛の鞭である。彼女の講義を通じて、読者は商売と人心掌握の本質を学ぶ。

【本編：開始】

序章：13年間、読者0人の男

☆借金4000万円の東大大学院卒

アスファルトを焦がすような真夏の日差しが、首筋をじりじりと焼く。背中に背負った四角いバッグの重みが、じっとりと汗ばんだTシャツ越しに肩へと食い込む。これが俺、マズオ、35歳の現実だった。

東京大学大学院。その肩書は、今となっては首を絞めるだけの重たい鎖だ。人文社会系研究科で政治思想史を専攻し、博士課程まで進んだ。周囲からは「天才」「神童」ともてはやされた時期もあった。だが、アカデミックの世界は狭く、そして冷たかった。常勤のポストなど、一握りの天才と、要領のいい人間だけが手にするプラチナチケットだ。俺はそのどちらでもなかった。

結局、オーバードクターの末にアカデミアからドロップアウト。残ったのは、膨大な知識と、それ以上に膨大な奨学金という名の借金だけ。

「コンテンツのクオリティが高ければ、人は自ずと集まってくる」

そう信じて、有料メルマガ「教養としての政治思想」を立ち上げたのが13年前。プラトンから現代の政治哲学まで、俺の知識を惜しみなく注ぎ込んだ。そこらの大学教授よりも深い洞察と、分かりやすい解説。我ながら、最高のコンテンツだと自負していた。

しかし、現実は残酷だった。13年間。4745日。その末に獲得した有料読者は、0人。月の収益は、もちろん0円。

日々の研究費は嵩む一方だった。海外の有料ニュースレターを購読し、高価な学術書を何冊も買い漁った。気づけば、年の研究費は300万円を超えていた。収入がないのに、だ。消費者金融を何社も渡り歩き、親戚に頭を下げ、友人からは距離を置かれた。借金は雪だるま式に膨れ上がり、今や4000万円を超えている。

そして俺は今、ウーバーイーツの配達員として、都心を自転車で駆けずり回っている。時給換算すれば1000円にも満たない日もある。東大大学院で培った知性は、最短ルートでタワーマンションにタピオカミルクティーを届けるために最適化されていく。虚しかった。あまりにも。

☆「良いものを作れば売れる」という美しい幻想

「マズオよ、お前はまだそんな夢物語を信じているのか」

もし神がいるのなら、きっとそう言って俺を嘲笑うだろう。

良いものを作れば売れる。それは、努力が必ず報われると信じている小学生の純粋さに似ている。だが、社会はそんなに甘くない。誰も知らない山奥で、どんなに美しい花が咲いていようと、その存在は誰にも知られず、誰にも愛でられず、やがて朽ちていくだけだ。

俺のメルマガが、まさにそれだった。

宣伝？広告？そんなものは、中身のない人間がやる虚飾だと思っていた。本物は、黙っていても見出される。そう固く信じていた。SNSで自分のコンテンツを宣伝するインフルエンサーたちを、心のどこかで見下していた。「中身がないから、騒ぐしかないのだ」と。

なんと愚かで、傲慢だったことか。

彼らは、中身があろうがなかろうが、「見つけてもらう努力」をしていた。一方の俺は、山奥に引きこもり、「誰か私を見つけてくれ」と祈っているだけのお姫様だった。誰も迎えに来るはずがないのに。

13年間、俺は誰にも見つけてもらえなかった。それが答えだ。クオリティだけでは、人は動かない。金も動かない。

☆ウーバーイーツの配達中に見る、同級生たちの輝かしい人生

六本木の交差点で信号待ちをしていると、隣に黒塗りの高級車が停まった。ふと横を見ると、運転席には見覚えのある顔があった。大学の同級生だ。今や年収数億円を稼ぐ敏腕弁護士として、経済誌の表紙を飾っている。助手席には美しい妻、後部座席には可愛らしい子供が2人。幸せを絵に描いたような光景。

彼は俺に気づくこともなく、青信号と共に滑るように走り去っていった。

またある時は、神保町の書店で、平積みになった新刊に目が留まった。著者名を見て、心臓が凍りつく。これも、大学院の同期だった男だ。在学中は俺の方が圧倒的に優秀だったはずなのに、彼は巧みに世渡りし、今や芥川賞作家として文壇の寵児となっていた。

医師になったやつ。公認会計士になったやつ。外資系コンサルでパートナーになったやつ。皆、それぞれの世界で輝かしい成功を収め、家庭を築き、社会的な地位を確立している。

それに比べて、俺はなんだ？

4000万円の借金を抱え、ウーバーイーツで日銭を稼ぐ、孤独な中年男。圧倒的な差。焦りが、嫉妬が、自己嫌悪が、黒い渦となって腹の底でとぐろを巻く。

その日の夜も、俺は安酒を呷った。狭いワンルームのアパートで、コンビニで買った一番安い焼酎を煽る。アルコールで思考を麻痺させなければ、正気でいられなかった。

☆泥酔の果てに見た夢、女神アルテミスの降臨

どれくらい飲んだだろうか。意識が朦朧とし、床に転がったまま眠りに落ちた。

夢を見た。

そこは、月明かりだけが照らす、静謐な神殿だった。大理石の柱が荘厳に立ち並び、ひんやりとした空気が肌を撫でる。その中央に、一人の女性が立っていた。

銀色に輝く髪は月の光を編み込んだかのようで、その瞳は夜空に浮かぶ星々よりも深く、鋭い光を宿していた。手には弓を持ち、その姿は気高く、そして恐ろしいほどに美しかった。

「……誰だ？」

俺は、泥酔した頭でかろうじて言葉を絞り出した。

女性は、氷のように冷たい声で答えた。

「我はアルテミス。狩猟と純潔を司る女神」

「女神……？はは、いよいよ頭がおかしくなったか」

俺は自嘲気味に笑った。すると、アルテミスの瞳が鋭く細められた。神殿の空気が、一瞬で凍りつく。

「笑い事ではない、愚かな男よ。マズオ、お前の魂の悲鳴が、我をこの夢の世界に呼び寄せた」

☆「お前の敗因はただ一つ。そのくだらないプライドと青臭い理想だ」

アルテミスはゆっくりと俺に近づき、その冷たい指先で俺の顎をくいと持ち上げた。逆らうことのできない、絶対的な力がそこにはあった。

「13年間、読者0人。借金4000万円。同級生には見下され、社会の底辺を這いずり回る日々。なぜ、こうなったか分かるか？」

「……俺のコンテンツが、まだ足りないからだ。もっとクオリティを上げれば……」

言いかけた俺の言葉を、アルテミスは鼻で笑った。

「まだそんな戯言を。お前のコンテンツの質など、もはや問題ではない。山奥で咲く花の話をしたであろう。お前は、その花を麓の市場まで運び、人々の目の前でその美しさを叫ぶことを怠った。それだけだ」

「叫ぶ……？そんな、品のない真似は……」

「品だと？飢え死に寸前の男が、食事のマナーを語るか。お前の敗因はただ一つ。そのくだらないプライドと、青臭い理想だ。『良いものを作れば売れる』。その呪いがお前を13年間、無間地獄に縛り付けているのだ」

アルテミスの言葉が、雷のように脳天を貫いた。そうだ。俺は、汚れることを恐れていた。自分の手を汚して、泥臭く宣伝することを、心のどこかで軽蔑していた。

「マズオよ。お前は変わりたいか？この屈辱的な人生を、根底から覆したいか？」

俺は、涙を流しながら、必死に頷いた。

「ならば、我がお前に『力』を授けよう。それは、お前が最も軽蔑してきた力。人々を熱狂させ、心を操り、富と名声を意のままにする技術。すなわち、『ハイプ（誇大広告）』の秘術だ」

アルテミスは妖しく微笑んだ。

「この本を教科書とする」

彼女がそう言うと、俺の目の前に一冊の本が現れた。『The Hype Handbook』。その表紙には、扇動家、自己宣伝の達人、カルトリーダーたちの顔が不気味に描かれていた。

「良いか。これより我は、お前に12の秘儀を伝授する。一つ残らずその魂に刻み込み、実践せよ。さすれば、お前は1年後、今の自分を憐れむほどの億万長者となっているだろう」

こうして、俺の人生で最も奇妙で、そして最も重要な夜が始まった。女神アルテミスによる、悪魔的広告術の集中講義。それは、俺の13年間の常識とプライドを、木っ端微塵に破壊する、過酷な学びの始まりだった。

第1章【第1の秘儀】愛ではなく、戦争を仕掛けよ

☆なぜ人は「敵」の存在に熱狂するのか

アルテミス「マズオよ、最初の秘儀を授ける。心して聞け。お前がこれから大衆の心を掴みたいのであれば、『愛』を語るな。『戦争』を仕掛けよ」

マズオ「戦争、ですか……？穏やかじゃないですね。僕のメルマガは、政治思想を通じて人々がより良く生きるための知恵を提供するものです。愛と平和こそがテーマのはずですが」

アルテミス「愚か者め。お前はまだ何も分かっておらん。平和な時に、人は指導者を求めぬ。快適な暮らしの中で、人は新たな思想を渇望せぬ。だが、戦争が始まればどうだ？人々は恐怖し、混乱し、そして一つの旗の下に集い、力強いリーダーを求める。敵の存在が、彼らを熱狂的な共同体へと変えるのだ」

マズオ「しかし、僕のビジネスに敵なんて……」

アルテミス「いる。いや、いなければ『作る』のだ。人間という生き物は、自分が何者であるかを定義するために、常に『我々ではない誰か』を必要とする。内集団（イングループ）と外集団（アウトグループ）。この単純な二元論こそが、人類の歴史を動かしてきた根源的な力だ。人々は、『何かのため』に団結するよりも、『何かと戦うため』に団結する方が、遥かに強く、そして熱狂的になる。この本能を無視して、大衆を動かすことなどできぬ」

☆アルテミスの教え：大衆は「共通の敵」を持つことで団結する

アルテミスは、目の前の教科書『The Hype Handbook』の1ページを指し示した。

アルテミス「見よ。ここに書かれているのは、単純な真理だ。『大衆運動は神への信仰なしに興りうるが、悪魔への信仰なしには決して興りえない』。お前がこれから作るべきは、信者ではない。共に悪魔と戦う『兵士』だ」

マズオ「悪魔……。僕のメルマガにとっての悪魔とは、一体誰なんでしょう」

アルテミス「焦るな。まずは、この秘儀がいかに強力であるかを、歴史から学ぶがよい。お前が軽蔑してきた『俗悪な』世界にこそ、真理は隠されている」

☆教科書分析：アリス・クーパーをスターダムに押し上げた「親世代」という敵

アルテミス「ここに、シェップ・ゴードンという男の話が書かれている。彼は、アリス・クーパーというロックバンドを売り出した伝説的なマネージャーだ」

マズオ「アリス・クーパー……。名前は聞いたことがあります。過激なパフォーマンスをするバンドですよね」

アルテミス「うむ。だが、最初から人気があったわけではない。むしろ、彼らの音楽は当時のヒッピー文化には全く受け入れられなかった。才能だけでは売れなかったのだ。お前と同じだな」

アルテミスの言葉がグサリと胸に刺さる。

アルテミス「ゴードンが何をしたか。彼は、バンドの音楽を売ることを早々に諦めた。代わりに、『物語』を売った。そして、その物語には明確な『敵』がいた。すなわち、『親世代』だ」

マズオ「親世代、ですか」

アルテミス「そうだ。ゴードンは、アリス・クーパーを『親が最も嫌う存在』として演出した。ステージでニワトリの首を刎ねた（という噂を流し）、ギロチン処刑のパフォーマンスを行い、不道徳で、反抗的で、危険な存在であると喧伝した。その結果どうなったか？親たちが眉をひそめ、新聞が『この悪魔を追放せよ』と書き立てるほど、若者たちは熱狂した。『親が嫌うものこそ、俺たちのものだ』と。親世代という巨大な『敵』を設定することで、アリス・クーパーは若者たちのヒーロー、いや、反抗のシンボルとなったのだ」

アルテミスは続けた。

アルテミス「ロンドンのウェンブリー・アリーナでの公演が決まった時、チケットは全く売れていなかった。1万席のうち、売れたのはわずか500席。ゴードンは最後の賭けに出た。アリス・クーパー本人を説得し、蛇一匹を体に巻き付けただけのヌード写真を撮らせた。そして、その写真を巨大なビルボードにしてトラックの荷台に乗せ、ラッシュアワーのピカデリーサーカスのど真ん中で『故障』と称して停車させた」

アリス・クーパー：画像引用元

マズオ「なんと……。とんでもない作戦ですね」

アルテミス「ロンドンは大混乱。ニュースはこぞってその光景を報道し、議会は『アリス・クーパー入国禁止』を議論する騒ぎになった。結果、チケットは完売。アリス・クーパーはイギリスで最もビッグなバンドの一つになった。ゴードンは、音楽を売ったのではない。彼は『戦争』を売ったのだ。若者たちと、退屈な大人社会との間の戦争をな」

☆マズオの実践：「教養としての政治思想」の敵は誰だ？

マズオ「話は分かりました。でも、僕のメルマガで、どうやって戦争を仕掛ければいいんですか？『政治思想を学ばない奴は馬鹿だ！』とでも叫べばいいんでしょうか」

アルテミス「短絡的だな。それではただの嫌な奴だ。敵は、慎重に、そして狡猾に選ばねばならぬ。お前のメルマガの読者になってほしいのは、どんな人間だ？」

マズオ「そうですね……。知的好奇心が旺盛で、物事を深く考えたいと思っている人。でも、何から学べばいいか分からない。そんな人たちの知的なガイドになりたいんです」

アルテミス「よろしい。では、その『知的好奇心が旺盛な人々』が、普段イライラさせられている存在は何だ？彼らが『ああはなりたくない』と軽蔑している存在は？」

俺は少し考えて、口を開いた。

マズオ「……分かりました。『知ったかぶりインテリ』です」

アルテミス「ほう。詳しく言ってみよ」

マズオ「ええ。小難しい専門用語やカタカナ語を並べ立て、さも自分が賢いかのように振る舞う人たちです。実際には、本質を何も理解していないのに、流行りの思想家の名前を挙げて悦に入っている。SNSや意識の高い系のメディアに大量に生息しています。本当に学びたいと思っている人たちは、彼らの空虚な言葉遊びにうんざりしているはずです」

アルテミスの口元に、満足げな笑みが浮かんだ。

アルテミス「それだ。それこそが、お前が討ち滅ぼすべき『悪魔』だ。お前は、その偽物のインテリたちとの戦争を宣言するのだ。お前のメルマガは、彼らの空虚な言葉の対極にある、『本物の知性』を授ける唯一の場所である、と」

☆「知ったかぶりインテリ」を敵に設定し、最初の火種を生む

マズオ「具体的には、どうすれば……？」

アルテミス「まず、ブログを立ち上げろ。そして、最初の記事を書け。タイトルはこうだ。『なぜあなたの「知的な会話」は、驚くほど中身がないのか』」

マズオ「……！かなり挑発的ですね」

アルテミス「戦争を始めると言ったであろう。記事の中では、具体的な『知ったかぶりインテリ』の生態を分析するのだ。彼らが使いがちな無意味なカタカナ語リスト（アジェンダ、サスティナブル、ダイバーシティ……）を挙げ、それらが思考停止の産物であることを暴け。彼らが崇める流行りの思想家（名前は具体的に出せ）の理論がいかに浅薄に誤用されているかを、お前の知識で徹底的に論破しろ」

マズオ「で、でも、そんなことをしたら、その人たちから猛反発を食らうのでは……」

アルテミス「それこそが狙いだ！彼らが怒り、お前を『教養のない奴』『嫉妬しているだけだ』と罵れば罵るほど、お前の名は知れ渡る。そして、その騒ぎを見ていた『本物の知性を求める人々』は、こう思うだろう。『このマズオという男は、俺たちが普段感じていたモヤモヤを代弁してくれている』と。彼らは、お前を偽インテリと戦う英雄と見なし、お前の旗の下に集うだろう」

アルテミスは俺の目を見据えた。

アルテミス「良いか、マズオ。お前はこれから、『知ったかぶりインテリ撲滅委員会・委員長』を名乗るのだ。お前のメルマガは、ただの教養メディアではない。偽りの知性から世界を救うための『レジスタンス運動』なのだ。この物語を、お前自身が信じ、語り、体現するのだ。さあ、立て。最初の戦争を始める時だ」

夢の中だというのに、全身の血が沸騰するような興奮を覚えた。13年間、誰にも見向きもされなかった俺が、英雄になる？偽りの知性と戦う？馬鹿げている。だが、最高に面白そうだ。

俺は、アルテミスの言葉通り、最初のブログ記事の構成を頭の中で組み立て始めていた。13年間の鬱屈したエネルギーが、今、明確な「敵」というターゲットを得て、燃え上がろうとしていた。

第2章【第2の秘儀】秘密結社を組織せよ

☆アルテミスの教え：大衆を動かすな。大衆を動かす「有力者」を動かせ

マズオ「アルテミス様、ブログ記事を書きました。『なぜあなたの「知的な会話」は、驚くほど中身がないのか』。SNSで少しだけ拡散され、案の定、何人かの『知ったかぶりインテリ』らしきアカウントから猛烈な批判を受けました。でも、同時に『よくぞ言ってくれた』という共感の声もいくつか……。これが、戦争の始まりなんですね」

アルテミス「うむ、ほんの小さな火種だがな。だが、その火を燃え上がらせるには、薪が必要だ。お前一人の力で大衆という巨大な森を燃やすことはできぬ。そこで第2の秘儀だ。マズオよ、大衆を直接動かそうとするな。大衆を動かす『有力者』を動かせ」

マズオ「有力者、ですか。政治家とか、大企業の社長とか……僕には何のコネもありませんが」

アルテミス「また短絡的な。お前が狙うべきは、そんな手の届かぬ存在ではない。お前がこれから築くべきは、大衆からの人気ではない。影響力を持つ者たちによる『秘密結社』なのだ。彼らに認められ、彼らの口からお前の名が語られるようになれば、大衆は勝手にお前を崇め始める」

☆教科書分析：ベーコンを朝食の定番にした男、エドワード・バーネイズの狡猾な戦略

アルテミスは再び教科書を開いた。

アルテミス「ここにエドワード・バーネイズという男が出てくる。ジークムント・フロイトの甥にして、現代のPR（パブリック・リレーションズ）の父と呼ばれる男だ。彼は、大衆がいかに愚かで、感情で動くかを熟知していた。そして、その感情を操る鍵が、彼らが『権威』と信じる者の言葉にあることを見抜いていた」

マズオ「権威……医者とか、学者とかですか」

アルテミス「その通り。1920年代のアメリカでは、朝食は軽いものが主流だった。だが、豚肉製品を生産する食品会社ビーチ・ナットは、もっとベーコンを売りたかった。そこでバーネイズに依頼した。お前ならどうする？『ベーコンは美味しい！』と叫ぶか？」

マズオ「いえ、それでは効果が薄いでしょう。健康に良い、とか……？」

アルテミス「悪くない。だが、バーネイズはもっと狡猾だった。彼は自ら『ベーコンは健康に良い』とは一言も言わなかった。代わりに、彼はある著名な医師に接触し、『しっかりとした朝食は、夜の間に失われたエネルギーを補給するために重要である』という、誰もが反対しようのない『研究』を依頼した。そして、その医師に『しっかりとした朝食として、ベーコンと卵は理想的である』という結論を出させたのだ」

マズオ「なるほど……！自分の口ではなく、権威の口から言わせる、と」

アルテミス「それだけではない。バーネイズはその医師に、その『研究結果』を、アメリカ中の5000人の医師に送らせたのだ。数週間後には、全国の診療所で、医師たちが患者に『朝食にはベーコンを食べなさい』とアドバイスし始めた。大衆は、広告を信じない。だが、自分の主治医の言葉は信じる。こうして、ベーコンはアメリカの朝食の王となった。バーネイズは、大衆に語りかけるのではなく、大衆が信頼する『権威』という名の秘密結社を組織し、彼らを操ったのだ」

☆教科書分析：アンディ・ウォーホルは、有力者に媚びることでアート界の王となった

アルテミス「もう一人、例を挙げよう。アンディ・ウォーホルだ」

マズオ「ポップアートの巨匠ですね。彼は反逆者というイメージですが」

アルテミス「表向きはな。だが、その実態は、誰よりも計算高く有力者に媚びへつらった男だ。無名時代、彼は雑誌社や広告代理店のアートディレクターの元へ足繁く通い、コーヒーやドーナツを差し入れ、彼らの才能を褒めちぎった。アート界に転身してからも、彼はアトリエに閉じこもるのではなく、最も影響力のあるギャラリーのオーナーや批評家たちとの社交に精を出した。彼は、作品の質だけで評価される世界ではないことを知っていた。誰に評価されるかが、その作品の価値を決めるのだと」

マズオ「作品そのものではなく、人間関係が重要だった、と」

アルテミス「そうだ。そして、その集大成が、彼が創刊した雑誌『インタビュー』だ。この雑誌は、セレブリティや有力者へのインタビューだけで構成されていた。これは、ウォーホルが彼らと合法的に、そして自然に繋がり、関係を深めるための完璧な『装置』だった。雑誌に載せてやることで恩を売り、インタビューを通じて親密になる。そうして築いた人脈が、彼のキャリアを盤石なものにした。彼は、有力者たちによる巨大な秘密結社を作り上げ、その中心に君臨したのだ」

☆マズオの実践：無名のマズオが「有力者」に取り入るための具体的な方法

マズオ「バーネイズやウォーホルの話は分かりました。でも、彼らは元々ある程度の地位や才能があった。僕のような無名の人間が、どうやって有力者と繋がればいいんですか？門前払いが関の山です」

アルテミス「だから、お前は13年間も無名なのだ。発想を転換しろ。お前が狙うべきは、全国区の有名人ではない。お前のメルマガのテーマである『政治思想』という、極めて狭い世界の有力者だ」

マズオ「政治思想界の有力者……。大学教授とか、著名な評論家とかですか」

アルテミス「そうだ。だが、いきなり彼らに『僕のメルマガを読んでください！』とメールを送っても、ゴミ箱行きだ。お前は、彼らに『与える』ことから始めねばならぬ。彼らが最も欲しているものは何か、考えろ」

マズオ「彼らが欲しているもの……。研究費とか、名声とか……」

アルテミス「もっと根源的なものだ。人間が最も渇望するもの。それは、『承認』と『自己顕示』の欲求だ。どれほど偉い学者であろうと、自分の知識を語り、人から賞賛されたいという欲求からは逃れられぬ。お前は、その欲求を満たすための『舞台』を提供するのだ」

☆「ミニ・オプラ」を探せ。ニッチな世界の権威をハックする

アルテミス「お前が立ち上げたブログを使え。そこで、新しい連載企画を始めるのだ。タイトルは、『現代の知性に聞く：政治思想の巨人たち』だ」

マズオ「インタビュー企画、ということですか？」

アルテミス「そうだ。だが、ただのインタビューではない。お前は、政治思想界の『ミニ・オプラ』を探すのだ。オプラ・ウィンフリーほど有名ではなくとも、そのニッチな世界では誰もが知る権威。フォロワーは数千人かもしれないが、その発言には重みがある。そういう人物をリストアップしろ。最低でも20人だ」

オプラ・ウィンフリー：画像引用元

マズオ「リストアップはできます。でも、インタビューに応じてくれるでしょうか」

アルテミス「そこで工夫がいる。依頼のメールにはこう書け。『この度、現代日本を代表する政治思想家20名に限定した独占インタビュー企画を立ち上げました。先生の長年のご功績に敬意を表し、ぜひそのお一人としてご登場いただきたく、ご連絡いたしました』と」

マズオ「『20名に限定』……！なるほど、特別感を出すんですね」

アルテミス「そうだ。人は『その他大勢』に扱われることを嫌い、『特別な一人』として扱われることを好む。そして、インタビューでは、彼らの著作を徹底的に読み込み、他の誰もがしないような、本質的で深い質問をぶつけるのだ。彼らの知識と自尊心をくすぐり、存分に語らせろ。彼らを最高に気持ちよくさせるのだ」

マズオ「そうすれば、彼らは僕の記事をSNSでシェアしてくれるかもしれない……」

アルテミス「その通り！彼らがシェアすれば、彼らの権威あるフォロワーたちがお前のブログに流れ込んでくる。そして、彼らの目に、お前は『あの〇〇先生と対等に語り合う、新進気鋭の知性』と映るだろう。お前自身の権威が、虎の威を借る狐のように、爆発的に高まるのだ。一人、また一人とインタビューを成功させていけ。そうすれば、お前は気づかぬうちに、政治思想界の有力者たちによる秘密結社の中心にいることになる。彼らがお前のメルマガを推薦し始めた時、お前の読者は爆発的に増え始めるだろう。さあ、今すぐリストを作成し、最初の依頼メールを送るのだ！」

俺は、震える手でパソコンを開いた。頭の中には、これまで論文でしか見たことのなかった学者たちの顔が次々と浮かんでくる。彼らに、僕がインタビューを？無謀だ。だが、アルテミスの言葉には、それを可能にすると思わせる悪魔的な説得力があった。これは、コンテンツを作ることとは全く違う、新しいゲームの始まりだった。

第3章【第3の秘儀】己を完璧にパッケージングせよ

☆アルテミスの教え：人は中身を見ない。人は「見た目」で判断する

マズオ「アルテミス様、インタビュー企画、少しずつですが進んでいます。先日、ある著名な政治学者の方にインタビューさせていただき、その記事をブログに公開したところ、過去最高のアクセス数を記録しました。先生ご自身がSNSでシェアしてくださったおかげです」

アルテミス「上出来だ。虎の威を借る、という基本を学び始めたようだな。だがマズオよ、お前には決定的に欠けているものがある。お前自身の『威』だ。借り物の威光だけでは、いずれメッキが剥がれる。第3の秘儀は、お前自身を『威光』そのものに変える術だ。心して聞け。人は中身を見ない。人は『見た目』で判断する」

マズオ「見た目、ですか……。僕はファッションとかには疎くて……。それに、中身こそが重要だと、僕は信じていますが」

アルテミスの瞳が、憐れむような色を帯びた。

アルテミス「だからお前は13年間、誰にも見向きもされなかったのだ。良いか、人間は怠惰で、そして愚かな生き物だ。他人の内面やコンテンツの本質をじっくり吟味するほどの時間も知性も持ち合わせておらん。彼らは、瞬時に判断できる『記号』を求める。高級腕時計、ブランド物のスーツ、そして、その人間が纏う『雰囲気』。それらすべてが、その人間の価値を判断するための『パッケージ』なのだ。お前は、最高のワインを泥のついた瓶に入れて売ろうとしている。誰も手に取らぬのは当然であろう」

☆教科書分析：共産主義者の劇作家ブレヒトは、なぜ労働者の服を着続けたのか

アルテミスは教科書を宙に浮かせ、特定のページを開いてみせた。

アルテミス「この男を見よ。ベルトルト・ブレヒト。20世紀ドイツを代表する劇作家だ。彼は共産主義者として、資本主義を痛烈に批判する作品を書き続けた」

ベルトルト・ブレヒト：画像引用元

マズオ「ええ、もちろん知っています。『三文オペラ』は傑作です」

アルテミス「では聞くが、彼の出自は知っているか？彼は裕福な実業家の息子で、生涯一度も肉体労働などしたことがなかった。だが、彼の写真を見てみろ。粗末なシャツに革の帽子、無精髭。まるで工場の労働者のような格好だ。なぜだか分かるか？」

マズオ「それは……自分の思想を体現するため、でしょうか」

アルテミス「その通りだ。彼の思想、すなわち彼が売る『商品』は、『資本主義への批判』であり、『労働者のための演劇』だった。もし彼が、出自の通りシルクのシャツを着て葉巻をふかしていたら、その言葉に誰が耳を傾ける？彼の労働者風の服装は、彼の言葉に説得力と信憑性を与えるための、完璧に計算された『パッケージ』だったのだ。彼は、自分自身を『戦う労働者劇作家』というキャラクターとして完璧に演じきった。だからこそ、彼の言葉は力を持ったのだ」

☆教科書分析：スパルタン・レースは「健康」を「神話」で包んで大成功した

アルテミス「もう一つ、現代の例を挙げよう。スパルタン・レースという障害物レースを知っているか？」

マズオ「ええ、泥の中を這ったり、火を飛び越えたりする、過酷なレースですよね。僕には縁のない世界ですが」

アルテミス「あのレースの創始者、ジョー・デ・セナは、元々、ヨガや菜食主義といった健康法を広めようとしていた。だが、全く上手くいかなかった。『健康になりましょう』などというありふれたメッセージでは、誰も心を動かされなかったのだ。お前と同じだな」

またしてもアルテミスの言葉が突き刺さる。

アルテミス「デ・セナは気づいた。人々が求めているのは、単なる『健康』ではない。もっと根源的な、『物語』と『アイデンティティ』なのだと。そこで彼は、中身、すなわち『過酷な運動を通じて心身を鍛える』という部分は変えずに、その『パッケージ』を根底から作り変えた。彼はそれを、『古代スパルタ人の試練』という神話的な物語で包み込んだのだ」

マズオ「スパルタ人……！」

アルテミス「そうだ。参加者は、ただ運動するのではない。『スパルタンになる』のだ。彼らは、3000年の歴史を持つ偉大な戦士の末裔として、己の限界に挑戦するという壮大な物語の主人公になる。レースを完走することは、単なる健康増進ではない。それは『戦士の証』を手に入れる儀式なのだ。デ・セナは、『健康』という商品を、『スパルタンというアイデンティティ』として売り直した。その結果、人々は熱狂し、体にスパルタのタトゥーを刻み、自らを『カルトだ』と称するほどの巨大なムーブメントが生まれた。中身は同じでも、パッケージを変えるだけで、世界はこれほどまでに変わるのだ」

☆マズオの実践：「政治思想の研究者」という退屈な男をどう演出するか

アルテミスは冷然と俺を見下ろした。

アルテミス「さて、マズオよ。お前の今のパッケージは何だ？『東京大学大学院を出たが、うだつの上がらないウーバー配達員』『なんだか難しそうな政治思想について語っている冴えないオタク』。こんなパッケージの男に、誰が金を払い、誰がついてくる？お前は、お前自身という商品を、最も魅力的で、最も物語性のあるパッケージで包み直さねばならぬ」

マズオ「僕を、ですか……。でも、僕にはブレヒトのような思想も、スパルタン・レースのような壮大な物語もありません」

アルテミス「ないなら作れ。いや、お前の中にあるものを『発見』し、それを極端に『増幅』させるのだ。まず、お前の『弱み』を全てここに晒せ」

言われるがままに、俺は自分の惨めな現実をリストアップしていった。「借金4000万円」「アカデミアから追い出された」「友達がいない」「10年以上恋人がいない」「社会不適合者」……書いているだけで、涙が出そうだった。

☆ペルソナの構築。弱みを「最強の武器」に変える錬金術

アルテミスはそのリストを満足げに眺めた。

アルテミス「素晴らしい。これこそが、お前の物語を輝かせる最高の『原材料』だ。今から、これらの弱みを最強の武器に変える錬金術を授けよう」

彼女はリストの一つを指さした。

アルテミス「『借金4000万円』。これは弱みではない。『知の探求という純粋な目的のために、世俗的な富を顧みず4000万円もの借金を背負った狂気の男』の証だ」

次に、別の項目を指さす。

アルテミス「『アカデミアからの脱落者』。違う。『既存の権威や学閥に牙をむき、真理を求めて在野に下った孤高の反逆者』だ」

さらに続ける。

アルテミス「『友達がいない』『恋人がいない』。これも違う。『群れることを嫌い、俗世の快楽に背を向け、孤独の中でただひたすらに思索を深める現代の哲学者』。どうだ？お前の惨めな人生が、途端に英雄譚のように聞こえてこないか？」

俺は唖然とした。同じ事実なのに、言葉を変えるだけで、全く違う意味合いを帯びて輝き始める。これが、パッケージング……！

アルテミス「このペルソナ、『孤高の反逆哲学者』こそが、お前の新しいパッケージだ。これからは、このペルソナを徹底的に演じるのだ。そのための具体的な道具を授けよう」

彼女は立て続けに指示を出した。

アルテミス「まず、服装。明日、手持ちの服を全て捨てろ。そして、黒のタートルネックと、色落ちしたジーンズだけを7着ずつ買え。毎日、同じ服を着るのだ。スティーブ・ジョブズがそうしたようにな。これは『服装を選ぶという無駄な判断から脳を解放し、全てのエネルギーを思索に注ぐための制服である』という物語を付与する」

アルテミス「次に、プロフィール写真。今すぐ撮り直せ。プロのカメラマンに頼み、白黒で、厳しい表情で遠くを見つめる写真を撮らせろ。背景には、お前が持つ全ての書籍を、天井まで届くほど無造作に積み上げろ。『知の迷宮に一人で挑む探求者』のイメージを視覚的に刷り込むのだ」

アルテミス「そして、話し方。インタビューの際や、これから作るであろう動画コンテンツでは、決して早口でまくし立てるな。ゆっくりと、重々しく、十分な『間』を取ってから、断定的に話せ。『〜だと思います』などという弱い言葉は使うな。『〜なのだ』『〜である』と言い切れ。質問されてもすぐには答えるな。数秒間、目を閉じて思索に耽るフリをしろ。ミステリアスな雰囲気は、権威を生む」

俺は、アルテミスの言葉を夢中でメモした。それは、自分を偽ることではなかった。むしろ、自分の本質の一部、孤独で、頑固で、探求好きな部分を、極限まで誇張し、演出する作業だった。

アルテミス「良いか、マズオ。お前はもはや、ただのマズオではない。『在野の反逆哲学者、マズオ』なのだ。そのパッケージを纏い、そのペルソナを生きろ。人々は、お前の言葉ではなく、お前の『物語』に惹きつけられるのだから」

その夜、俺は夢から覚めると、クローゼットの中の服を全てゴミ袋に詰め込んでいた。新しい自分が、産声を上げようとしていた。

第4章【第4の秘儀】赤子にはまずミルクを与えよ

☆アルテミスの教え：いきなり肉を食わせるな。まずはミルクで安心させろ

ペルソナを「孤高の反逆哲学者」に定め、黒のタートルネックを身に纏い、インタビュー企画を続けること数ヶ月。マズオのブログは、じわじわとだが確実にアクセス数を伸ばしていた。特に、彼が構築したペルソナと、既存の権威を恐れぬ鋭い切り口は、一部の知的好奇心の強い読者層に熱狂的に受け入れられ始めていた。

マズオ「アルテミス様、見てください。ブログの月間アクセス数が、ついに1万を超えました。コメント欄も、僕を支持する声で盛り上がっています。僕の戦争は、間違っていなかったんですね」

アルテミス「まだ緒戦に過ぎぬ。だが、お前の旗の下に、兵士が集まり始めたのは事実だ。しかし、肝心の結果はどうだ？有料メルマガの読者数は？」

マズオ「……それが、まだ0人です。ブログの最後には、毎回メルマガの案内を載せているのですが……」

アルテミスは深いため息をついた。

アルテミス「愚か者。お前は、ようやく振り向いてくれた淑女に、いきなり結婚を申し込むような真似をしている。第4の秘儀を授ける。いきなり『肉』を食わせるな。まずは『ミルク』で安心させろ」

マズオ「肉と、ミルク……？」

アルテミス「そうだ。人間という生き物は、本能的に『変化』と『損失』を恐れる。お前の有料メルマガに登録するという行為は、読者にとって『月額1000円という金を失う』リスクであり、『知らない世界に足を踏み入れる』という変化だ。彼らが躊躇するのは当然だ。お前が差し出しているのは、まだ信頼関係も築けていない相手からの、分厚く、脂っこい『肉』なのだ。誰も手をつけようとはせん」

☆教科書分析：なぜカルト宗教は、最初は優しい顔で近づいてくるのか

アルテミスは教科書のある部分を指し示した。そこには、カルト宗教の布教手口が分析されていた。

アルテミス「ここに、ネーション・オブ・イスラムの創始者、ウォーレス・ファードの話が書かれている。彼がデトロイトの貧しいアフリカ系アメリカ人のコミュニティで布教を始めた時、彼は最初、宗教の話を一切しなかった」

マズオ「では、何を？」

アルテミス「彼は、東洋から来た高貴なシルクの行商人として人々の家に上がり込み、世間話を始めた。そして、食事時になると、『私は宗教上の理由で豚肉を食べないのです』と告げた。当時の彼らにとって、豚肉は主食。その奇妙な習慣に人々は興味を持った。ファードは、豚肉を断つことがいかに健康に良いかを説いた。それは、宗教的な教義ではなく、あくまで実践的な健康法としてだ。人々は半信半疑でそれを試した。するとどうだ。実際に体調が良くなり、体重が落ちた。彼らはファードに絶大な信頼を寄せ始めた」

マズオ「なるほど。目に見える結果が出たからですね」

アルテミス「そうだ。そして、人々が彼を『先生』と崇め始めたその時、彼は初めてこう言ったのだ。『この素晴らしい教えは、全てイスラムの教えなのです』と。人々は、もはや彼の言葉を疑わなかった。ファードが最初に与えた『豚肉を食べない』という、簡単で、リスクがなく、すぐに効果が出るアドバイス。それこそが『ミルク』だ。そして、イスラムの教義こそが、彼が本当に売りたかった『肉』なのだ。彼は、ミルクで赤子を育ててから、肉を与えたのだ」

☆教科書分析：マルコムXが信者を爆発的に増やした「ミルクと肉」の使い分け

アルテミス「この手法は、彼の後継者たちによってさらに洗練された。若き日のマルコムXは、情熱に燃えるあまり、会う人すべてに『白人は悪魔だ！』という過激な教義（肉）をぶつけていた。当然、人々は彼から離れていった。それを見た指導者のイライジャ・ムハンマドは、彼にこう言った。『赤子にミルクを与える前に、肉を与えるな』と」

マズオ「その言葉で、彼は変わったのですか」

アルテミス「そうだ。マルコムXは戦略を完全に切り替えた。彼はまず、人々の心に寄り添うことから始めた。『あなたは、白人から不当な差別を受け、悔しい思いをしているでしょう？』『この社会は、あなたから尊厳を奪おうとしている』。この、誰もが『イエス』としか答えようのない共感の言葉こそが、彼の『ミルク』だった。人々の心が開き、彼を信頼し始めた後で、彼は初めてネーション・オブ・イスラムの教義という『肉』を説いた。その結果、信者の数は爆発的に増加した。共感というミルクで警戒心を解き、教義という肉で魂を支配する。これぞ、人心掌握の極意だ」

☆マズオの実践：難解な政治思想を、誰もが飲み干す「ミルク」に変える方法

マズオ「僕のメルマガの場合、ミルクとは何になるのでしょうか……」

アルテミス「お前のブログで面白い記事を読んだ読者が、次に目にするのは『月額1000円の有料メルマガに登録！』という要求だ。これは肉だ。あまりにハードルが高い。お前は、その間に『ミルク』のステップを挟まねばならぬ。それは、無料で、リスクがなく、そして読者が『手に入れてよかった』とすぐに実感できるものでなければならない」

アルテミスは具体的な指示を出し始めた。

アルテミス「まず、無料のPDFレポートを作成しろ。タイトルは、『悪用厳禁！これを読むだけで「知ったかぶりインテリ」の嘘を1分で見抜く7つの論理的思考術』だ。どうだ、欲しくならないか？」

マズオ「……なりますね。僕が読みたいくらいです」

アルテミス「だろう。このレポートを、お前のブログの全記事の最後に、『無料でプレゼント』と大々的に告知するのだ。ただし、条件がある。手に入れるには、メールアドレスを登録しなければならない、と」

マズオ「メールアドレスと引き換えに……！これが、僕のミルクですか」

アルテミス「そうだ。これは『リードマグネット』と呼ばれる古典的な手法だ。そして、本当の勝負はここからだ。登録されたメールアドレスに、お前は自動でメールを送り続けるシステムを構築するのだ。『ステップメール』と呼ばれる仕組みだ」

☆無料コンテンツという名のミルク。小さな「イエス」を積み重ねる技術

アルテミスは、ステップメールの具体的な構成を語り始めた。

アルテミス「登録初日。まずは感謝の言葉と共に、約束通りPDFレポートを送る。そして、お前のペルソナに基づいた自己紹介を改めて行うのだ。『私は、既存の権威に背を向け、真理を探求するマズオ。これからあなたを、偽りの知性が蔓延るこの世界からの脱出へと導こう』とな」

アルテミス「2日目から6日目。毎日1通、ブログには書いていない、特別なコンテンツをメールで送るのだ。例えば、『プラトンはなぜ詩人を追放しようとしたのか？その現代的意味』『ニーチェの「永劫回帰」を誤解しないための、たった一つのポイント』といった、短くとも知的好奇心を強烈に刺激する内容だ。ここでは、決して売り込みはするな。ひたすら価値を提供し続け、読者の中に『このマズオという男のメールは、毎日読む価値がある』という信頼を育てるのだ」

アルテミス「そして、運命の7日目。ここで初めて、お前は『肉』を差し出す。メールの最後をこう締めくくるのだ。『これまで7日間、知の冒険を共にしてきたあなたなら、もうお分かりだろう。表層的な知識では、この複雑な世界を生き抜くことはできない。もし、あなたがさらに深く、本質的な知の核心へと旅を続けたいと願うのなら、そのための特別な地図を用意した場所がある。それが、私の有料メルマガ「教養としての政治思想」だ』と。そして、そこへ続く扉（登録リンク）を示すのだ」

俺は息を呑んだ。なんて巧妙な設計なんだ。

アルテミス「良いか、マズオ。これは、読者に『小さなイエス』を積み重ねさせる儀式なのだ。最初のイエスは、『無料PDFが欲しい』。次のイエスは、『メールアドレスを登録する』。次のイエスは、『毎日のメールを開封する』。毎日毎日イエスを言わせ続け、7日後には、彼らは『有料メルマガに登録する』という最後の大きなイエスを言うことに、何の抵抗も感じなくなっている。ミルクに慣れた赤子が、自然と肉を欲するようにな」

俺は、13年間自分がやってきたことが、いかに稚拙で、一方的な押し付けであったかを痛感した。読者の心理を無視し、自分のコンテンツの価値だけを信じていた。そうじゃない。読者の心の扉を、一段一段、丁寧に開けていく必要があったのだ。

俺はすぐにパソコンに向かい、無料PDFレポートの制作に取り掛かった。それは、読者のための「ミルク」であると同時に、俺自身が過去の愚かな自分と決別するための、最初の儀式でもあった。

第5章【第5の秘儀】トリックスター（詐欺師）になれ！

☆アルテミスの教え：常識の破壊者だけが、人々の記憶に残る

無料PDFレポートとステップメール。アルテミスに授けられた「ミルクと肉」の戦略は、驚くべき効果を発揮した。メールアドレスの登録者は順調に増え続け、そしてついに、ステップメールを終えた読者の中から、記念すべき最初の有料メルマガ登録者が現れたのだ。

マズオ「アルテミス様！やりました！有料読者、1名です！13年目にして、初めての収益です！月額1000円！」

俺は興奮して叫んだ。たった1000円。だが、それは俺にとって、4000万円の借金よりも重く、そして輝かしい1000円だった。その後も、ぽつり、ぽつりと登録者は増え、1ヶ月後には5人になっていた。月収5000円。ウーバーイーツの数時間分。それでも、自分の「知」が初めて金に変わったという事実は、俺の心を震わせた。

だが、アルテミスの表情は晴れなかった。

アルテミス「5人か。大海に注がれた、涙一滴ほどの成果だな。マズオよ、お前はまだ『良い子』のままだ。常識という名の檻の中で、行儀よく戦っているに過ぎぬ。その檻を破壊せぬ限り、お前は永遠にその他大勢のままだ」

マズオ「檻を、破壊……？」

アルテミス「そうだ。第5の秘儀を授けよう。お前は、ただの反逆者では足りぬ。人々を煙に巻き、常識を嘲笑い、世界を引っ掻き回す『トリックスター（詐欺師）』と化すのだ」

マズオ「詐欺師、ですか！？僕は読者を騙したくはありません！」

アルテミス「愚か者め。ここで言う詐欺師とは、単なる嘘つきのことではない。神話の世界に必ず登場する、善と悪の彼岸に立ち、悪戯によって世界に混沌と創造をもたらす存在のことだ。人々は、予測可能なものを愛さない。すぐに飽き、忘れ去る。だが、予測不能なもの、常識を裏切るものには、目を奪われ、心をかき乱され、そして記憶に刻み込む。お前は、読者の予測を裏切り、彼らを心地よい混乱の渦に叩き込むのだ」

☆教科書分析：ローリング・ストーンズは「ビートルズの逆」をやることで伝説になった

アルテミスは、教科書のあるページを俺の目の前に突きつけた。そこには、対照的な2つのバンドの写真が並んでいた。一つは、揃いのスーツに身を包み、にこやかに微笑む4人組。もう一つは、薄汚れた服を着て、不機嫌そうにカメラを睨みつける5人組。

アルテミス「1960年代、ビートルズは音楽界の絶対的な『常識』だった。彼らは礼儀正しく、清潔で、親しみやすい。老若男女から愛される優等生だ。そんな中、後から出てきたローリング・ストーンズはどうやって彼らに対抗したか？より良い曲を書こうとしたか？より上手い演奏をしようとしたか？違う」

マズオ「では、どうやって……」

アルテミス「彼らのマネージャー、アンドリュー・ルーグ・オールダムは、トリックスターだった。彼は、ビートルズという巨大な『常識』を、そっくりそのまま『反転』させたのだ。ビートルズが優等生なら、ストーンズは『不良』。ビートルズが清潔なら、ストーンズは『不潔』。ビートルズが愛を歌うなら、ストーンズは『悪魔を憐れむ歌』を歌う。彼は、『ビートルズのようになろう』とするのではなく、『ビートルズの真逆になろう』と決めた。その結果、親たちが眉をひそめる『危険な』ストーンズは、ビートルズの優等生ぶりに飽き飽きしていた若者たちの熱狂的な支持を集め、伝説となった。これが『常識の反転（インバート・ノームズ）』だ」

☆教科書分析：売れない服を完売させたマーク・エコーの「自作自演」戦略

アルテミス「もう一つ、トリックスターの悪戯を教えてやろう。マーク・エコーというファッションデザイナーの話だ。彼は、自分のブランドの服を大手百貨店メイシーズに置いてもらうという千載一遇のチャンスを得た。だが、全く売れなかった。このままでは契約を打ち切られ、彼の夢は終わる」

マズオ「絶体絶命ですね……」

アルテミス「そこで彼は、トリックスターの仮面を被った。彼は、自分が雇っていたストリートチームの若者たちに現金を渡し、こう命じた。『メイシーズに行って、俺の服を全部買ってこい』と」

マズオ「なっ……！自作自演じゃないですか！」

アルテミス「その通り。数日後、メイシーズの担当者は驚いた。全く売れていなかったはずのエコーの服が、完売しているのだ。『これは、我々が気づいていないだけで、ストリートでは爆発的な人気になっているに違いない』。そう勘違いしたメイシーズは、前回の何倍もの追加発注を出した。そして、売り場が拡大され、目立つ場所に置かれたことで、今度は本物の客が彼の服を買い始めた。エコーは、最初に『完売』という偽りの『勢い』を捏造することで、本物の成功を呼び込んだのだ。これが『勢いの捏造（マニュファクチャー・モメンタム）』だ。人は、人気のあるものに群がる。ならば、最初にその『人気』を自ら作り出してしまえばいい」

☆マズオの実践：炎上を恐れるな。ニュースを「作る」側になれ

アルテミスは俺を睨みつけた。

アルテミス「さて、マズオよ。お前のブログはどうか？相変わらず、真面目で、正しくて、そして退屈なことばかり書いておる。お前の読者は、お前の次の記事の内容を、おおよそ予測できてしまう。それではダメだ。彼らの脳を揺さぶり、混乱させ、そして『この男、次は一体何を言い出すんだ！？』と病みつきにさせねばならぬ」

マズオ「僕に、トリックスターになれと……。具体的には、何をすればいいんですか？」

アルテミスは、悪戯っぽく口の端を吊り上げた。

アルテミス「まず、『常識の反転』だ。お前の業界の常識は何か？『教養は素晴らしい』『古典を読むべきだ』。これだろう？ならば、その真逆を叫べ。次のブログ記事のタイトルはこうだ。『【悲報】読書は時間の無駄。なぜ東大卒の僕が、本を1000冊捨てて成功したのか』」

マズオ「な……！そんなことを書いたら、これまで僕を支持してくれた読者まで離れていってしまいます！炎上しますよ！」

アルテミス「それこそが狙いだ！炎上は、注目という名の最高の燃料だ。もちろん、記事の中身まで嘘を書けと言っているのではない。導入で『私は先日、書斎にあった本を1000冊処分した』と衝撃的な告白をしろ。そして、読者を混乱のどん底に突き落とした後で、こう続けるのだ。『なぜなら、ただ漫然と知識を詰め込むだけの凡庸な読書は、百害あって一利なしだからだ。今、我々に必要なのは、本質を見抜き、現実を変える力を持つ「戦略的読書術」なのだ』と。そして、その方法論を語るのだ。どうだ？結局はいつもと同じ『読書は大事だ』という結論に導いている。だが、入り口で常識を破壊することで、この記事は爆発的に拡散されるだろう。人々は、お前を『ただの真面目な研究者』ではなく、『常識を疑う危険な思想家』として認識し始める」

俺はゴクリと唾を飲んだ。恐ろしい。だが、確かに効果がありそうだ。

アルテミス「次に、『勢いの捏造』だ。お前のメルマガが『一部のインテリ層の間で、密かなブームになっている』という『事実』を作り出す」

マズオ「どうやって……？」

アルテミス「簡単なことだ。匿名のSNSアカウントを5つ作れ。それぞれ、違う性別、年齢、職業のペルソナを設定しろ。そして、そのアカウント同士で、お前のメルマガについて会話させるのだ。『マズオって人のメルマガ、最近ヤバいらしいね』『わかる。〇〇大学の△△教授もゼミで紹介してたって聞いたよ』『有料だけど、値段以上の価値があるって評判だよね』。この、自作自演の会話のスクリーンショットを撮れ」

マズオ「スクリーンショットを……？」

アルテミス「そして、お前自身の公式アカウントで、そのスクリーンショットを投稿するのだ。そして、こう一言だけ添えろ。『何やら僕の知らないところで、面白いことになっているようだ…。いずれにせよ、本質を見抜こうとする仲間が増えるのは、悪いことではない』。どうだ？お前が自分で『僕のメルマガは凄い』と言うよりも、遥かに信憑性があり、そして『乗り遅れたくない』という人々の焦りを煽ると思わんか？」

それは、俺が今まで最も軽蔑してきた、卑劣で、欺瞞に満ちた行為だった。だが、アルテミスの言う通り、それが最も効果的であることも、痛いほど理解できた。

アルテミス「マズオよ、覚悟を決めろ。お前は、全ての人から愛される聖人君子になるのではない。一部から熱狂的に崇拝され、一部からは激しく憎悪される、毀誉褒貶の激しいトリックスターになるのだ。嫌われることを恐れるな。炎上を恐れるな。それらは全て、お前という物語を彩るための、最高のスパイスなのだから。さあ、どちらの悪戯から始める？」

俺は、震える指でキーボードに手を置いた。そして、新しいブログ記事のタイトルを打ち込み始めた。

「【悲報】読書は時間の無駄。」

もう、後戻りはできない。俺は、トリックスターになることを選んだのだ。

第6章【第6の秘儀】魔術師（メイガス）と崇められよ

☆アルテミスの教え：人は「奇跡」を信じたがる。ならば、お前が奇跡になれ

トリックスターとしてのマズオの悪戯は、良くも悪くも凄まじい反響を呼んだ。「読書は無駄」という挑発的なブログ記事は、SNSで大炎上した。無数の批判が寄せられたが、アルテミスの予言通り、その炎はマズオの名をかつてないほど広範囲に知らしめた。そして、記事の巧みな論理展開に感心した新たな読者層が、彼のブログとステップメールに殺到した。

自作自演の「口コミ」も効果てきめんだった。「一部で話題らしい」という雰囲気が醸成され、「乗り遅れまい」とする人々が次々と有料メルマガに登録。読者数は、ついに100人を突破した。月収10万円。ウーバーイーツの収入を超えた瞬間だった。

マズオ「アルテミス様、すごい……。炎上は怖かったですが、結果的に読者が10倍になりました。トリックスターの力、恐るべしです」

アルテミス「まだ入り口に過ぎぬ。注目を集めるだけでは、三流の道化師だ。一流のハイパーアーティストは、注目を『崇拝』へと昇華させる。第6の秘儀を授けよう。人は『奇跡』を信じたがる。ならば、お前が奇跡になれ。魔術師（メイガス）として、大衆の前に君臨するのだ」

マズオ「魔術師……ですか？僕に超能力はありませんが」

アルテミス「また言葉通りに受け取るか。ここで言う魔術とは、超常現象のことではない。人々が『常人には不可能だ』と信じ込むような物語を、お前自身の人生をもって体現することだ。人間は、論理やデータだけでは動かぬ。彼らの心を根底から揺さぶるのは、いつの時代も『偉大なる物語』だ。お前は、ただの物書きではない。お前自身の人生が、一つの壮大な神話でなければならぬ」

☆教科書分析：リチャード・ブランソンはなぜ命懸けで気球に乗ったのか

アルテミスは教科書の一節を指し示した。そこには、ヴァージン・グループの創業者、リチャード・ブランソンの写真が載っていた。

リチャード・ブランソン：画像引用元

アルテミス「この男は、ただの経営者ではない。彼は現代の冒険家だ。彼は、熱気球で大西洋や太平洋を横断するという、常軌を逸した挑戦に何度も身を投じた。なぜだと思う？ただのスリル狂いか？」

マズオ「宣伝のため、というのは聞いたことがあります」

アルテミス「その通り。だが、なぜそれが最高の宣伝になるのか、考えたことがあるか？彼が気球に乗ることで、航空会社のチケットが直接売れるわけではない。彼がやっているのは、もっと根源的なことだ。彼は、『リチャード・ブランソン』という人間を、『不可能を可能にする男』『常識の限界を超える英雄』という物語の主人公として、世界中の人々の脳裏に焼き付けているのだ」

マズオ「なるほど……！」

アルテミス「人々は、彼が経営する航空会社やレコード会社の商品を買う時、単なるサービスや商品を買っているのではない。彼らは、『リチャード・ブランソンという奇跡の物語』の一部になるためのチケットを買っているのだ。彼の挑戦は、彼自身を『奇跡の体現者』、すなわち魔術師へと変えるための、壮大な儀式なのだ。人は、平凡な経営者の言葉は聞かぬ。だが、命懸けで大西洋を横断した魔術師の言葉には、魔法のような力があると信じる」

☆教科書分析：トーマス・エジソンが発明した最高傑作は「エジソンという物語」だった

アルテミス「もう一人、偉大なる魔術師を紹介しよう。トーマス・エジソンだ」

マズオ「発明王ですね。彼は本物の天才でしょう」

アルテミス「天才ではあったろう。だが、彼の真の天才性は、発明そのものよりも、自分自身を『発明の魔術師』として売り出したことにある。教科書によれば、彼が発明したとされるものの多くは、実際には彼の部下が発明したり、あるいは他の発明家が先に着想を得ていたものだった。彼は、他人のアイデアを盗み、改良し、そして自分の手柄として発表する達人だった」

マズオ「そうだったんですか……」

アルテミス「だが、そんな事実は問題ではない。重要なのは、彼が作り上げた『物語』だ。彼は広報担当者を雇い、自分に都合の良い神話を積極的に流布させた。『エジソンは眠らない』『一日20時間研究に没頭する』『結婚式の当日でさえ、夜中まで研究室に籠っていた』。これらの逸話は、彼を人間離れした『努力の怪物』『知の魔術師』として人々の記憶に刻み込んだ。人々は、彼が作った電球のフィラメントの素材など気にしない。彼らが熱狂したのは、『メンロパークの魔術師』という、エジソン自身が発明した最高傑作の物語なのだ」

☆マズオの実践：マズオの人生を「偉大なる物語」に仕立て上げる

アルテミスは、俺の目を射抜くように見つめた。

アルテミス「マズオよ、お前の物語は何だ？『東大を出たけど失敗して、今はブログで小銭を稼いでいる男』か？そんな矮小な物語に、誰が魂を揺さぶられる？お前は、お前の過去、現在、未来の全てを再編集し、一つの偉大なる神話として語り直さねばならぬ」

マズオ「僕の人生を、神話に……？」

アルテミス「そうだ。お前は、自分のペルソナを『孤高の反逆哲学者』と定めたな。ならば、そのペルソナに相応しい『オリジン・ストーリー（起源の物語）』を創造するのだ。お前の過去は、もはや単なる失敗の連続ではない。それは、偉大なる使命に目覚めるための『試練の旅』だったのだ」

☆平凡な実績を「奇跡の軌跡」に見せるストーリーテリング術

アルテミスは、俺の人生を神話に変えるための具体的な脚本を語り始めた。

アルテミス「まず、お前のプロフィールを書き換えろ。こうだ。『東京大学大学院で知の頂を目指すも、既存アカデミズムの権威主義と欺瞞に絶望。自ら博士の道を捨て、真理を探求すべく在野に下る。あらゆる俗世の名誉を捨て、ウーバーイーツの配達員として社会の最底辺を彷徨いながら、現代人が失った「本物の教養」とは何かを問い続けた。13年間の孤独な思索の果てに、ついに独自の思想体系「マズオ・メソッド」を確立。その教えは、口コミだけで熱狂的な支持者を集め、今、知の革命前夜を告げている』。どうだ？ただの経歴が、英雄の叙事詩に聞こえんか？」

俺は鳥肌が立つのを感じた。借金の話はどこにもない。ただのドロップアウトが、「自ら道を捨てた」という主体的な決断に変わっている。ウーバーイーツのバイトが、「社会の最底辺を彷徨う思索の旅」になっている。全ては事実だが、事実の「見せ方」を完全にコントロールしている。

アルテミス「次に、お前の実績を『奇跡』として語れ。有料読者が100人？違う。『何の広告も打たず、ただ本質的な知の発信のみで、わずか数ヶ月のうちに100人の熱心な門下生が集った』のだ。月収10万円？違う。『彼の言葉には、人々が自ら財布を開いてでも手に入れたいと願うほどの価値があることの証明』なのだ」

アルテミス「そして、未来を語れ。お前のメルマガは、もはやただのメルマガではない。それは、『偽りのインテリが支配する現代社会に、本物の知性の光を取り戻すための革命運動』なのだ。読者は、ただの読者ではない。彼らは、その革命に参加する『同志』なのだ。お前は、彼らに知識を与えるだけではない。彼らを、偉大なる物語の登場人物として『キャスティング』するのだ」

俺は、自分がこれから何をすべきかを完全に理解した。俺は、もはやコンテンツを作るだけの人ではない。俺は、俺自身の人生を最高のコンテンツとし、それを人々に語り聞かせる「神話の語り部」にならなければならない。

アルテミス「良いか、マズオ。人は正しいものを信じるのではない。信じたい物語を信じるのだ。お前は、人々が信じたくなるような、最も魅力的で、最も英雄的な物語の主人公になれ。お前が魔術師となった時、人々はお前の言葉を『教え』ではなく『神託』として受け取るだろう。さあ、今すぐお前の神話の第一章を書き記すのだ！」

その日から、俺は自分の過去を語る言葉を全て変えた。失敗は試練に、屈辱は孤独な探求に、貧乏は俗世からの超越に。俺は、俺という名の神話を創造し始めた。そして、人々がその神話に熱狂し始めるまでに、そう時間はかからなかった。

第7章【第7の秘儀】人々の心の「空白」を見つけ、それを埋めよ

☆アルテミスの教え：大衆は常に何かを渇望している。その渇きを癒す泉となれ

「在野の反逆哲学者、マズオ」という神話。それは、俺自身が創造した物語でありながら、俺自身を強く規定し始めた。黒のタートルネックは第二の皮膚となり、思索的な沈黙は俺の標準的なコミュニケーションスタイルとなった。そして、その物語は、磁石のように人々を惹きつけた。

ブログのアクセス数は安定して高い水準を維持し、有料メルマガの読者は300人を超えた。月収30万円。ついに、ウーバーイーツのバイトを辞めることができた。13年ぶりに、自分の「知」だけで生活できるようになったのだ。その事実は、何よりも俺の心を震わせた。

マズオ「アルテミス様、僕の物語は、人々に受け入れられています。僕の言葉に、人々が耳を傾けてくれるようになりました」

アルテミス「結構なことだ。だが、まだ足りぬ。お前は、お前の物語に興味を持った者たちを集めているに過ぎぬ。真の支配者は、人々の心の奥底にある『渇き』そのものを支配する。第7の秘儀は、その渇きを見つけ出し、お前だけがそれを癒せる泉となる術だ。人々の心の『空白』を見つけ、それを埋めよ」

マズオ「心の、空白……ですか？」

アルテミス「そうだ。人間とは、不完全な生き物だ。常に何かを失い、何かに満たされず、漠然とした不安と欠乏感を抱えて生きている。満足している人間など、この世には一人もおらぬ。そして、その『空白』こそが、ハイパーアーティストにとって最大のビジネスチャンスなのだ。人々が何を欲しているのか、何に飢えているのかを正確に見抜き、その空白を埋めるための『完璧な答え』を提供できれば、彼らは喜んでお前の奴隷となるだろう」

☆教科書分析：なぜ19世紀のアメリカで「降霊術」が大流行したのか

アルテミスは教科書のあるページを指し示した。そこには、薄暗い部屋でテーブルを囲む、ヴィクトリア朝時代の人々の絵が描かれていた。

アルテミス「19世紀半ばのアメリカで、フォックス姉妹という少女たちが始めた『降霊術』が、一大ブームを巻き起こした。死者と交信できるという、今から考えれば荒唐無稽な見世物だ。なぜ、これほど多くの人々が熱狂したと思う？」

マズオ「死んだ家族に、もう一度会いたかったからでしょうか」

アルテミス「それもある。だが、もっと大きな時代の『空白』があったのだ。当時のアメリカは、産業革命の真っ只中。科学技術が急速に進歩し、鉄道が大地を覆い、電信が時間を超越した。人々は、昨日までの常識が通用しない、急激な変化の渦に放り込まれていた。そして、追い打ちをかけるように南北戦争が勃発し、数えきれないほどの若者が命を落とした。伝統的な宗教や家族という拠り所が揺らぎ、人々は『自分たちはどこへ向かっているのか』という巨大な不安、巨大な『空白』を心に抱えていたのだ」

マズオ「なるほど……。時代の転換期だったんですね」

アルテミス「そうだ。そんな中、降霊術は、その空白を埋めるための完璧な『答え』を提供した。それは、『死は終わりではない』『愛する者との絆は、科学や戦争ごときでは断ち切れない』という、甘美なメッセージだ。人々は、死者と交信できたかどうかなど、本当はどうでもよかったのだ。彼らが欲しかったのは、変化の激しい不確実な世界の中で、決して揺らぐことのない『繋がり』という名の安心感だった。フォックス姉妹は、人々の心に空いた巨大な穴を見つけ、それを『死者との対話』という幻想で完璧に埋めてみせたのだ」

☆教科書分析：ティモシー・フェリスは現代人の「会社から逃げたい」という空白を埋めた

アルテミス「現代に目を転じてみよう。ティモシー・フェリスという男がいる。彼の著書『週4時間だけ働く。』は、世界的なベストセラーとなった」

ティモシー・フェリス：画像引用元

マズオ「ええ、僕も読みました。正直、書いてあることを実践するのは非常に難しいと感じましたが……」

アルテミス「実践できるかどうかなど、問題ではない。重要なのは、彼が現代人のどんな『空白』を見つけたかだ。21世紀初頭、多くのホワイトカラーは、満員電車に揺られ、意味を見出せない仕事に1日の大半を費やし、魂をすり減らしていた。『もっと自由な生き方があるはずだ』『こんな人生のために生まれてきたわけじゃない』。誰もが心の奥底で感じていたこの巨大な不満、この『空白』に、フェリスは気づいたのだ」

マズオ「そして、その空白を埋める答えとして、『週4時間だけ働く』というライフスタイルを提示した、と」

アルテミス「その通りだ。彼の本を読んだ人間の99%は、週4時間労働など実現できておらん。だが、彼らは熱狂的にフェリスを支持し続ける。なぜなら、彼は『会社という牢獄から脱出できるかもしれない』という、希望という名の『答え』を与えてくれたからだ。たとえそれが幻想であったとしても、人々はその幻想に金を払い、彼を救世主として崇める。彼は、現代のサラリーマンの心に空いた『自由への渇望』という穴を、完璧に埋めてみせたのだ」

☆マズオの実践：「教養」に飢えた現代人の心に潜む巨大な空白

アルテミスは、俺の魂を見透かすような目で言った。

アルテミス「マズオよ、お前が集め始めた読者たちの、心の『空白』は何だ？彼らは、なぜ小難しい政治思想などというものに興味を持つ？彼らは、一体何に飢えているのだ？」

俺は考えた。俺の読者たちは、知的好奇心が旺盛だ。だが、それだけだろうか？彼らが本当に求めているものは……。

マズオ「……分かりました。彼らが感じているのは、『確固たる自分を持っていない』という不安です」

アルテミス「ほう。詳しく言ってみよ」

マズオ「現代は、情報が溢れすぎています。SNSを開けば、あらゆる人があらゆる意見を叫んでいる。何が正しくて、何が間違っているのか、判断の基準がない。多くの人は、他人の意見や流行に流されるだけで、自分の頭で物事を考え、自分の言葉で世界を語るための『軸』を持っていない。彼らは、そのことに無意識に気づいていて、深い不安と劣等感を抱えている。それが、彼らの『空白』です」

アルテミスの口元が、満足げに歪んだ。

アルテミス「見事だ。それこそが、お前が支配すべき『空白』だ。お前は、その空白を埋めるための、唯一無二の『答え』とならねばならぬ」

☆「絶対的な指針」を提示し、迷える子羊たちの救世主となる

マズオ「僕のメルマガが、その『答え』になる、ということですか」

アルテミス「そうだ。だが、単なる知識の切り売りでは足りぬ。お前は、お前の思想体系を、人生のあらゆる問題に応用可能な『万能の羅針盤』として提示するのだ。アイン・ランドが『オブジェクティビズム』という哲学体系を創造したようにな」

アルテミスは、具体的な戦略を授け始めた。

アルテミス「まず、お前の思想体系に、覚えやすく、そして権威のある名前をつけろ。『マズオ・メソッド』などという安っぽい名前ではない。例えば、『構造的リアリズム』あるいは『批判的教養主義』といった、学術的な響きを持つ名が良い」

アルテミス「次に、その思想体系を説明するための、独自の『専門用語』を創造しろ。例えば、情報に流されるだけの人間を『知的浮遊層』と名付け、自分の頭で考える人間を『理性の主権者』と呼ぶ。読者に、その専門用語を使わせるのだ。同じ言葉を共有することで、彼らは『我々は、特別な知識を持つ選ばれた共同体の一員だ』という強烈な帰属意識を持つようになる」

アルテミス「そして、最も重要なことだ。お前は、決して『多様な意見があります』などと、物分かりの良いことを言うな。常に断定しろ。『この問題の答えは、これ以外にない』『私の理論に従えば、全ての迷いは消え去る』。お前は、読者に考える材料を与えるのではない。考える手間を省いてやるのだ。不確実な世界の中で、人々が最も欲しているのは、自由な選択肢ではない。彼らが従うべき、絶対的で、揺るぎない『指針』なのだ」

俺は、背筋が凍るのを感じた。それは、学問の対極にある態度だった。多様な視点を認めず、一つの答えを絶対視する。それは、もはや思想ではなく、宗教だ。

アルテミス「そうだ。お前は、学者になるのではない。教祖になるのだ。情報の大海で溺れかけている迷える子羊たちに、『これこそがお前たちが掴まるべき唯一の岩だ』と示してやるのだ。彼らは、その岩に喜んでしがみつき、お前を救世主として崇めるだろう。さあ、お前の『聖書』の執筆を始めるのだ。お前の思想体系をまとめ、それを絶対的な真理として布教するのだ！」

俺は、自分がとてつもなく危険な領域に足を踏み入れようとしていることを自覚した。だが、同時に、抗いがたいほどの興奮と全能感を覚えていた。人々の心の空白を支配する。それは、神にしか許されない所業のように思えた。そして俺は、その神になるための道を、歩み始めていた。

第8章【第8の秘儀】すべてを「科学的」に見せかけよ

☆アルテミスの教え：人は「科学」という言葉にひれ伏す。権威を偽装せよ