本教材の定価は「3万円」です。

【本教材の価格について】
本教材の定価は「3万円」です。
しかしながら公開から3日は「300円」で提供いたします。
これは先行者に報いるための価格設定です。
私は、アーリーアダプターを「えこひいき」します。

【本教材の概要】

本書を手に取っていただき、ありがとうございます。

・この教材は一体何なのか？
・誰の、どんな問題を、どう解決するものなのか？

本編に入る前に、その全体像を簡潔にご説明します。

本書は「キャラクター創造の教科書」であり、「物語で富を築くためのビジネス書」です
この教材は、単なる創作論の解説書ではありません。ロバート・マッキーの世界的名著『Character: The Art of Role and Cast Design for Page, Stage, and Screen』のエッセンスを、「神と貧乏脚本家」の対話形式で分かりやすく読み解きながら、その理論を現実のビジネスに応用し、莫大な富を生み出すまでのプロセスを具体的に描いた、全く新しいタイプのハイブリッド教材です。
「キャラクターが薄っぺらい」と悩む、すべての創作者のために書かれました
「自分のキャラクターには魂が感じられない」「読者や観客の心に響かない」「ありきたりで、どこかで見たような人物しか生み出せない」…そんな悩みを抱える脚本家、小説家、漫画家、ゲームクリエイターなど、物語を創るすべての人々が本書の対象です。
「矛盾」「次元」「対立」といった概念を用いて、キャラクターに「魂」を吹き込みます
本書では、なぜあなたのキャラクターが魅力的でないのか、その根本原因を徹底的に分析します。そして、「矛盾こそがキャラクターの命である」という核心的な原理に基づき、キャラクターに深みと複雑さを与える「次元」の設計方法や、物語を駆動させる「対立」の構造化など、誰でも実践可能な具体的な技術と考え方をステップ・バイ・ステップで解説します。
最終的には、創造したキャラクターを「収益化」する道筋を示します
優れたキャラクターは、エンタメの枠を超え、人々の心を動かし、巨大な経済圏を生み出す「資産」となり得ます。本書の後半では、ハリー・ポッターやスター・ウォーズといった超大作のキャラクター戦略を分析し、さらに、貧乏脚本家であるマズオが「愛国インフルエンサー：ヤマト・タケル」という架空の人格（キャラクター）を創造し、コンテンツビジネスで巨万の富を築く驚くべき事例を描きます。これにより、あなたの創造性が、いかにして現実的な「富」と「影響力」に転換され得るのか、その具体的な道筋を学びます。

【本教材を作った理由】

数多ある創作論の中から、なぜ今、あえて「キャラクター」に特化した、そしてこれほどまでに実践的（かつ少々過激な）教材を世に送り出す必要があったのか。そこには、2つの切実な理由があります。

1. 「キャラクターとは何か？」という根源的な問いに、誰もが使える答えを示したかった
物語を創る上で、「キャラクターが命だ」ということは、誰もが口にします。しかし、「どうすれば魂を吹き込めるのか？」という最も重要な問いに対して、多くの創作者は曖昧な感覚論や才能論でごまかしてきました。私自身、かつての主人公マズオのように、出口のない暗闇を長年彷徨い続けました。本書は、その暗闇に差し込む一筋の光です。ロバート・マッキーの叡智を借り、「キャラクターとは矛盾を抱えた芸術である」「真実は選択によってのみ語られる」といった、具体的で実践可能な原理原則を提示することで、才能の有無に関わらず、誰もが論理的に「魂を持つキャラクター」を創造できる道筋を示したい。それが、本書を執筆した第一の動機です。
2. 「お金になるキャラクター」の作り方を、本気で伝えたかった
素晴らしい作品を創っても、それが正当な対価に結びつかず、活動を継続できなくなるクリエイターを、数多く見てきました。その一方で、決してクオリティが高いとは言えないキャラクターや物語が、巧みな戦略によって莫大な富を生み出している現実もあります。この差は一体何なのか？それは、キャラクターを「作品」としてだけでなく、「資産」として捉える視点の有無です。本書の後半、特に「マズオの大いなる飛躍」のパートは、キャラクター創造の技術が、いかにして強力なビジネスモデルになり得るかを解き明かすために書かれました。物語の力で人々の「渇望」や「不安」に応え、そこに「価値」を生み出し、正当な（あるいは、それ以上の）対価を得る。これは、決して汚いことではありません。むしろ、資本主義社会を生きるクリエイターにとって必須のサバイバル術です。この「キャラクターの収益化」という、多くの人が語りたがらないが極めて重要なテーマに、真正面から切り込むこと。それが、本書を執筆した第二にして、最大の理由です。

【なぜ「対話形式」なのか ────本教材の構成について】

本書を開いて、神と貧乏脚本家マズオによる奇妙な対話が始まったことに、少し戸惑われたかもしれません。なぜ、通常の教科書のように、要点を整理した形式を取らなかったのか。それには、本書のテーマそのものに関わる、明確な理由があります。

1. 知識は「物語」に乗せることで、初めて血肉となるからです
キャラクター創造の理論は、非常に抽象的で複雑です。もし本書が、論文のように無味乾燥な事実や法則の羅列で構成されていたら、おそらくあなたの頭にはほとんど残らないでしょう。それは、人間の脳が、単なる情報の断片よりも、感情や因果関係で結ばれた『物語』を記憶し、理解するようにできているからです。私たちは、「テストに出るから」という理由で年号を覚えるのは苦痛ですが、『キングダム』を読めば、春秋戦国時代の武将の名前や出来事をいとも簡単に覚えてしまいます。
2. あなたに「生徒マズオ」として、神の授業を追体験してほしかったからです
この物語の主人公は、才能がなく、お金もなく、自信もない、かつての私自身であり、そして、これを読んでいる「あなた」自身の分身でもあります。あなたは、生徒マズオの視点を通して、彼の初歩的な疑問、素朴な感動、そして打ちのめされるような絶望を、安全な場所から『追体験』することができます。彼が神マーベリックに叱咤され、少しずつ覚醒していくプロセスを共に歩むことで、難解な理論が、あなた自身の血肉となり、実践的な知恵へと変わっていくのです。
3. 「キャラクターが生まれる瞬間」そのものを、物語として描きたかったからです
本書は、キャラクターの作り方を解説する本であると同時に、本書自体が一つの「キャラクターが生まれる物語」でもあります。最初はただの記号でしかなかったマズオが、神との対話を通じて悩み、葛藤し、変化していく。そして最終的には、彼自身が「ヤマト・タケル」という強力なキャラクターを創造する創造主へと変貌を遂げる。この構造自体が、本書で解説している理論…「キャラクターの変化の軌跡こそが、物語の背骨となる」…という教えを、身をもって体現しているのです。

理論を学ぶ最良の方法は、その理論が実践される物語を体験することです。だからこそ、本書はあえて「対話形式」という物語の形を取りました。どうか、リラックスして、神と貧乏脚本家マズオの奇妙な対話を楽しんでください。物語が終わる頃には、キャラクター創造のための最も重要なエッセンスが、あなたの魂に深く刻み込まれているはずです。

【本教材を読み終えたとき、あなたが手に入れるもの】

この一冊を読み終えた後、あなたの創作活動、そしてビジネスへの考え方は、以前とは全く違う次元に立っていることをお約束します。具体的に、あなたは以下の5つの強力な資産を手に入れているはずです。

1. 感覚や才能に頼らない、「キャラクター創造の設計図」が手に入ります
もう二度と、「面白いキャラクターが思いつかない…」と白いページの前で頭を抱えることはありません。本書で解説する「矛盾（次元）」「対立」「アーキタイプ」といった具体的なツールを使えば、まるで建築家が設計図を描くように、論理的かつ体系的に、読者の心を掴んで離さない魅力的なキャラクターをゼロから生み出すことができるようになります。
2. あなたの創造性を「莫大な富」に変える、ビジネスモデルが理解できます
優れたキャラクターは、ただの作品の一部ではありません。それは、人々の心を動かし、巨大な経済圏を生み出す可能性を秘めた「資産」です。本書の後半では、キャラクターという資産をいかにして収益化するか、その具体的な戦略と心理学的なアプローチを徹底解説します。あなたは、自分の創造性が持つ本当の価値に気づき、それを正当な富に変えるためのロードマップを手に入れることができます。
3. 最小の労力で最大の成果を上げる、「稼ぐ力」が身につきます
多くの人が、がむしゃらに努力しても稼げないのは、消費者が何を求めているかを理解していないからです。本書を通じて、あなたは「商売の本質とは他者を喜ばせるゲームである」という原理原則を学びます。これにより、あなたは顧客の「渇望」や「不安」に的確に応える物語（商品）を創り出せるようになります。結果として、無駄な努力をすることなく、人々から感謝されながら、楽に、そして継続的に収益を上げ続けることが可能になります。
4. 明日から「何をすればいいか」が、具体的にわかります
本書は、抽象的な理論を語るだけではありません。「キャストマップを描く」「キャラクターのMO（人生の手口）を特定する」「主人公の八つの資質をチェックする」など、今日からすぐに実践できる、具体的なアクションプランに満ちています。もう、「何をすればいいか分からない」という迷いの状態から解放され、自信を持って創作とビジネスに取り組むことができます。
5. あなたの人生における「無駄な時間と失敗」を劇的に減らすことができます
多くの創作者が、間違った方向に努力を続け、貴重な時間と情熱を浪費しています。本書は、過去何千年にもわたって語り継がれてきた物語の法則と、現代資本主義のルールを組み合わせた、いわば「成功への最短ルート」を示す地図です。この地図を手にすることで、あなたは多くの人が陥る失敗の罠を避け、最短距離で「多くの人に愛される物語を創り、豊かに生きる」という目標を達成することができるようになるでしょう。

【私は目先のお金よりも「信頼」を取る】

本書で解説している「キャラクター創造の錬金術」や「物語による収益化モデル」は、非常に強力な知恵です。もしかしたら、あなたはこう思われたかもしれません。「これほど有益な情報を、なぜ安易に公開してしまうのか？独り占めしておけば、もっと儲かるのではないか？」と。

その疑問はもっともです。しかし、私が本書を公開することを選んだのには、現代におけるビジネスの、ある重要な構造変化に基づいた、明確な戦略があります。

1. 「情報を隠す」ことで利益を得る時代は、終わりました
かつて、情報は希少で価値あるものでした。一部の人間だけが知る「秘伝のタレ」のような情報を持っていることが、ビジネスにおける絶対的な優位性でした。だからこそ、「有益な情報は隠しておけ、独り占めしておけ」という考え方が常識だったのです。しかし、インターネットが普及した現代において、この発想は完全に時代遅れとなりました。
2. 現代は、誰もが「信頼できる情報の発信源」を探している時代です
現代は、情報そのものではなく、「どの情報を信じればいいのか」が問われる、情報氾濫の時代です。あらゆる情報が無料で手に入る今、人々がお金を払ってでも手に入れたいと願うのは、単なる知識の断片ではありません。それは、無数の情報の中から本当に価値あるものを選び出し、分かりやすく体系立てて示してくれる『信頼できる発信源』そのものなのです。
3. 長期的に最も得をするのは、「信頼」をいち早く手に入れた者です
このような時代において、最も賢明な戦略とは何でしょうか？それは、誰よりも速く、そして誰よりも惜しみなく、有益な情報を世に出すことです。そうすることで、その他大勢の情報発信者の中から突き抜け、「この人は本物だ」という圧倒的な『信頼』を手に入れることができます。そして、一度この「信頼」という名の資産を築き上げれば、あなたのビジネスは、目先の利益とは比べ物にならないほど、長期的に、そして爆発的にスケールしていくのです。
4. 私は、あなたからの「信頼」を得るために、すべてを公開しました
目先のお金のために情報を小出しにしたり、隠したりする者は、短期的には利益を得るかもしれません。しかし、いずれ現れる、より気前の良い情報発信者に、その顧客と信頼を根こそぎ奪われることになります。情報を隠す者は長期的に見て、必ず損をするのです。
だからこそ、私は今回、自分が持つキャラクター創造とビジネスに関する知恵のすべてを、この一冊に注ぎ込みました。それは、あなたに「この教材は、支払った対価を遥かに超える価値があった」と心から感じていただき、私という発信源に対する、揺るぎない『信頼』を寄せていただくためです。

この「信頼」こそが、私にとっても、そして本書を手に取ってくださったあなたにとっても、未来における最も価値ある資産になると、確信しています。

【あなたは、ただ物語を読み通すだけでOK】

本書の構成や目的について、ここまで様々な説明をしてきました。しかし、あなたがこれからすべきことは、実はたった一つしかありません。それは、これから始まる「神マーベリックと貧乏脚本家マズオ」の物語を、ただリラックスして読み通すことです。

1. 難しい理論を、無理に暗記しようとする必要はありません
本書は、あなたの脳が最も自然に情報を受け取れる「物語形式」を採用しています。あなたは、マズオと共に神の授業を体験するだけで、キャラクター創造のための複雑な概念が、自然と頭に入ってくるように設計されています。分厚い教科書を必死に暗記するような苦痛は、一切必要ありません。
2. 物語を楽しみながら、いつの間にか「売れる型」が体に染み込みます
この物語を一度読み終えれば、あなたは「お金になるキャラクター」の作り方の全体像を、論理的に理解しているはずです。さらに、本書を何度も繰り返し読むことを強くお勧めします。そうすることで、本書のエッセンスはあなたの意識レベルから、より深い『無意識』のレベルへと浸透していきます。
3. あなたは「努力なし」で、結果を出せるようになります
本書の内容が無意識のレベルまで到達した時、あなたはもはや「キャラクターの作り方」をいちいち考えたり、思い出したりする必要はなくなります。まるで呼吸をするかのように、ごく自然に、人々の心を惹きつけるキャラクターを生み出し、それを収益に繋げるための行動が取れるようになっているでしょう。
4. 最短1ヶ月で、あなたの創造性は「お金」に変わります
この状態になれば、結果が出るのは驚くほど早いはずです。例えば、全く新しいSNSアカウントを立ち上げて、本書の理論に基づいたキャラクター（あなた自身でも、架空のインフルエンサーでも構いません）を創造し、コンテンツを発信し始める。そこから、最初の収益が発生するまでにかかる時間は、おそらく1ヶ月から、長くても3ヶ月程度になるでしょう。

さあ、準備はよろしいでしょうか。
難しいことは何もありません。あなたはただ、これから始まる物語のページをめくっていくだけで良いのです。
それでは、神と貧乏脚本家マズオの、奇妙で壮大な物語の世界へ、どうぞお進みください。

【全目次について】

本書をご購入いただく前に、あなたに一つ、ご確認いただきたいことがあります。以下に、本編の「全目次」をすべて公開しています。

1. なぜ、中身がわかるほどの「詳細な目次」を公開するのか
通常、書籍や情報商材の目次は、興味を引くために抽象的に書かれていたり、あるいは購入するまで隠されていたりします。しかし、それでは購入した後に「思っていた内容と違った…」という不幸なミスマッチが起こりかねません。それでは、あなたの大切な時間とお金を無駄にしてしまいます。
2. あなたに、100%納得した上で、この旅を始めてほしいから
そこで私は、本書の「何を」「どの順番で」「どのように」解説していくのかが、手に取るように分かる、極めて詳細な目次をすべて公開することにしました。各章でどんな対話が繰り広げられ、どんな核心的な知識が明かされるのか。その全貌を、まずはこちらでご確認ください。
3. この目次を読むだけで、あなたの創作への視点は変わり始めます
この目次リストは、単なる案内図ではありません。これ自体が、キャラクター創造論のエッセンスを凝縮したダイジェストになっています。おそらく、この目次を最後までご覧になるだけで、あなたのキャラクターや物語に対する考え方は、今この瞬間から少しずつ変わり始めるはずです。

もし、この詳細な目次を読んで、あなたの心が少しでも「面白そうだ」「もっと深く知りたい」と動いたなら、本書はあなたの期待を裏切らないことをお約束します。

それでは、まずは、これから始まる壮大な講義の全体像を、さらっとご覧になってください。

☑️全目次

1. 【本教材の概要】

2. 【本教材を作った理由】

3. 【なぜ「対話形式」なのか ────本教材の構成について】

4. 【本教材を読み終えたとき、あなたが手に入れるもの】

5. 【私は目先のお金よりも「信頼」を取る】

6. 【あなたは、ただ物語を読み通すだけでOK】

7. 【全目次について】

8. ☑️全目次

9. 🟦タイトル：『お金になるキャラクターの作り方：完全解説』

10. 【あらすじ】

11. 【登場人物の紹介】

12. 【本編：開始】

13. プロローグ：鳴かず飛ばずのマズオ、神と出会う

14. 第一部：キャラクター創作の神髄を知る

15. 第一話：キャラクターは「芸術作品」のようなもの

15-1. ☆キャラクターは人間ではなく、芸術作品である

15-2. ☆完成された存在と、発展途上の存在

15-3. ☆表現されることのすべて

15-4. ☆キャラクターは「死なない」

16. 第二話：物語が先か？キャラクターが先か？

16-1. ☆アリストテレスの呪い

16-2. ☆物語とキャラクターは、同じコインの裏表

16-3. ☆キャラクターリゼーションと真のキャラクター

16-4. ☆因果性の源泉を問え

16-5. ☆作家が持つべき視点

17. 第三話：作家よ、汝自身を知れ

17-1. ☆心得その一：凡庸さを憎む「嫌悪感」を持て

17-2. ☆心得その二：「知」への渇望を止めない

17-3. ☆心得その三：「独創性」の正体を誤解しない

17-4. ☆心得その四と五：観客を意識するエンターテイナーであれ

17-5. ☆心得その六と七：形式を敬い、陳腐を憎め

17-6. ☆心得その八：道徳的想像力を研ぎ澄ませ

17-7. ☆心得その九と十：理想の自分を演じ、汝自身を知れ

18. 第二部：無から有を生むキャラクター構築術

19. 第四話：世界は観察でできている（外側からのアプローチ）

19-1. ☆インスピレーションの五つの同心円

19-2. ☆現実という名の鉱脈

19-3. ☆「もしも…」が生み出す魔法

19-4. ☆テーマから逆算する愚

19-5. ☆キャラクターの過去という名の宝物庫

19-6. ☆キャラクター自身に語らせる

20. 第五話：君の内なる宇宙を旅せよ（内側からのアプローチ）

20-1. ☆役者になれ、第一の俳優たれ

20-2. ☆究極の『マジック・イフ』

20-3. ☆汝の内に潜む、観察者と行為者

20-4. ☆キャラクターを構成する四つの自己

20-5. ☆『MAD MEN』に学ぶ、四つの自己の実践

21. 第六話：「役割」を演じるだけの操り人形からの脱却

21-1. ☆空っぽの額縁に、魂の絵を描け

21-2. ☆キャストという名の太陽系

21-3. ☆主人公たる者の八つの資質

22. 第七話：外面が語るもの（キャラクターリゼーション）

22-1. ☆キャラクターリゼーションの三つの機能

22-2. ☆キャラクターを形作る『世界』

22-3. ☆持ち物がその人を語る

22-4. ☆外面的な特徴のチェックリスト

22-5. ☆だが、本当の彼は何者なのか？

23. 第八話：内面が叫ぶもの（真のキャラクター）

23-1. ☆選択こそが真実を語る

23-2. ☆動機（モチベーション）の源泉を探る

23-3. ☆内側から突き上げる十二の動機

23-4. ☆欲望の対象が、動機を形にする

23-5. ☆ジレンマこそが、真の選択

24. 第九話：「矛盾」こそがキャラクターの命

24-1. ☆万物は矛盾の中に統一される

24-2. ☆一次元の「タイプ」から多次元の「キャラクター」へ

24-3. ☆複雑さを生む六つの次元

24-4. ☆矛盾は「一貫」し、そして「変動」せねばならない

24-5. ☆キャラクターを定義する、たった一つの次元

25. 第十話：対立する力がキャラクターを「複雑」にする

25-1. ☆運命か、性格か

25-2. ☆対立がキャラクターを多次元的にする

25-3. ☆第一階層：物理的な対立

25-4. ☆第二階層：社会的な対立

25-5. ☆第三階層：個人的な対立

25-6. ☆最終階層：内面的な対立

26. 第十一話：物語の果てに立つ「完成された」キャラクター

26-1. ☆第一段階：準備 ― 未完成なる者たち

26-2. ☆第二段階：暴露 ― 仮面を剥がされる者たち

26-3. ☆第三段階：変化 ― テセウスの船のパラドックス

26-4. ☆第四段階：完成 ― 人間性の限界を生きる

27. 第三部：キャラクターが息づく世界

28. 第十二話：英雄、賢者、道化…「象徴」が持つ力

28-1. ☆シンボルは夢から生まれる

28-2. ☆キャラクターの象徴性のスペクトラム

28-3. ☆アーキタイプを隠し持て

28-4. ☆アレゴリー、タイプ、ストック

28-5. ☆現実的キャラクター vs 象徴的キャラクター

29. 第十三話：常識を破壊する「ラディカル」な者たち

29-1. ☆意味の喪失が、ラディカルを生む

29-2. ☆因果律が崩壊した世界

29-3. ☆ラディカルなキャラクターを創る九つの方法

29-4. ☆未来は、不条理な日常にある

30. 第十四話：ジャンルの「お約束」とキャラクター

30-1. ☆ジャンルの起源は「対立」にあり

30-2. ☆十六のプライマリー・ジャンル

30-3. ☆運命のプロット（十種）

30-4. ☆キャラクターのプロット（六種）

30-5. ☆ジャンルを組み合わせ、物語を豊かにせよ

31. 第十五話：キャラクターを動かす欲望の正体

31-1. ☆誰もが自分自身の物語を生きている

31-2. ☆人生の手口（モドゥス・オペランディ）

31-3. ☆キャラクターのMOクラスター

31-4. ☆シーン創造：行動の中のキャラクター

32. 第十六話：読者とキャラクター、魂の交感

32-1. ☆発見の喜びと、認識の安らぎ

32-2. ☆パフォーマンスにおけるキャラクターの七つの機能

32-3. ☆「もしも」の力が、魂を繋ぐ

32-4. ☆共感と同情、その微妙な違い

32-5. ☆共感のバランスを操る

33. 第四部：キャラクターたちが織りなす人間模様

34. 第十七話：響き合う魂たち（キャストデザインの妙）

34-1. ☆すべてのキャラクターは、誰かを映す「鏡」である

34-2. ☆ケーススタディ１：『高慢と偏見』に学ぶ、次元の相互作用

34-3. ☆キャストマップを描け

34-4. ☆喜劇に学ぶ、強迫観念のキャストデザイン

35. エピローグ：マズオ、創造の翼を広げる

36. 🟦深掘り編：『ハリー・ポッター』莫大な富を生んだキャラクター設定の錬金術

36-1. ☆なぜ、我々はハリー・ポッターを愛してしまうのか？

36-2. ☆トリオが生み出す、共感のトライアングル

36-3. ☆敵役（アンタゴニスト）が物語の器を決める

36-4. ☆脇役たちに与えられた『たった一つの輝き』

36-5. ☆魔法の世界に、普遍的な現実を映す

37. 🟦深掘り編パート２：『スター・ウォーズ』銀河を創造したキャラクターの神話工学

37-1. ☆ありふれた青年が、宇宙の希望となる

37-2. ☆アーキタイプの見事なキャスティング

37-3. ☆父と子の神話 ― 最強の敵役（アンタゴニスト）

37-4. ☆テクノロジーと自然（フォース）の対立

37-5. ☆神話を現代に語り継ぐために

38. 🟦マズオの大いなる飛躍

38-1. ☆「愛国インフルエンサー：ヤマト・タケル」の創造

38-2. ☆物語（ストーリーテリング）による価値の錬金

38-3. ☆秘密結社という名の究極のコミュニティ

38-4. ☆3兆円のオブジェが意味するもの

38-5. ☆虚構が現実を喰らう

39. 🟦究極の授業：商売と金儲けの真実

39-1. ☆商売の原理原則：客がお金を払うかどうかがすべて

39-2. ☆資本主義における絶対神：消費者

39-3. ☆金持ちは罪悪感など抱かない

39-4. ☆お金とは「ありがとう」の引換券である

39-5. ☆覚醒、そして新たなる創造

40. 【超濃密なまとめ】

41. 【用語集】

42. 【おわりに】

43. 🟦番外編：『千と千尋の神隠し』キャラクター分析 ― なぜ我々は八百万の神々に魅了されるのか

43-1. ☆「何者でもない」主人公が持つ、普遍的な力

43-2. ☆二つの顔を持つキャラクターたち ― 日本的アニミズムの世界観

43-3. ☆カオナシ ― 現代社会が生んだ「魂の飢餓」の象徴

43-4. ☆「名前」を取り戻す物語

🟦タイトル：『お金になるキャラクターの作り方：完全解説』

【あらすじ】

序章：神との出会い
家賃も払えず、才能の枯渇に絶望する貧乏脚本家「マズオ」。彼の、「魅力的なキャラクターが作れない」という魂の叫びが、天界に届いた。彼の前に現れたのは、自らを「創作の神マーベリック」と名乗る謎の存在。こうして、世界的名著『Character: The Art of Role and Cast Design for Page, Stage, and Screen』の真髄を巡る、奇妙で壮大な個人授業が幕を開ける。
第一部：キャラクター創造の神髄
マーベリックは、マズオが抱く数々の勘違いを徹底的に論破していく。「キャラクターは人間ではなく芸術である」「プロットとキャラクターは同じコインの裏表である」といった根源的な原理原則から、作家が持つべき10の心構えまで。マズオは、創作に対する自らの姿勢がいかに浅はかであったかを痛感させられる。
第二部：魂を吹き込む技術
講義は具体的なキャラクター構築術へと進む。現実世界から着想を得る「外側からのアプローチ」、そして作者自身の内面を探求する「内側からのアプローチ」。キャラクターに深みを与える「次元（矛盾）」、物語を駆動させる「対立」の構造など、魂を吹き込むための実践的な技術が次々と明かされる。マズオは、ただの人形だった自らのキャラクターに、生命の息吹が宿り始めるのを感じる。
第三部：キャラクターが息づく世界
キャラクターを取り巻く様々な文脈…「アーキタイプ（元型）」に代表されるシンボリズムの力、常識を破壊する「ラディカルなキャラクター」の存在、物語の骨格を決定づける16の「プライマリー・ジャンル」など、応用的な技術論が展開される。マズオは、キャラクターを単体でなく、響き合う関係性を持つ「キャスト」としてデザインする必要性に気づく。
第四部：物語で富を築く
マーベリックの教えを応用し、マズオはついに覚醒する。彼は「愛国インフルエンサー：ヤマト・タケル」という架空の人格（キャラクター）を創造し、物語の力で人々の心を掴み、莫大な富を築き上げる。しかし、その成功の裏で、彼は「これは詐欺ではないか」という罪悪感に苛まれる。再び現れたマーベリックは、彼に資本主義と商売の本質に関する「究極の授業」を施す。その結果、マズオは真の「創造主」として、さらなる飛躍を遂げるのであった。

【登場人物の紹介】

本教材は、以下の2人の対話によって進行する。性格も知識も立場も正反対な2人のやり取りを通して、キャラクター創造の神髄を学んでいく。

神マーベリック（教える役）
マズオの魂の叫びに反応し、天界から降臨したと自称する「創作の神」。純白のスーツに身を包み、その言動は常に優雅で自信に満ち溢れている。キャラクター創造に関するあらゆる知識を体系的にマスターしており、古今東西の哲学、心理学、物語論を引用しながら、厳しくも的確にマズオを導く。才能のない者や本質を見ようとしない者には容赦がないが、その根底には創作への深い愛と敬意が流れている。
貧乏男マズオ（生徒役）
鳴かず飛ばずの貧乏脚本家。才能の枯渇と家賃の支払いに悩み、絶望の淵にいたところをマーベリックに拾われる。素直で情熱はあるが、物事を表面的にしか捉えられない典型的な三流クリエイター。マーベリックの難解な講義に混乱し、反発しながらも、少しずつその教えを吸収し、覚醒していく。彼の抱く素朴な疑問や勘違いは、そのまま本書の読者が抱くであろう疑問を代弁する役割を担う。

【本編：開始】

プロローグ：鳴かず飛ばずのマズオ、神と出会う

マズオ： あー、もうダメだ……。

安アパートの四畳半。万年床の片隅で、男が一人、天井のシミを睨んでいた。男の名はマズオ。自称、脚本家の卵。いや、卵の化石と言った方が正しいかもしれない。

パソコンの画面には、書きかけの脚本ファイルが虚しく開かれている。カーソルが点滅を繰り返す様は、まるでマズオの風前の灯火のような命を嘲笑っているかのようだ。

マズオ： なんでなんだ……なんで俺の書くキャラクターは、こんなにもつまらないんだ！魂がこもってない、ただの操り人形だ！編集者にも言われた。「君のキャラクターからは、体温が感じられない」ってさ。体温だ？こっちは家賃も払えず、風呂も沸かせず、冷え切ってるってんだ！

壁に貼られた「家賃は月末までに」という大家からの最後通牒が、ひらりと剥がれて床に落ちる。その乾いた音が、マズオの心の折れる音と重なった。

マズオ： 魅力的なキャラとは何だ？どうすれば多くの人を惹きつけるキャラクターを作れるんだ？ああ、神様、仏様、誰でもいい！教えてくれよぉぉぉっ！

マズオが頭を抱えて絶叫した、その瞬間だった。

部屋の隅で、ホコリをかぶった本棚の一冊が、にわかに眩い光を放ち始めた。

マズオ： うわっ！な、なんだ！？

それは、いつか古本屋で投げ売りされていた一冊の本。『Character: The Art of Role and Cast Design for Page, Stage, and Screen』と書かれた分厚い洋書だ。買ったはいいが、難しそうで一度も開いたことがなかった。

その本から放たれる光は、四畳半の薄暗い部屋を白昼のように照らし出し、やがて一人の男の姿を形作った。純白のスーツに身を包み、銀髪をなびかせ、その瞳は宇宙の深淵を思わせるほどに澄み切っている。非現実的なまでに整った顔立ちの男が、優雅な仕草でマズオを見下ろした。

マーベリック： やれやれ。君の魂の叫び、あまりにも貧弱で、そして切実だったものでね。つい、天界から降りてきてしまったじゃないか。

マズオ： だ、誰だあんた！？

マーベリック： 私はマーベリック。創作のすべてを司る神、とでも言っておこうかな。君の悩み、聞こえたよ。「魅力的なキャラクターが作れない」…だったかな？

マズオ： か、神？なに言ってんだ、頭おかしいんじゃないの…？

マーベリック： ふむ。信じられないのも無理はない。だが、君が今、喉から手が出るほど欲している答えを、私は持っている。君がその手に抱え、一度も開くことのなかったその聖典…その真髄を、この私が直々に説き明かしてあげよう。さあ、貧乏で才能に飢えた子羊よ。本物のキャラクターとは何か、学ぶ覚悟はできたかね？

マーベリックが指を鳴らすと、マズオの手元に、あの光り輝いていた『CHARACTER』の本がひとりでに舞い降りた。ずしりとした重みが、マズオの絶望にわずかな期待を灯す。

マズオ： （…怪しい。怪しすぎる。でも…でも、もうこれにすがるしかないのかもしれない…）わ、分かりました！教えてください、マーベリックさん！いや、マーベリック様！

マーベリック： よろしい。では、始めようか。記念すべき第一の講義を。心して聞きたまえ。

こうして、売れない脚本家マズオと、自称・創作の神マーベリックによる、奇妙で壮大なキャラクター創作のレッスンが幕を開けたのだった。

第一部：キャラクター創作の神髄を知る

第一話：キャラクターは「芸術作品」のようなもの

マズオ： よろしくお願いします、マーベリック様！早速ですが、僕、ずっと勘違いしてたのかもしれないんです。魅力的なキャラクターって、どこにでもいそうな、こう…リアルな人間みたいに書くのが一番だと思ってたんですよ。読者が「あ、こういう人いるいる！」って共感できるような。

マズオは目を輝かせ、自信ありげに語る。しかし、マーベリックは優雅に首を横に振った。

マーベリック： マズオ君。それが、君のような凡百の書き手が陥る、最初の、そして最大の勘違いなのだよ。

マズオ： えっ！？違うんですか！？

マーベリック： 結論から言おう。キャラクターは、断じて「人間」ではない。

マズオ： に、人間じゃないって…じゃあ、一体何なんですか？

☆キャラクターは人間ではなく、芸術作品である

マーベリック： いいかね。キャラクターとは、人間性を表現するために創られた『芸術作品』なのだ。君は美術館でミロのヴィーナスを見て、「これは本物の女性ではない」と文句を言うかね？ホイッスラーの母の肖像画を見て、「この人はもう喋らないじゃないか」と嘆くかね？

マズオ： い、いや、そんなことは…美術品ですから。

マーベリック： その通り。キャラクターもそれらと全く同じだ。ミロのヴィーナスが「女性」そのものではなく「女性という概念の美しい比喩」であるように、優れたキャラクターは「人間」そのものではなく、「人間性という深遠なテーマの見事な比喩（メタファー）」なのだよ。

マズオ： 人間性の…比喩…。

マーベリック： そう。キャラクターは作家の精神という子宮で生まれ、物語という腕に抱かれて、永遠に生き続ける運命を背負った、魂のメタファーなのだ。そこには、生身の人間が持ち得ない『完璧さ』と『永遠性』が宿る。

☆完成された存在と、発展途上の存在

マズオ： 完璧さ、ですか？でも、欠点のない完璧なキャラなんて、逆に魅力的じゃないって言いますけど…。

マーベリック： 君は言葉の意味を履き違えている。ここで言う『完璧さ』とは、欠点がないという意味ではない。物語の始まりから終わりまでを通して、その存在のすべてが『表現され尽くしている』という意味での完璧さだ。

マーベリックは、すっと人差し指を立てる。

マーベリック： 現実の人間、例えば君は、進化し続ける未完成品だ。君が明日どうなるか、10年後どうなっているか、死ぬ瞬間まで君自身にも分からない。君の人生はまだ語られていない物語だ。

マズオ： は、はあ…。

マーベリック： だが、キャラクターは違う。物語の幕が上がり、そして幕が下りる。その括弧の中の人生で、彼または彼女の本質、可能性、葛藤のすべてが、完全に描き切られる。物語が終わった後、そのキャラクターがどうなったかを想像することはできても、物語の中で描かれた彼らの本質が変わることは決してない。彼らは『完成された芸術作品』として、そこに存在するのだ。

☆表現されることのすべて

マズオ： うーん…なんとなくは分かるんですが、それがどうして生身の人間より魅力的になるのかが…。

マーベリック： いい質問だ。では、君が好きな俳優を一人、思い浮かべてごらん。

マズオ： 俳優ですか？そうですね…じゃあ、トム・クルーズとか。

マーベリック： よろしい。では聞くが、君はトム・クルーズ本人と、彼が演じた『トップガン』のマーヴェリック…おっと、奇遇だね、私と同じ名前だ…どちらに心を奪われるかね？

マズオ： そりゃあ、映画のマーヴェリックですよ！無鉄砲だけど最高にクールで…。

マーベリック： なぜだね？なぜ生身の人間であるスーパースターよりも、架空のキャラクターに惹かれるのだ？答えはこれだ。『人間は経験したことのすべてを表現しきれないが、キャラクターは経験したことのすべてを表現する』からだ。

マズオ： 経験したことのすべてを…表現する？

マーベリック： そう。我々人間は、日々膨大な情報や感情を経験するが、そのほとんどを内に秘め、言葉や行動に移すことはない。君だって、大家への怒りを心の内に留めているだろう？

マズオ： ど、ドキッ！

マーベリック： だが、優れたキャラクターは違う。彼らが物語の中で経験することは、恐怖であれ、喜びであれ、葛藤であれ、そのすべてが何らかの形で外面に表出する。言葉、行動、表情、沈黙…そのすべてが、彼らの内面を表現するために設計されているのだ。だからこそ、我々はキャラクターの内面を、生身の人間以上に深く、鮮やかに感じ取ることができる。彼らは我々よりも『多層的』で『立体的』で、だからこそ、心を鷲掴みにするのだよ。

☆キャラクターは「死なない」

マーベリック： そして、決定的で残酷な違いがもう一つある。

マズオ： まだあるんですか…。

マーベリック： 人間は死んだら、それで終わりだ。肉体は滅び、物語はそこで途絶える。だが、キャラクターは死なない。

マズオ： いや、物語の中で死ぬキャラはたくさんいますよ！

マーベリック： 甘いな、マズオ君。ある物語で死んだとしても、キャラクターは別の物語で蘇ることができる。例えば、人気ドラマ『ブレイキング・バッド』に登場した弁護士、ソウル・グッドマン。彼は本編の後、『ベター・コール・ソウル』という前日譚で、再び主人公として我々の前に現れた。同じく登場人物のジェシー・ピンクマンも、映画『エルカミーノ』でその後の人生が描かれた。

マズオ： あ…！確かに！

マーベリック： 人間は現実からこぼれ落ちれば墓に入るが、キャラクターは物語からこぼれ落ちれば、また別の物語へと流れ着く。彼らは永遠の命を持つ。だからこそ、我々は安心して彼らの過酷な運命を見届け、その生き様に心を委ねることができるのだ。

マーベリックはゆっくりとマズオの周りを歩き、彼の目を覗き込んだ。

マーベリック： 分かったかね？君が創り出すべきは、そこら辺にいる『リアルな人間』の模倣品ではない。人間という存在の真実を映し出し、人間以上に人間性を感じさせ、永遠の時を生きる『芸術作品』なのだ。まずは、その気高い覚悟を持つことから、すべては始まる。

マズオは、ゴクリと唾を飲んだ。今まで「リアルに、リアルに」と呪文のように唱えていた自分の考えが、いかに浅はかだったかを思い知らされていた。キャラクターとは、もっと壮大で、もっと神聖な存在なのかもしれない。

マズオ： げ、芸術作品…か。僕にそんなものが作れるんでしょうか…。

マーベリック： ふっ。その弱気こそが貧乏の源泉だよ、マズオ君。だが、安心したまえ。そのために、この私がいるのだから。さあ、次はさらに深淵なテーマに踏み込もう。物語とキャラクター、その切っても切れない関係についてだ。

マーベリックがそう言って微笑むと、部屋の空気がわずかに震えた気がした。マズオのキャラクター創作への道は、まだ始まったばかりだった。

第二話：物語が先か？キャラクターが先か？

マズオ： マーベリック様！キャラクターが「人間」ではなく「芸術作品」だということは、よく分かりました！魂を込めて、人間性のメタファーを創り上げる…なんだか、すごく高尚な仕事に思えてきました！

昨日の絶望が嘘のように、マズオは目を爛々と輝かせている。単純な男だった。マーベリックは、そんな彼を生温かい目で見つめながら、優雅にティーカップを傾ける（どこから出したのか、マズオの部屋には不釣り合いな最高級の陶器だ）。

マーベリック： ほう。少しは作り手のプライドが芽生えてきたようだね。良いことだ。では、次のステップに進もうか。君は物語を創る時、何から始めるかね？

マズオ： もちろん、ストーリーですよ！「こういう事件が起きて、犯人を追い詰めて、最後にどんでん返しが！」みたいな、面白いプロットを考えるのが一番大事だと思ってます。ぶっちゃけ、面白いストーリーさえあれば、キャラクターは後からついてくるっていうか…物語を動かすためのコマみたいなものですよね？

自信満々に語るマズオに、マーベリックは深いため息をついた。

マーベリック： …愚か者め！君は今、二千年以上も昔から続く、愚かな論争の片棒を担いでいるのだぞ。

マズオ： ええっ！？そんな大げさな…。

マーベリック： 「物語駆動（プロット・ドリブン）」か、「キャラクター駆動（キャラクター・ドリブン）」か。映画評論家や文学オタクたちが、自分たちの知性をひけらかすためだけにこねくり回してきた、実に不毛な二元論だ。ハリウッド映画はプロット重視で大衆娯楽、ヨーロッパの芸術映画はキャラクター重視で高尚、などといった具合にね。

マズオ： ああ、聞いたことあります！僕は断然、プロット派ですけど！

マーベリック： だから君は貧乏なのだよ。その二千年来の論争に、今この瞬間、私が終止符を打ってやろう。心して聞きたまえ。その問い自体が、根本的に間違っているのだ。

☆アリストテレスの呪い

マズオ： 問いが間違ってるって、どういうことですか？

マーベリック： この論争の元凶は、古代ギリシャの哲学者、アリストテレスにまで遡る。彼はその著書『詩学』の中で、物語の構成要素を重要度順にランク付けした。トップに来たのが『プロット（筋）』。そして二番目が『キャラクター（性格）』だった。

マズオ： ほら！やっぱりプロットが一番じゃないですか！あのアリストテレスが言ってるんですよ！

マーベリック： 静かにしたまえ。アリストテレスは偉大だが、完璧ではない。彼は「何が起きるか」は、「誰に起きるか」よりも芸術的に重要だと考えた。この考えが、その後二千年にわたって創作者たちを縛る『呪い』となったのだ。

マズオ： 呪い…。

マーベリック： もちろん、時代が下り、小説という文化が花開くと、「読者が本当に求めているのは魅力的なキャラクターだ。プロットなんて、キャラクターを披露するための物干し竿に過ぎない」と逆の意見も出てきた。だが、これもまた本質を見誤っている。

☆物語とキャラクターは、同じコインの裏表

マーベリック： いいかね、マズオ君。どちらがより重要か、などと問うこと自体がナンセンスなのだ。なぜなら、プロットとキャラクターは、本質的に『同じもの』だからだ。

マズオ： えっ！？同じ！？全然違うじゃないですか！プロットは出来事の連なりで、キャラクターはその中にいる人物で…

マーベリック： では、定義から始めようか。まず『プロット』とは、物語における『出来事』の配置だ。そして『キャラクター』とは、その『出来事』を引き起こすか、あるいは『出来事』に反応する架空の存在だ。両者に共通する言葉は何かな？

マズオ： えっと…『出来事』、ですか？

マーベリック： その通り。では、物語における『出来事』とは何か？それは、『価値の帯びた変化』のことだ。

マズオ： 価値の…帯びた変化？

マーベリック： そう。例えば、庭の木の葉が風で舞い落ちる。これは変化だが、価値がない。物語にはならない。だが、「愛」が「憎しみ」に変わる、「貧乏」が「富」に変わる、「生」が「死」に変わる。このように、人間の経験におけるプラスとマイナスの価値が逆転する瞬間、それが物語における『出来事』なのだ。そして、その変化は誰が引き起こす？

マズオ： …キャラクター、ですか。

マーベリック： あるいは、キャラクターが何かに反応することで生まれる。つまり、キャラクターなくして『出来事』は起こりえず、出来事なくしてキャラクターは『キャラクター』として存在し得ない。壁に飾られた肖像画と変わらん。両者は分かちがたく結びついている。プロットとはキャラクターであり、キャラクターとはプロットなのだ。一枚のコインの裏と表のようにね。

☆キャラクターリゼーションと真のキャラクター

マズオ： 裏と表…。でも、やっぱり腑に落ちないです。アリストテレスほどの賢人が、なぜそんな単純なことを見抜けなかったんでしょうか？

マーベリック： それは、彼が生きた時代の演劇の様式と、ある概念が未分化だったことによる。その概念とは、『キャラクターリゼーション（性格描写）』と『真のキャラクター（本質）』の違いだ。

マズオ： また新しい言葉が…。

マーベリック： 『キャラクターリゼーション』とは、観察可能な外面的な特徴のすべてだ。年齢、性別、服装、話し方、職業、態度…つまり、その人物が他者に見せている『仮面（ペルソナ）』のことだよ。

マズオ： 仮面…。

マーベリック： 対して、『真のキャラクター』とは、その仮面の下に隠された、目には見えない内面的な本質だ。その人物の根源的な動機や価値観。この本質は、普段は隠されている。では、いつ白日の下に晒されると思うかね？

マズオ： えっ…いつだろう…？

マーベリック： 人生における最大のプレッシャーに晒された時だ。追い詰められ、究極の選択を迫られた時、その人物が何を選び、どう行動するか。その『選択』こそが、その人物の『真のキャラクター』を暴き出すのだ。

マーベリックはマズオの目をじっと見つめる。

マーベリック： 古代ギリシャの演劇では、役者は文字通り仮面をつけていた。キャラクターの内面、つまりサブテキスト（言外の意味）を複雑に表現するという概念が、現代ほど発達していなかった。だからアリストテレスは、目に見える『出来事』の方をより重視したのだろう。だが、心理学が発達した現代を生きる我々は、外面的なキャラクターリゼーションと、選択によって明らかになる内面的な真のキャラクターを、明確に区別して考えねばならない。

☆因果性の源泉を問え

マズオ： なるほど…。じゃあ、「物語駆動」とか「キャラクター駆動」っていう言葉は、もう使っちゃいけないってことですか？

マーベリック： いや、使い方次第では、創造的な意味を持つ。ただし、それは芸術的な優劣の話ではない。『物語の主要な因果性がどこから来るか』という観点で使う場合に限る。君の創作が行き詰まった時、自問すべきはこれだ。「何が、物事を動かしているのか？」とね。

マズオ： 何が物事を動かしているか…。

マーベリック： 『プロット駆動』の物語とは、主要なターニングポイントが、キャラクターのコントロールの及ばない外部の力によって引き起こされる物語だ。自然災害、戦争、犯罪、社会の不正、あるいは単なる偶然。それらの力がキャラクターに襲いかかり、物語が動く。

マズオ： アクション映画とか、パニック映画みたいな感じですね！

マーベリック： その通り。対して、『キャラクター駆動』の物語とは、物語を動かす主要な因果性が、キャラクターの内面から湧き上がる。彼らの意識的、あるいは無意識的な欲望が『選択』を生み、その『選択』が行動となり、世界を動かしていく。愛に落ちる、罪を犯す、真実を探す…。すべてはキャラクターの意志から始まる。

マーベリックは窓の外を眺め、呟いた。

マーベリック： どちらが優れているという話ではない。ただ、因果性の源泉が違うだけだ。そして、真に優れた物語の多くは、この二つの力を絶妙なバランスで融合させている。シェイクスピアを見よ。彼の戯曲は、歴史や伝説という『プロット駆動』の外部的な出来事から始まるが、物語が進むにつれて、ハムレットやマクベスの内面的な葛藤、つまり『キャラクター駆動』の力が物語を支配していく。

☆作家が持つべき視点

マズオ： バランス…か。僕、いつもどっちかに偏っちゃってたかもしれません。

マーベリック： だからこそ、君が自問すべきはこうだ。「私のキャラクターに何が起きるか？」ではない。「なぜ、この出来事が『この』キャラクターに起きるのか？」「彼はそれにどう反応するのか？」「その出来事は彼の人生をどう変えるのか？」…すべてのプロットに関する問いを、キャラクターの人生へと向けなければならない。さもなければ、それはただの無味乾燥な出来事の羅列に終わる。

マーベリックは立ち上がり、マズオの肩に手を置いた。

マーベリック： 忘れるな、マズオ君。優れた物語とは、外部の出来事がキャラクターの内面を変化させ、その変化した内面が、今度は外部の世界に作用する、その美しい連鎖なのだ。プロットとキャラクターは、互いを形作り、互いを明らかにし、やがて一つの継ぎ目のないタペストリーとして織り上げられていく。君はその織り手とならねばならん。

マズオは、自分のパソコン画面に映るプロットのメモを、今までとは全く違う目で見つめていた。これは単なる事件のリストじゃない。これは、ある人間の魂が経験する、価値の変化の軌跡なんだ。

マズオ： 分かりました…マーベリック様。プロットとキャラクター、どちらが上とか下とかじゃない。両方で一つなんですね！

マーベリック： ようやく理解したようだな。では、その高揚した気分のまま、次の講義に移ろう。君がそのタペストリーを織り上げるために、作家として、まず何を備えておくべきか。その『心構え』についてだ。

マーベリックが指をパチンと鳴らすと、彼の手にしていたティーカップが音もなく消えた。魔法のような光景にマズオが目を白黒させているうちに、第三の講義の鐘が鳴り響こうとしていた。

第三話：作家よ、汝自身を知れ

マズオ： マーベリック様！キャラクターは芸術であり、プロットとはそのコインの裏表…。もう目からウロコが落ちすぎて、僕の目は今、魚の目みたいになってます！

マーベリック： 気持ちの悪い例えはやめたまえ。だが、君の創作意欲が刺激されているのは良い兆候だ。しかし、逸ってはいけない。いきなりペンを走らせる前に、君が作家として、いや、一人の『創造主』として、どのような心構えを持つべきかを知る必要がある。

マズオ： 心構え、ですか？とにかく面白いものを書きたいっていう情熱だけじゃダメなんですか？

マーベリック： 情熱はガソリンのようなものだ。それだけではどこにも行けない。君には羅針盤と地図、そして頑丈な車体が必要だ。今日は、君という作家の魂のOSをアップグレードしてやろう。

マーベリックは厳かに告げた。

マーベリック：キャラクターを創り出す前に、まず『作家』を創り出さねばならない。そのための十の心得を授けよう。

☆心得その一：凡庸さを憎む「嫌悪感」を持て

マズオ： 十個も！？長くないですか？

マーベリック： 黙って聞け。まず第一に、君に必要なのは『優れた審美眼』、すなわち『テイスト』だ。

マズオ： テイスト、ですか。まあ、映画とかはいっぱい観てますから、目は肥えてるつもりですけど。

マーベリック： 他人の作品の良し悪しを見抜くのは簡単だ。問題は、自分自身の作品に潜む『凡庸さ』を見つけ出し、それを憎むことができるかどうかだ。君は、陳腐なセリフやありきたりなキャラクター設定を自分の原稿に見つけた時、吐き気を催すほどの嫌悪感を覚えるかね？

マズオ： は、吐き気…ですか。いや、まあ、「ちょっと直すか」くらいで…。

マーベリック： 甘い！それでは三流のままだ！優れた芸術家とは、優れた『嫌悪感』の持ち主なのだよ。ありふれた表現、上っ面だけの感傷、自己満足のナルシシズム、そして何よりも『嘘』。それらを自分の文章の中に見つけた時、内臓をえぐられるような痛みと共にゴミ箱に叩きつける、その気高さが必要なのだ。

☆心得その二：「知」への渇望を止めない

マーベリック： 第二の心得は『知識』だ。神のごとき全知を求めよ。

マズオ： いやいや、無理ですよ！僕はただの脚本家で、神様じゃ…。

マーベリック： 比喩だよ。物語の舞台となる世界、その歴史、そして何よりも君が創り出すキャラクターについて、君は誰よりも詳しくならねばならないということだ。心理学、社会学、人類学、政治学…森羅万象すべてが君の創作の糧となる。知らないことがあるのなら、調べろ。本を読め。旅に出ろ。未知なるものをその目で確かめろ。君の知識の引き出しの数が、キャラクターの深みを決めるのだ。

☆心得その三：「独創性」の正体を誤解しない

マーベリック： 第三に、『オリジナリティ』。

マズオ： これ！これが一番欲しいやつです！誰もやったことのない、全く新しいものを生み出したいんです！

マーベリックは憐れむような目でマズオを見た。

マーベリック： 「誰もやったことがない」という幻想を抱いている時点で、君は独創性から最も遠い場所にいる。それは単に、君が先人たちの偉大な仕事を何も知らないという無知の告白に過ぎない。

マズオ： ぐさっ！

マーベリック： 真の独創性とは、『何を』語るかであって、『いかに』語るかではない。奇抜な手法や目新しいスタイルに逃げるな。シェイクスピアを見よ。彼の戯曲のほとんどは、既存の物語を翻案したものだ。彼は古い物語に、それまで誰も見ようとしなかった人間性の『新たな真実』という魂を吹き込んだ。それこそが真のイノベーションなのだ。

☆心得その四と五：観客を意識するエンターテイナーであれ

マーベリック： 四つ目と五つ目はセットで覚えろ。『ショーマンシップ』と『読者／観客への意識』だ。

マズオ： 芸術家であることと、エンターテイナーであることって、両立するんですか？なんだか、媚びてるみたいで…。

マーベリック： 大いなる勘違いだ。作家とは、綱渡り師の大胆さと、マジシャンの巧みな手管を併せ持つ、究極のエンターテイナーでなくてはならない。読者や観客を退屈させる権利など、君にはない。彼らが何に驚き、何に心動かされ、どの瞬間に息を飲むのか。その一瞬一瞬の影響力を計算し尽くせ。芸術とは、独りよがりのマスターベーションではない。観客の魂を揺さぶるための、至高の奉仕なのだよ。

☆心得その六と七：形式を敬い、陳腐を憎め

マーベリック： 六番目、『形式の習熟』。そして七番目、『クリシェ（陳腐な表現）への憎悪』。

マズオ： 形式って、さっきのジャンルのお約束みたいなことですか？窮屈だなぁ。

マーベリック： 形式は君を縛る檻ではない。君の表現を乗せて運ぶための船なのだ。君が物語に感動したのは、君の人生そのものではなく、人生のメタファーである『物語形式』に心を動かされたからだ。その構造、その力を理解し、使いこなせ。そして、その形式の歴史を知れば、自ずとクリシェが見えてくる。

マズオ： クリシェ…。

マーベリック： 例えば、「コカインとセックスに溺れる金持ちの若者たちが、実は虚しさを抱えている」というアイデア。君はこれを斬新だと思うかね？

マズオ： うーん、まあ、よく聞く話ではありますね。

マーベリック： そうだろう。それはフィッツジェラルドの時代から、数え切れないほど繰り返されてきたクリシェだ。君が自分の芸術形式の歴史に無知であれば、自分が独創的だと思って書いたものが、ただの使い古されたガラクタだった、ということになりかねん。過去の偉大な作品を学び、クリシェを一目で見抜き、それを避け、あるいは逆手にとる。それができなければ、君の作品に価値はない。

☆心得その八：道徳的想像力を研ぎ澄ませ

マーベリック： 八番目、これは特に重要だ。『道徳的想像力』。

マズオ： 道徳？小学校の授業みたいですね。いいことをしましょう、みたいな？

マーベリック： 違う！ここで言う道徳とは、善悪や正邪といった単純な二元論ではない。生と死、愛と憎しみ、正義と不正、希望と絶望…人間の経験を形作る、ありとあらゆるプラスとマイナスの価値の対立項、そのすべてを指す。

マーベリックの声に熱がこもる。

マーベリック： 君の作家としての価値観が、君の物語の世界観を創るのだ。「何のために生きる価値があるのか？」「何のために死ぬ覚悟ができるのか？」君自身の答えが、キャラクターの行動に深みを与える。君自身の道徳的想像力が浅ければ、君のキャラクターもまた、浅薄な存在にしかならない。

☆心得その九と十：理想の自分を演じ、汝自身を知れ

マーベリック： そして、最後の二つ。九番目、『理想の自己』。そして十番目にして最重要項目、『自己認識』だ。

マズオ： 理想の自分と、自己認識…。

マーベリック： 作家という人種は、普段は欠点だらけで、悩みを抱え、他人を苛立たせるような厄介な存在であることが多い。君のようにな。

マズオ： （否定できない…）

マーベリック： だが、キーボードに向かうその瞬間、変身が起こる。作家は、その瞬間の自分にとって最高の、最も知的で、最も繊細で、最も誠実な『理想の自己』になるのだ。その最高の自分が、キャラクターに真実の洞察を授ける。

マズオ： 書いてる時だけは、カッコいい自分になる、みたいな…。

マーベリック： そして、その源泉となるのが『自己認識』だ。ソクラテスは「汝自身を知れ」と言った。チェーホフは「私が人間性について知っていることのすべては、私自身から学んだ」と言った。君が、仮面をつけずに素顔で向き合える唯一の人間は、君自身しかいない。君の喜び、君の恐怖、君の愛、君の醜さ…そのすべてを深く掘り下げ、見つめる勇気を持つことだ。

マーベリックはマズオの目を見据え、静かに、しかし力強く言った。

マーベリック： 君自身の人間性の謎を探求すればするほど、君が創り出すキャラクターの中に、普遍的な人間性を見出すことができる。そして読者や観客は、君のキャラクターの中に、今まで知らなかった自分自身の姿を発見するだろう。すべての優れたキャラクター創作は、自己認識に始まり、自己認識に終わるのだ。

十の心得を語り終えたマーベリックの言葉は、マズオの心に重く、そして深く突き刺さった。ただ漠然と面白い話を書きたいと思っていた自分が、いかに多くのことから目を背けていたかを痛感させられた。

マズオ： 嫌悪感、知識、独創性、ショーマンシップ、観客への意識、形式、クリシェ、道徳的想像力、理想の自己、そして、自己認識…。僕に足りないものだらけだ…。

マーベリック： そうだろう。だからこそ、君は学ぶのだ。さあ、第一部の締めくくりだ。基礎的な心構えは教えた。次からは、いよいよキャラクターを構築するための、より具体的な技術論に入る。外側から形作るか、内側から生み出すか…。君はどちらのアプローチに興味があるかね？

マズオは、まだ頭の中でマーベリックの言葉を反芻していた。作家とは、ただ物語を書く人ではない。世界と、人間と、そして何よりも自分自身と、誠実に向き合う探求者のことなのかもしれない。

第二部：無から有を生むキャラクター構築術

第四話：世界は観察でできている（外側からのアプローチ）

マズオ： マーベリック様！作家としての心構え、身に染みました！特に「自己認識」…なんだか、自分の嫌なところばっかり見えてきて、ちょっとへこんでますけど…。

マーベリック： それでいい。自己嫌悪は、自己認識への第一歩だ。さて、ここからは実践に入る。魂を吹き込むための具体的なキャラクター構築術だ。インスピレーションが空から降ってくるのを待つような怠惰な輩は、永遠に傑作など書けん。インスピレーションは、自ら掴み取りにいくものだ。

マズオ： 掴み取りにいく、ですか？

マーベリック： アプローチは大きく分けて二つある。「外側から内側へ」と「内側から外側へ」。今日はまず、前者…君の周りに無限に広がる世界からインスピレーションを得て、キャラクターを形作っていく方法を教えよう。

マズオ： 外側から！分かりやすいですね！でも、面白いキャラなんて、そうそうそこら辺に転がってないですよ。僕の周りなんて、うるさい大家と、無口なコンビニの店員くらいで…。

マーベリック： 君のその濁った眼を開きたまえ、マズオ君。君が今見ているのは、単なる現実の断片だ。作家の眼とは、その断片から、まだ見ぬ全体を幻視する力なのだよ。

☆インスピレーションの五つの同心円

マーベリック： 君を取り巻く世界を、五つの同心円としてイメージしてみたまえ。インスピレーションは、これらのどの層からも噴き出してくる。

マズオ： い、五つも？

マーベリック： 一番外側の第一の円。それは『現実』そのものだ。君が生きる時代、場所、君が出会う人々、目にするモノのすべて。歴史も現在も含む、広大な世界だ。

マズオ： まあ、それは分かります。

マーベリック： 第二の円。それは『フィクションの媒体』。小説、演劇、映画、テレビシリーズといった、先人たちが創り上げてきた物語の形式そのものだ。

マズオ： 媒体、ですか。

マーベリック： 第三の円。それは『ジャンル』。ラブストーリー、クライム、ホラーなど、それぞれの媒体の中に存在する物語の型（パターン）だ。

マズオ： ああ、なるほど。

マーベリック： 第四の円。それは君が創り出す『物語そのもの』の世界だ。キャラクターの過去（バックストーリー）、物語の中で起こる出来事、そしてそれらを貫くテーマ。

マズオ： 自分が書く話の世界ですね。

マーベリック： そして、そのすべての中心、第五の円に立つのが、君自身…『作家の創造的自己』だ。いいかね。我々はこの一番外側の円から、中心にいる君に向かって、インスピレーションの源泉を辿っていく。

☆現実という名の鉱脈

マズオ： やっぱり一番外側は「現実」なんですね。でも、さっきも言ったように、僕の周りには面白い人が…。

マーベリック： 君は「コピー」することと「インスピレーションを得る」ことを混同している。実在の人物をそのまま物語に登場させても、それは単なる表面的な模写、生気のないスナップ写真にしかならん。

マズオ： じゃあ、どうすれば？

マーベリック： 『再創造』するのだよ。例えば、君の言う無口なコンビニ店員。彼がなぜ無口なのか、考えたことがあるかね？

マズオ： いや、そういう性格なんだと…。

マーベリック： 作家ならそこから想像を飛躍させるのだ！彼はかつて、饒舌さゆえに愛する人を失ったのかもしれない。あるいは、彼の喉には、世界を滅ぼす古代の呪いが封印されていて、一言でも余計なことを話せば、それが解き放たれてしまうのかもしれない。

マズオ： そ、そんなバカな！

マーベリック： 馬鹿で結構！観察とは、目に見えるものをただ受け入れることではない。その表面の下に隠された『沈黙の真実』を暴き出し、我々を驚かせる洞察を加えることだ。コピーするな。再創造せよ。一つの「語るに足るディテール」が、一つの人間性のすべてを暗示することがあるのだ。

☆「もしも…」が生み出す魔法

マズオ： 再創造…か。なんだか難しそうですね。

マーベリック： では、もっと具体的な発想法を授けよう。ロシアの偉大な演出家、コンスタンチン・スタニスラフスキーが編み出した『マジック・イフ』という技術だ。

マズオ： 魔法の「もしも」？

マーベリック： そう。「もしも、XXXが起こったら、私はどうするだろう？」という仮説的な問いかけで、想像力を解き放つのだ。これをキャラクター創作に応用する。例えば…「もしも、平和なリゾート地に巨大なサメが現れたら、どんなキャラクターたちが、そのサメを追いかけるだろうか？」

マズオ： あ！それって、映画の『ジョーズ』！

マーベリック： その通り。海洋学者、地元の警察署長、そしてサメ専門の漁師。三者三様のキャラクターが、一つの『もしも』から生まれてくる。あるいは、「もしも、結婚して五十年近く連れ添った妻が、夫がずっと昔に亡くなった初恋の相手を今も想い続けていたことを知ったら、その妻はどんな人物だろうか？」

マズオ： うわ…切ない…。

マーベリック： この『マジック・イフ』は、物語の発端となる『インサイティング・インシデント（発端の出来事）』を生み出し、その出来事に反応するキャラクターを自然と導き出す。スティーヴン・キングのような作家は、常にこの方法で物語を始めるという。まずキャラクターの制御不能な出来事（プロット）を投げ込み、そこからキャラクターがどう動くかを見守るのだ。

☆テーマから逆算する愚

マズオ： 逆に、テーマから考えるのはどうです？「愛はすべてを救う」みたいなテーマを決めて、それを証明するような物語とキャラクターを作る、っていうのは。

マーベリックは、まるで汚物を見るかのような目でマズオを睨んだ。

マーベリック： …マズオ君。君は今、私が最も軽蔑する創作態度を口にした。

マズオ： ひぃっ！

マーベリック： テーマや信念から逆算して物語を組み立てるなど、三流以下のプロパガンダ作家のやることだ！それは物語ではない。図解入りの退屈な講義だ。キャラクターは、作家の思想を代弁するマイクではない。

マズオ： で、でも、メッセージ性も大事だって…。

マーベリック： 真のテーマとは、作家が物語の旅に出て、その終着点でキャラクターと共に見出す『発見』なのだ！作家が物語に意味を教えるのではない。物語が、そのクライマックスの瞬間に、作家自身も知らなかった真実を囁きかけてくるのだ。初めから答えの決まっている旅など、誰がしたいものか。自らの信念を証明するためにキャラクターを操るな。キャラクターを探求する中で、君自身の信念が試されるのだ。

☆キャラクターの過去という名の宝物庫

マズオ： は、はい…。気をつけます…。じゃあ、キャラクターの過去を細かく設定するっていうのはどうですか？履歴書みたいに。

マーベリックの表情が、わずかに和らいだ。

マーベリック： それは非常に有効なアプローチだ。すべてのキャラクターは、彼を生み出した家族へと遡る歴史を背負っている。小説家のフィリップ・ロスなどは、一人の主人公のために五千項目以上の経歴を考え出したという。

マズオ： ご、五千！？

マーベリック： もちろん、そのすべてが作品に書かれるわけではない。だが、その膨大な過去が、作家の中に『揺るぎない知識』を築き上げ、それがキャラクターの選択に爆発的な創造性をもたらすのだ。

マーベリック： 過去を探る上で重要なのは、単発の出来事ではなく『パターン』を見つけ出すことだ。繰り返されるトラウマはPTSDを生む。過保護な溺愛は自己中心的な人間を育てる。幼少期に刷り込まれた感情のパターンは、そのキャラクターが生涯にわたって追い求めるもの、避けようとするものを決定づける。

マズオ： パターン…。

マーベリック： 特に、思春期に注目するといい。そのキャラクターが、人生で初めて未来を夢見たのはいつか？生涯を捧げる目標を見つけたのか、それとも深い絶望を味わったのか？混乱、疑い、恐れ、恥、怒り…その嵐の中で、彼が自分を何者だと認識し始めたのか。その履歴を探求することが、物語の現在地で彼が取る行動の『なぜ』を、深く、豊かにしてくれる。

☆キャラクター自身に語らせる

マーベリック： さあ、外側からのアプローチの総仕上げだ。君の心の中に、一脚の椅子を用意したまえ。

マズオ： 椅子、ですか？

マーベリック： そう。そして、君が創り出そうとしているキャラクターを、その椅子に座らせるのだ。もちろん、彼はまだ存在しない。君の想像力だけが聞くことのできる声で、彼に自己紹介をさせ、彼の『自分語り』を聞くのだ。

マズオ： 自分語り…。

マーベリック： 人生で最も輝いた瞬間、最も落ち込んだ瞬間、成功と失敗、ストレスを感じた時のこと…。彼が自分自身について語る物語（セルフ・ストーリー）は、事実とは限らない。むしろ、ほとんどが自己弁護や誇張に満ちた嘘だろう。だが、その嘘のつき方、何を隠し、何を強調するかにこそ、彼が『自分を何者だと信じているか』という真実が隠されている。

マーベリック： 彼が語る言葉（テキスト）と、君が感じる彼の本心（サブテキスト）のズレに耳を澄ませ。彼の矛盾を愛せ。なぜ、彼はそう信じているのか？なぜ、彼はそう振る舞うのか？彼の人生の戦略は何か？彼の世界の中心にある、揺るぎない信念は何か？神はいるのか？愛は存在するのか？

マーベリックはマズオの目の前に顔を近づけ、囁いた。

マーベリック： 質問を浴びせ続けろ。しつこい五歳児のように、「なぜ？」「なぜ？」と繰り返し問うのだ。そうして得た洞察のすべてが、君のキャラクターに、他に類を見ない『次元』と『内なる複雑さ』を授けてくれるだろう。

マズオは、目の前の空間に、ぼんやりと椅子のイメージを思い浮かべていた。そこに座るべきは誰だろう。無口なコンビニ店員か。それとも、まだ見ぬ物語の主人公か。いずれにせよ、彼らと対話し、彼らの嘘と真実を聞き出すという作業は、途方もなく、しかし、たまらなく魅力的に思えた。

マズオ： 分かりました…やってみます。彼らの声を聞いてみます！

マーベリック： よろしい。だが、これはまだ旅の半分だ。次回は、全く逆のアプローチ…君自身の内なる宇宙から、キャラクターを生み出す方法を伝授しよう。覚悟しておきたまえ。それは、君自身の魂を剥き出しにする、痛みを伴う作業になるだろうからな。

マーベリックの言葉に、マズオはごくりと喉を鳴らした。キャラクター創作の道は、思った以上に深く、険しいようだ。

第五話：君の内なる宇宙を旅せよ（内側からのアプローチ）

マズオ： マーベリック様！教えていただいた『マジック・イフ』と『自分語り』、試してみました！僕のアパートの大家を椅子に座らせてみたら、まあ出るわ出るわ、金の亡者になった過去の悲しい物語が…。もちろん、ほとんどが嘘っぱちでしょうけど！

マーベリック： ふむ。嘘の中に真実の欠片を見出すのが作家の仕事だ。外側の世界を観察し、そこからキャラクターの輪郭を炙り出す術を、君は学び始めたようだね。

マズオ： はい！おかげさまで！

マーベリック： だが、マズオ君。その方法だけでは、キャラクターに真の『魂』を宿すことはできない。外側からのアプローチで得られるのは、あくまでも精巧な設計図だ。そこに血を通わせ、心臓を動かすためには、全く逆のベクトル…君自身の内側からキャラクターの世界に飛び込む必要がある。

マズオ： 僕の内側から…ですか？以前、「自己認識が大事だ」とはおっしゃってましたけど、それとは違うんですか？

マーベリック： 自己認識は、自分を客観的に見つめることだ。これから教えるのは、自分を『主観的な出発点』とすることだ。作家がキャラクターの宇宙の中心に立つのではなく、作家が『キャラクターの宇宙の中心』そのものになるのだ。

マズオ： ぜ、全然意味が分かりません…。

☆役者になれ、第一の俳優たれ

マーベリック： いいかね。この第二の偉大なるインスピレーションの源泉は、作家が冒険家となり、キャラクターの内なる自己へと想像力で入り込んでいくことから始まる。彼の目を通して世界を見、彼の耳で音を聞き、彼が感じるすべてを感じる。キャラクターの葛藤を我がことのように悩み、選択を迫られ、行動する。あたかも、その架空の人生が、今まさに君自身に起きているかのように。

マズオ： それって、まるで…役者みたいですね。

マーベリック： その通りだ！偉大な作家ヘンリー・ジェイムズは、かつてこう言った。「自分とは全く違う人間…例えば、気弱な君が大胆不敵なヒーローの気持ちになろうとするなら、そこには天才が持つような、とてつもない『大胆さ』が必要になる」とね。私はこの技術を、『イン・キャラクターで書く』と呼んでいる。

マズオ： イン・キャラクター…。

マーベリック： 作家は、キャラクターにとっての『第一の俳優』なのだ。作家が役の内なる自己に憑依する時、キャラクターの感情は作家の感情となり、キャラクターの怒りで作家の血が滾り、キャラクターの勝利を作家が祝い、キャラクターの愛する人を作家もまた愛する。最もパワフルなインスピレーションとは、作家がキャラクターの経験を『追体験』する瞬間に生まれるのだ。

☆究極の『マジック・イフ』

マズオ： でも、どうやってキャラクターになりきるんですか？また『マジック・イフ』を使うんですか？

マーベリック： その通り。だが、問いかけの仕方が決定的に違う。

マーベリックはマズオの前に立ち、三つの問いを提示した。

マーベリック： 一つ目の問い。「もし私がこの状況にいたら、どうするだろうか？」。これは、作家自身の反応を探る問いだ。君がキャラクターではない以上、君の行動とキャラクターの行動は違うだろう。これではキャラクターは生まれない。

マズオ： なるほど。

マーベリック： 二つ目の問い。「もし私のキャラクターがこの状況にいたら、どうするだろうか？」。これは、作家が観客席から舞台上のキャラクターを眺めているようなものだ。キャラクターの感情を『感じる』のではなく、彼の感情を『推測』することになる。そして、推測はほとんどの場合、クリシェに行き着く。

マズオ： うっ…耳が痛い…。

マーベリック： そこで、三つ目の究極の問いだ。イン・キャラクターになるための魔法の呪文。それは、『もし私が「このキャラクターとして」この状況にいたら、どうするだろうか？』だ。

マズオ： 私が…このキャラクターとして…。

マーベリック： そうだ！君は君自身としてではなく、そのキャラクターとして、そのシーンを演じるのだ。そうして初めて、キャラクター自身の感情が、君の心を通って流れ出す。それはもはや、作家の感情ではない。キャラクターの感情なのだ。頭の中でキャラクターについて考えるのではない。彼の内側で『生きる』のだ。君の心が彼の心を占拠し、君の自己認識が彼のものとなり、君と彼は一つになる。

☆汝の内に潜む、観察者と行為者

マズオ： 僕とキャラクターが一つになる…なんだかスピリチュアルな話になってきましたね。そもそも、そんな複雑なこと、人間の脳にできるんですか？

マーベリック： ふっ。君は、君自身の脳の複雑さを侮っている。我々の脳には、およそ1000億の神経細胞があり、それが100兆の接続を作っている。この想像を絶する複雑さの中から、単なる意識ではなく、『自己意識』…つまり、自分自身から一歩引いて、自分を客観視できる精神が生まれるのだ。

マズオ： 自分を客観視する…。

マーベリック： 昔から、哲学者はこの内なる自己の正体について議論を戦わせてきた。仏陀は「自己などという固定的なものは存在しない、ただの幻だ」と言った。対してソクラテスは、「我々の内には二人の自分がいる」と看破した。

マズオ： 二人の自分！？

マーベリック： そう。『観察する自己』と、『観察される自己』だ。『コア・セルフ（核なる自己）』である観察者は、意識の中心にいて、人生が過ぎ去るのを眺め、それを理解しようと努める。そして、そのコア・セルフが、『エージェント・セルフ（行為者としての自己）』である観察される自己を、行動させるために世界へと送り出す。そして、行動する自分を、再びコア・セルフが観察する。これこそが『自己意識』…君の脳内で、君という唯一の観客のために毎日上演されている一人芝居なのだ。

マズオ： 言われてみれば…何か馬鹿なことをした後、「俺ってバカだな！」って思う時、誰が誰に言ってるんだろうって…。

マーベリック： その通りだ！誰が誰を叱り、誰が誰を褒めているのか？自己批判と自己称賛は、この内なる二人の対話なのだ。イン・キャラクターで書くとは、この構造を応用し、君の『コア・セルフ』を、キャラクターの『コア・セルフ』の座に据える行為に他ならない。

☆キャラクターを構成する四つの自己

マズオ： なるほど…。じゃあ、その『コア・セルフ』になりきれば、キャラクターを生きられるんですね！

マーベリック： まだ早い。人間はそんなに単純ではない。真に複雑な人間性を理解するためには、我々が少なくとも『四つの自己』の層を持っていることを知らねばならない。

マズオ： よ、四つ！？

マーベリック： まず、意識の中心にあるのが『プライベート・セルフ（私的自己）』の領域だ。コア・セルフが内なるジレンマと向き合い、決断を下し、エージェント・セルフに行動を指令する、聖域とも言える場所だ。

マズオ： うんうん。

マーベリック： 次に、その中心を取り巻く二つの外層がある。一つは『パーソナル・セルフ（個人的自己）』。家族や友人、恋人といった親密な関係の中で見せる、様々なペルソナだ。もう一つは『ソーシャル・セルフ（社会的自己）』。職場や公の場で、社会的な役割を演じるための公的なペルソナだ。

マズお： 母親に見せる顔と、上司に見せる顔は違いますもんね。

マーベリック： そして、これら三つの層の土台となっているのが、『ヒドゥン・セルフ（隠された自己）』…すなわち『無意識』の領域だ。そこでは、意識されることのない、矛盾した欲望が渦巻いている。

マーベリックは、マズオの部屋の空間に指で四つの同心円を描いた。

マーベリック： プライベート、パーソナル、ソーシャル、そしてヒドゥン。イン・キャラクターで書くとは、これら四つの自己のすべてを、君自身の内側で再構築し、演じ分けることなのだ。君自身の真の性質を深く理解すればするほど、キャラクターの複雑さを、より良く知覚できるようになる。君の真実が、君が創り出すあらゆるキャラクターの真実となるのだ。

☆『MAD MEN』に学ぶ、四つの自己の実践

マズオ： 四つの自己…なんだか、頭がこんがらがってきました…。

マーベリック： では、具体的な傑作を例に挙げて説明しよう。傑作ドラマ『マッドメン』だ。ショーランナーのマシュー・ワイナーと脚本家たちは、まさにこの自己の階層構造を用いて、キャラクターたちを驚くほど複雑に描き出した。

マーベリックは、登場人物の名前を挙げながら語り始める。

マーベリック： 主人公ドン・ドレイパー。

ソーシャル・セルフ：才能あふれる広告マン。クライアントを口説き落とす天才。

パーソナル・セルフ： 絵に描いたような完璧な家庭。だが、その裏で不倫を繰り返し、その幻想を自ら破壊する。

プライベート・セルフ（コア・セルフ）： 彼の本名はディック・ホイットマン。朝鮮戦争で死んだ将校の名を盗んだ偽りの存在。その罪悪感が、彼から愛する能力を奪っていることを、彼自身が知っている。

ヒドゥン・セルフ： 彼の成功の根底には、自分の人生が無意味に終わるのではないかという、漠然とした『恐怖』が常にまとわりついている。

マズオ： うわあ…深い…。

マーベリック： 彼の妻、ベティ・ドレイパー。

ソーシャル・セルフ： 元モデル。乗馬とタバコと子供への不平で日々を過ごす。

パーソナル・セルフ： 望まぬ第三子を妊娠し、空虚な結婚生活に囚われていると感じている。

プライベート・セルフ（コア・セルフ）： 不実な夫への復讐として、隣家の少年を性的に誘惑し、見知らぬ男と一夜限りの関係を持つ。

ヒドゥン・セルフ： 美しく生まれなければ自分は凡庸だっただろう、という自己不信に苛まれている。

マーベリックは次々とキャラクターを解剖していく。ロジャー・スターリング、ペギー・オルソン、ピート・キャンベル…。その誰もが、この四つの自己の階層において、見事な矛盾と葛藤を抱えていた。

マーベリック： どうだね、マズオ君。これこそが、キャラクターの内側からインスピレーションを得るということだ。君自身の内なる『プライベート』『パーソナル』『ソーシャル』『ヒドゥン』を探求し、それをキャラクターという器に移し替えるのだ。

マズオは、もはや言葉を失っていた。キャラクターを創るという行為は、自分が思っていたよりもずっと、自分自身の魂と向き合う、恐ろしくも神聖な作業なのだと思い知らされた。

マーベリック： 外側からのアプローチと、内側からのアプローチ。ほとんどの作家は、この二つを交互に行き来する。外の世界からヒントを得てキャラクターの輪郭を作り、次にその内側に入り込んで魂を吹き込み、そこで得た発見を元に、再び外の世界との関係を再構築する…。その往復運動こそが、キャラクターに命を与えるのだ。さあ、次は、単なる「役割」と、生きた「キャラクター」の違いについて、さらに詳しく見ていこうか。

マーベリックがそう言うと、彼の姿が少しだけ透けて見えたような気がした。まるで、マズオ自身の内なる「観察者」が、彼に語りかけているかのように。

第六話：「役割」を演じるだけの操り人形からの脱却

マズオ： マーベリック様…。「イン・キャラクターで書く」…正直、僕にはハードルが高すぎます。自分の内側にそんな複雑な四つの自己があるなんて、考えたこともなかった…。

マズオはすっかり自信をなくし、四畳半の隅で体育座りをしている。マーベリックは、そんな彼に近づくと、ポンと軽く肩を叩いた。

マーベリック： 弱音を吐くな。誰しも最初はそうだ。だが、君がプロの脚本家を目指すなら、絶対に越えねばならない壁がある。それが、『役割（ロール）』と『キャラクター』の違いを理解することだ。

マズオ： 役割と、キャラクター…。

マーベリック： 君は、自分が創り出した登場人物を「母親役」だとか「刑事役」だとか、そういう風に考えていないかね？

マズオ： ギクッ！そ、そうですね…。「主人公の母親」だから、子供の心配をさせておけばいいかな、とか。「ベテラン刑事」だから、渋い声で聞き込みさせておけばいいかな、とか…。

マーベリックは天を仰ぎ、深く、深ーく、ため息をついた。

マーベリック： …マズオ君。それはキャラクターではない。ただの『役割』をこなすだけの、生気のない操り人形だ。

☆空っぽの額縁に、魂の絵を描け

マズオ： 操り人形…ですか。でも、物語にはそういう役割が必要じゃないですか！

マーベリック： もちろん必要だ。だが、『役割』はあくまでも出発点に過ぎない。空っぽのキャンバスをはめ込んだ、ただの額縁のようなものだ。

マズオ： 額縁…？

マーベリック： そう。「母親」「上司」「芸術家」「孤独な男」…これらはすべて、物語の社会秩序における、ありふれた一般的なポジションを示す『役割』に過ぎない。母親なら子供を養い、上司なら部下を管理し、芸術家なら絵を描き、孤独な男なら人を避ける。それらのタスクをこなすだけなら、誰にでも書ける。

マーベリック： 真に完成された『キャラクター』とは、そのありふれた『役割』という額縁の中に、彼または彼女だけの『唯一無二の個性』という絵を描き込み、その役割が課すタスクを、世界中の誰も思いつかないような『独自の方法』で実行する存在なのだ。

マズオ： 唯一無二の個性…独自の方法…。

マーベリック： そうだ。物語のキャストデザインとは、これらの『役割』を戦略的に配置し、誰一人として同じポジションにおらず、誰一人として同じタスクを同じ方法でこなさないように設計する、緻密な作業なのだよ。

☆キャストという名の太陽系

マーベリック： キャストをデザインするために、一つのイメージを思い浮かべたまえ。君のキャストは、一つの『太陽系』だ。

マズオ： 太陽系、ですか？

マーベリック： そう。中心で燃え盛る恒星、それが『主人公（プロタゴニスト）』だ。そして、その周りを、三つの同心円状の軌道を描いて、脇役たちが公転している。

マズオ： 三つの円…。

マーベリック： 最も中心に近い『第一の円』には、物語に大きな影響を与える主要な脇役たちがいる。彼らは主人公を助け、あるいは邪魔をし、物語のコースを大きく変える力を持つ。

マズオ： ライバルとか、相棒とかですね！

マーベリック： 次の『第二の円』には、もう少し影響力の小さい脇役たちがいる。彼らの行動が物語の小さなきっかけになることはあっても、物語全体の流れを決定づけるほどではない。

マズオ： 主人公が行きつけの店のマスターとか。

マーベリック： そして、最も外側の『第三の円』。そこには、ワンシーンしか登場しないような端役や、セリフのないエキストラ、群衆がいる。彼らは、物語の世界の厚みやリアリティを形作るための、いわば『背景』だ。君は、まず中心の太陽である主人公から創造を始め、この宇宙の果てまで、その光を広げていかねばならない。

☆主人公たる者の八つの資質

マズオ： なるほど！じゃあ、その太陽である主人公は、どうやって創ればいいんですか？何か特別な条件があるんですか？

マーベリック： もちろんだ。読者や観客に「この人物は、私の貴重な時間を費やすに値する」と思わせるには、それ相応の資質が必要だ。今日は、主人公が持つべき八つの本質的な資質を授けよう。

マズオ： は、八つも！ぜひお願いします！

マーベリック：
（１）意志の力（ウィルパワー）： 物語の発端で人生の均衡を崩された主人公は、それを元に戻そうとする『欲望』を抱く。その欲望の対象を追い求める過程で、強大な敵対者が立ちはだかる。真の主人公とは、最後の危機において、その最大の困難に立ち向かい、究極の決断を下し、最後の行動を起こすだけの『意志の力』を持つ者だ。たとえ敗北するとしても、その意志が尽きるまで戦い抜かねばならない。
（２）多才な能力： 主人公は、その物語を最後まで牽引するだけの精神的、感情的、身体的な能力を持っていなければならない。金持ちであるべきか貧乏であるべきか、博識であるべきか無知であるべきか。それは物語によって違う。だが、彼の取る選択と行動が、彼ならではのものであり、説得力を持つだけの能力が必要だ。
（３）負け犬（アンダードッグ）であること： これをやってみたまえ。片方の手のひらに主人公の能力を乗せ、もう片方の手のひらに、彼が物語の中で直面するであろうすべての敵対的な力…内なる葛藤、人間関係の軋轢、社会的な障害、そして不運や病といった物理的な困難…そのすべてを乗せるのだ。そして、両者を天秤にかける。

マズオ： 天秤に…。

マーベリック： その時、必ず敵対的な力の方が重く、主人公が圧倒的に不利な『負け犬』に見えなければならない。彼には勝つチャンスがある。だが、それはあくまでも『チャンス』に過ぎない。人は、自分より弱い立場にいながらも、強大な力に立ち向かう者に感情移入するのだ。

（４）共感を呼ぶ性質： 人は物語の世界に入ると、本能的に『善の中心』を探す。正義、善良さ、愛といった、ポジティブな価値が輝く場所を見つけ、そこに自らの共感を寄せたいのだ。なぜなら、人間は誰しも、心の奥底では自分を「善人」だと信じたい生き物だからだ。ほとんどの物語は、この『善の中心』を主人公に置く。たとえその主人公がマフィアのボス（『ゴッドファーザー』のコルレオーネ家）であっても、「家族への忠誠」という一点の輝きがあれば、観客はそこに共感の拠り所を見出すのだ。
（５）好奇心をそそる謎（イントリーグ）： 最も複雑で、最も人を惹きつけるキャラクター。それが主人公だ。キャラクターの内面に二つの相反する性質が同居している時、読者は自然と「こいつは一体何者なんだ？」という問いを抱く。その答えを追い求める好奇心が、彼らを物語に釘付けにする。
（６）長さと深さ： 主人公は物語の最前線に立ち、読者の心の大半を占める存在だ。その結果、物語が進むにつれて、彼の隠された動機や無意識の欲望が、プレッシャーのかかる選択を通じて、少しずつ露わになっていく。クライマックスを迎える頃には、彼はキャストの中で最も深く知られた存在となっていなければならない。
（７）変化の可能性： 人間の本質はそう簡単には変わらない。だからこそ、変化しないキャラクターの方が、ある意味ではリアルに見える。だが、物語が描くべき最もドラマチックなもの、それは『変化』だ。そして、キャストの中で最も変化する可能性を秘めているのが、主人公なのだ。善人へと改心するのか（『クリスマス・キャロル』のスクルージ）、悪へと堕落するのか（『ブレイキング・ッド』のウォルター・ホワイト）、あるいは幻滅の中で真実を知るのか。その変化の軌跡こそが、物語の背骨となる。
（８）洞察（インサイト）： 葛藤は、キャラクターの人生の均衡を崩すと同時に、彼に「なぜ物事はこうなるのか」「なぜ人はこういうことをするのか」という『洞察』を求める機会を与える。最も強烈な葛藤を経験する主人公は、最も劇的な『エピファニー（天啓）』…つまり、世界の真実を垣間見る閃きを経験する可能性が最も高いキャラクターなのだ。

マーベリックは一気に八つの資質を語り終え、マズオの顔を覗き込んだ。

マーベリック： どうだね？君の創り出そうとしている主人公は、これらの資質を兼ね備えているかね？

マズオは、自分の書きかけの脚本の主人公を思い浮かべた。意志は弱く、特に才能もなく、順風満帆で、善人なだけの、何の謎もない、浅くて、全く変化せず、何も学ばない男…。

マズオ： ぜ、全部ダメです…。僕の主人公、ただのいい人なだけの、つまらない『役割』の人形でした…。

マーベリック： ようやく気づいたか。ならば、その人形の腹をかっさばき、内臓をすべて入れ替えるのだ。これらの八つの資質を核として、生きた太陽を創造しろ。そこから、君のキャラクター銀河の創造が始まるのだ。

マズオは決意を固めた。まずは、あの退屈な主人公を、見る影もないほど魅力的で、葛藤に満ちた『負け犬』に改造してやろう。

マーベリック： よろしい。では次回は、キャラクターの外面…つまり、読者や観客が最初に目にする『キャラクターリゼーション』を、いかにして創造していくかについて語ろう。人は見かけが九割、というだろう？

マーベリックがにやりと笑う。マズオのキャラクター創造の旅は、ようやく太陽系の中心から始まろうとしていた。

第七話：外面が語るもの（キャラクターリゼーション）

マズオ： マーベリック様！主人公たる者の八つの資質、肝に銘じました！あの後、僕の主人公を徹底的に『負け犬』にしてやりましたよ！借金まみれで、恋人には逃げられ、おまけに不治の病の宣告まで受けさせてやりました！

マズオは息巻いているが、マーベリックは呆れたように首を振る。

マーベリック： マズオ君、君は『負け犬』をただの『不幸な人』と勘違いしている。重要なのは、逆境の大きさではなく、その逆境に立ち向かう『意志の力』と、それでもなお輝く『善の中心』なのだ。単に不幸を羅列しただけでは、同情は引けても共感は得られん。

マズオ： うっ…そうでした…。

マーベリック： まあいい。試行錯誤は成長の糧だ。さて、君がキャストの銀河系を構想し終えたなら、次はその一つ一つの星に、生命の輝きを与えねばなるまい。今日は、キャラクターの『外面』…読者や観客が最初に触れる、その人物の印象を形作る『キャラクターリゼーション』について講義しよう。

マズオ： 外面！見た目とか、そういうことですか？

マーベリック： 見た目だけではない。キャラクターリゼーションとは、その人物の観察可能、あるいは推測可能な、ありとあらゆる外面的な特徴の総体だ。そして、それは三つの重要な機能を果たす。

☆キャラクターリゼーションの三つの機能

マーベリック： まず第一に、『信頼性（クレディビリティ）』。

マズオ： 信頼性…。「こいつ、嘘ついてないな」って思わせることですか？

マーベリック： もっと根源的な話だ。作家にとって最悪の恐怖は何だと思うかね？退屈だと思われることか？嫌われることか？違う。読者や観客から、『信じてもらえないこと』だ。

マズオ： ああ…。「こんな女がこんなことするわけないだろ！」って思われたら、もうおしまいですね。

マーベリック： その通り。物語への没入は、キャラクターへの信頼から始まる。読者は、そのキャラクターの精神的、感情的、身体的な特徴と、彼らが語り、感じ、行うことの間に、正直な繋がりを感じ取った時、初めてその物語世界に身を委ねるのだ。ハリー・ポッターが魔法を使うことを我々が信じるのは、彼のキャラクターリゼーションが、彼の行動に揺るぎない説得力を与えているからに他ならない。

マーベリック： 第二の機能は、『独創性（オリジナリティ）』だ。

マズオ： また出ましたね、オリジナリティ！

マーベリック： 我々は、既に知っていることを学ぶために物語を読んだりはしない。「今まで出会ったことのない人生の洞察を、今まで出会ったことのない独創的なキャラクターを通して体験させてくれ」と、祈るような気持ちでページをめくるのだ。独創性は『具体性』から生まれる。キャラクターリゼーションが曖昧で一般的であればあるほど、その役は模倣的で予測可能な、柔軟性のないものになる。逆に、具体的で詳細であればあるほど、そのキャラクターは独創的で、驚きに満ちた、変化に富んだ存在となる。

マズオ： 具体的に、ですか。

マーベリック： そうだ。「お洒落なキャラクター」などという抽象的な設定では不十分だ。君が、現代のファッションの潮流を徹底的にリサーチし、街角で最先端の若者たちを何時間も観察し、最もヒップな店で偽の買い物をしながらノートを埋め尽くす。その果てに初めて、誰も見たことのない、それでいて確かなリアリティを持つ「お洒落」が生まれるのだ。

マーベリック： そして、第三の機能が『好奇心（イントリーグ）』だ。

マズオ： 謎、ですね！

マーベリック： ユニークなキャラクターリゼーションは、我々の好奇心を鷲掴みにし、「この仮面の下には、一体どんな素顔（真のキャラクター）が隠されているのだろう？」と思わせる力を持つ。例えば、薄暗い部屋で、汗まみれの汚れた下着一枚で、ビールを呷りながらアメフトの再放送を見ている、無精髭の男がいるとしよう。そのイメージを見て、君は「この人の本当の姿が知りたい！」と思うかね？

マズオ： いや、全く…。ただのダメ親父だなって思うだけです。

マーベリック： だろう？クリシェは好奇心を破壊するのだ。「このキャラクターは誰か？」という問いに、「見たまんまの人間です」と答えてしまうからだ。信頼できるキャラクターを創り、読者の好奇心を刺激し、その謎への探求心に報いるためには、まず魅力的な世界を構築し、そこに等しく魅力的な独創性を持つキャラクターを住まわせる必要がある。

☆キャラクターを形作る『世界』

マズオ： なるほど…。キャラクターリゼーションって、ただの味付けじゃなくて、物語の根幹に関わるんですね。じゃあ、具体的に何から考えればいいんですか？

マーベリック： キャラクターリゼーションは遺伝子から始まるが、その外面を最終的に形作るのは、彼または彼女を取り巻く『世界』、すなわち『セッティング（設定）』だ。セッティングは、キャラクターの外面的な容姿と行動に絶大な影響を与える。

マズオ： 設定…。

マーベリック： 設定にはまず、『時間』と『空間』がある。時代は現代か、過去か、未来か。期間は二時間の出来事か、あるいは一生か。場所はどこか。山の頂か、宇宙ステーションか、ありふれた街角の一室か。

マーベリック： さらに重要なのが、その世界における『対立のレベル』だ。自然との対立か（物理的）、法との対立か（社会的）、家族との対立か（個人的）、あるいは自己との対立か（内面的）。これらの設定の組み合わせが、キャラクターの行動パターンを規定するのだ。北欧の厳しい気候と、地中海の温暖な気候が、それぞれ全く異なる気質の人々を生み出すようにな。

☆持ち物がその人を語る

マズオ： 環境が人を作る、ってことですね。

マーベリック： それだけではない。君が創り出す世界のあらゆる要素は、道徳的な価値を帯びていなければならない。ただの車ではない。オペラハウスの前に停められたショッキングピンクのマセラティは、その持ち主の馬鹿げたほどの富裕さと、それを皮肉な笑みで受け取る駐車係のキャラクターを同時に描き出す。君はキャラクターの最初の俳優であると同時に、物語の最初の『美術監督』でもあるのだ。

マズオ： 持ち物とか、住んでる家とかも、キャラクターリゼーションになるんですね！

マーベリック： その通りだ。ヘンリー・ジェイムズの小説『ある婦人の肖像』の中で、マダム・マールはこう喝破している。「人間は誰しも自分の殻を持っていて、その殻も考慮に入れなければなりません。（中略）私たちの『自己』とは何でしょう？どこで始まり、どこで終わるのでしょう？それは私たちが持つすべてのものに溢れ出し、そしてまた戻ってくるのです。（中略）家、家具、衣服、読む本、付き合う仲間――これらすべてが表現なのです」とね。

☆外面的な特徴のチェックリスト

マズオ： 分かりました！キャラクターを創るために、その人の外面を具体的に想像してみます！

マーベリック： よろしい。では、君の想像力を刺激するために、キャラクターリゼーションを生成するための短いチェックリストを授けよう。君の物語に応じて、項目を追加したり、削除したりしながら使うといい。

マーベリック：
・名前とニックネーム： ありふれた名前は凡庸さを、象徴的な名前は寓話性を与える。だが、やり過ぎは笑い話になるので注意しろ。
・裸体と衣服： キャラクターを丸裸にして、その身体的特徴をリストアップせよ。年齢、身長、体重、肌の色、髪質、姿勢、歩き方。それから、彼をショッピングに連れて行き、何を着たいか想像させ、次に彼のクローゼットを覗き、実際に何を持っているかを確認するのだ。
・ジェンダーと性生活： 彼または彼女が抗いがたいほどエロティックだと感じるものは何か？それに対して、彼らは何をするのか、あるいはしないのか？
・声のトーンと言語： 目を閉じて、彼の声を聞け。語彙、文章構造、声の高さ、口癖、そして彼が好んで使う比喩表現は何か。彼が何を言うか、ではなく、『どう言うか』が重要だ。
・表情とジェスチャー： 彼の目の奥には何が宿っているか？彼特有の癖、身振り、エネルギーの使い方は？
・職業と娯楽： 人は「何をして生きているか」で自らを定義することが多い。そして、「何をして遊ぶか」で第二のアイデンティティを持つ。彼の仕事と遊びは何か。それは彼にとって何を意味するのか？
・知識と無知： 彼は何を知っていて、何を知らないのか？学歴だけでなく、人生で何を学び、何を学び損ねたのか？
・信条と会話： 彼が信頼できるものは何か？彼はよく何について話すか？その話題は、彼が何について考えているかを映し出す鏡だ。
・礼儀作法（マナー）： 彼は他人にどう接するか？その態度は、文明社会における彼の立ち位置を示す。

☆だが、本当の彼は何者なのか？

マズオ： うおおお…！これだけで、キャラクターがどんどん立体的になってきました！

マーベリック： これらはすべて、外面的な『明示的特徴』だ。だが、これだけでは足りない。これらの外面から滲み出る『暗黙的特徴』…彼の性格、知性、態度、感情、そういったものを感じ取らねばならない。

マズオは興奮した様子でペンを走らせている。そんな彼に、マーベリックは静かに、しかし鋭く問いかけた。

マーベリック： だが、忘れるな、マズオ君。これらすべては、あくまでも表面に過ぎない。「あるがままの姿など、どこにもない」という古い格言の通りだ。キャラクターリゼーションは、キャラクターが『何者であるように見えるか』を表現するだけで、彼が『実際に何者であるか』を語るものではない。

マズオ： えっ…？

マーベリック： 読者や観客は、信頼でき、好奇心をそそるキャラクターリゼーションに出会った時、こう思うだろう。「面白い。だが、本当の彼女は何者なんだ？誠実なのか、不誠実なのか？愛情深いのか、残酷なのか？強いのか、弱いのか？彼女の本質的な、真のキャラクターは何なのだ？」とね。

マーベリックは窓の外に広がる夜景を見つめながら言った。

マーベリック： 次の章では、その問いに答えるため、目に見えず、心の内側にのみ存在する『真のキャラクター』の側面について見ていくことにしよう。

マズオは、自分が作り上げたチェックリストを見つめていた。確かに、キャラクターの輪郭は浮かび上がってきた。だが、その心臓はまだ動いていない。本当の戦いは、これから始まるのだ。

第八話：内面が叫ぶもの（真のキャラクター）

マズオ： マーベリック様！キャラクターリゼーションのチェックリスト、すごいです！僕の主人公、前はただの不幸な男でしたけど、今は「古着のロックTシャツを愛用し、皮肉なジョークばかり言うけど、実は捨て猫に餌をやるような、不器用で優しい一面を持つ男」になりました！

マーベリック： ふむ。外面のディテールを重ねることで、ようやく『らしさ』が出てきたというわけか。だが、それはまだ、君が創り出した人物の『表皮』に過ぎない。

マズオ： 表皮、ですか？

マーベリック： そうだ。我々が新しい人物に出会う時、本能的にその表面的な性格描写（キャラクターリゼーション）の奥を覗き込み、常に一つの問いを発している。それは、「この人物は…『本当は』何者なのだろう？」という問いだ。

マズオ： ああ…第七話の最後に言っていたことですね。

マーベリック： その通り。キャラクターの公的なペルソナと個人的なペルソナが組み合わさって、彼の外面的な『キャラクターリゼーション』というファサード（建物の正面）を形成する。だが、そのファサードの奥には、彼の私的な自己と隠された自己が生成する『真のキャラクター』…彼が『実際にそうである』内面的な人物が潜んでいる。

☆選択こそが真実を語る

マズオ： その『真のキャラクター』は、どうすれば表現できるんですか？セリフで「俺は本当はこういう人間なんだ」って語らせるとか？

マーベリック： 最悪の手だ。そんな自己申告を信じるほど、読者や観客は甘くはない。人は自分自身について、最も自己欺瞞に陥りやすい生き物なのだから。

マズオ： じゃあ、他のキャラクターに「あいつは本当は〇〇な奴なんだ」って噂話をさせるとか？

マーベリック： それもまた、他人の主観に過ぎない。真実を明らかにする手段としては弱すぎる。

マズオ： じゃあ、一体どうすれば！？

マーベリックはマズオの目をまっすぐに見据え、断言した。

マーベリック： 『選択』だ。プレッシャーの中で、その人物が何を選び、どう行動するか。それだけが、彼の『真のキャラクター』を、疑いようのない真実として我々に突きつけるのだ。

マズオ： 選択…。

マーベリック： 平穏な時に何を選ぶかは、大した意味を持たない。なぜなら、そこにリスクがないからだ。正直でいることに何のコストもかからないなら、誰でも正直者でいられる。だが、人生で最も暗い瞬間、強力な負の力に直面し、リスクが最大になった時、その人物が下す行動こそが、真実を暴き出す。彼は正直者か、嘘つきか？愛情深いか、残酷か？寛大か、利己的か？強いか、弱いか？善か、悪か？命を懸けるのか、命を奪うのか？その答えは、ただ一つの『選択』の中に凝縮される。

☆動機（モチベーション）の源泉を探る

マズオ： なるほど…。追い詰められた時の選択が、その人の本性を現すんですね。でも、そもそも、なぜ人はそういう選択をするんでしょうか？その行動の根本にある力って、何なんですか？

マーベリック： 『動機（モチベーション）』だ。作家の語彙の中で、最も理解されていない言葉の一つだよ。心理学者でさえ、その正体についてはいまだに議論を続けている。

マズオ： 動機…。

マーベリック： 人を動かす力は、過去から背中を押す力か？それとも、未来から手招きする力か？私は、動機と欲望は二つの異なるエネルギーだと考えている。

マーベリック： 『動機』とは、キャラクターの過去に根差し、背後から彼を突き動かす、いわば『満たされざる渇望』だ。それは無意識的で、漠然としている。一方、『欲望』とは、未来に錨を下ろし、キャラクターをまだ見ぬ場所へと誘う、具体的な『目標』だ。

☆内側から突き上げる十二の動機

マーベリック： 人間は、生まれながらにして生存や愛、意味を求める、様々な『動機』という名の衝動を内包している。それは船の帆を膨らませる風のように、キャラクターを前方へと押し出す力だ。今日は、その中でも根源的な十二の動機を、原始的なものから高次なものへと順に紹介しよう。君のキャラクターが、これらのどの風を受けているのか、考えてみるといい。

マズオ： 十二も！お願いします！

マーベリック：
１．不死への渇望： 死の恐怖こそが、人間を動かす最も強力な動機だ。我々はいつか死ぬ。だからこそ、墓石のように、自分がここにいたという証を何か残したいと願う。都市、宗教、芸術…人類が築き上げてきた文明のすべては、この広大な『不死プロジェクト』の産物なのだ。
２．生存本能： すべての生物は、自らが「善」だと認識するものに向かって行動する。たとえそれが非道徳的であったとしても、生き残るために必要だと判断すれば、人間はためらいの後に、必ず生存を選ぶ。
３．均衡の追求： 脳内の小さな天秤が、常にプラスとマイナスの均衡を求めている。不正によってその均衡が崩れれば、我々の心は復讐という名の『正』を渇望し、バランスを取り戻そうとする。
４．快楽の追求： たとえ未来に痛みが待っていると分かっていても、快楽への渇望は抗いがたい。苦しい記憶に苛まれる者は、阿片がもたらす一時の忘却の快楽に身を投じる。
５．性の衝動： フロイトが看破したように、性的な本能は、人生のあらゆる目標の根底に横たわる、強力な駆動力だ。
６．権力への意志： アドラーが言うところの「劣等感（インフェリオリティ・コンプレックス）」の裏返しだ。人は社会のピラミッドのどこにいようと、常に自分より上の者と下の者を意識し、自らの相対的な力を測ろうとする。
７．共感と所属欲求： 部族を形成し、どこかに所属したいという渇望。仲間が苦しめば、自分も痛みを分かち合う。その一体感が、人を強くする。
８．「もっと」への欲望（貪欲）： 満足という言葉を人間は知らない。「もっと多く」を求める渇望は、時に『嫉妬』へと姿を変える。他人が持ち、自分が持たぬものへの苦痛。それが手に入らないと悟った時、それを破壊したいという衝動に駆られる。
９．知的好奇心： 「やらねばならない」と「やりたい」の間には、天と地ほどの差がある。人間の心は、ただそれ自体が目的であるような、スキルを要するタスク、解決すべき問題を好む。創造のプロセスが、完成品以上に満足感を与えるのはこのためだ。
１０．意味への探求： 意味のない人生は、目眩のするような空虚なものだ。金や名声を手に入れた者がしばしば鬱に陥るのは、目的を達成したことで、人生を支えていた『苦闘』が失われてしまうからだ。
１１．自己実現： 自己を知る心は、まだ使われていない自らの人間性、精神的・感情的なポテンシャルを感じ取る。その深淵を覗き込み、内なる約束を果たしたいと願う。
１２．超越への憧れ： ユングが言うように、我々の無意識の奥底には、神のごとき知識、精神的な完成といった、形而上学的な完全性への憧れが眠っている。

☆欲望の対象が、動機を形にする

マズオ： すごい…人間の行動の裏には、こんなにたくさんの『渇望』が渦巻いているんですね…。

マーベリック： その通りだ。そして、これらの漠然とした『動機』は、物語の発端となる『インサイティング・インシデント』によって、具体的な『欲望の対象』へと焦点を結ぶ。

マズオ： 欲望の対象！

マーベリック： 例えば、『ロミオとジュリエット』。ロミオの内に眠っていた性の衝動（動機）は、麗しいジュリエットという刺激によって点火され、「ジュリエットを妻にする」という具体的な『欲望の対象』へと彼を駆り立てる。

マズオ： なるほど！

マーベリック： インサイティング・インシデントが、眠っていた動機を目覚めさせ、それを未来へと向かう行動へと転化させるのだ。その『欲望の対象』こそが、キャラクターを物語の最後まで引っ張っていく牽引力となる。

☆ジレンマこそが、真の選択

マズオ： 分かりました！じゃあ、主人公にどんどん『選択』をさせていけば、彼の『真のキャラクター』が明らかになっていくんですね！

マーベリック： 待て、マズオ君。ただの選択ではダメだ。劇的に説得力があり、キャラクターを暴き出す唯一の決断とは、『ジレンマ（板挟み）』の中での選択だ。

マズオ： ジレンマ？

マーベリック： そう。善と悪、幸福と不幸といった、明白なプラスとマイナスの選択は、些末だ。我々は、キャラクターがどちらを選ぶか、彼自身が気づく前にもう知っている。人間は常に、自分がプラスだと認識するものを選ぶからだ。それは第一の法則だ。

マーベリック： 真にキャラクターを暴き出すのは、二つの『同程度の価値を持つもの』の間での選択だ。二つの望ましいもの、しかし両立不可能なもののどちらかを選ばねばならない『ポジティブなジレンマ』。あるいは、二つの望ましくないもの、避けられない悪のどちらかを選ばねばならない『ネガティブなジレンマ』。

マズオ： ああ…「仕事と私、どっちが大事なの！？」みたいなやつですね。

マーベリック： 陳腐な例えだが、まあ本質はそうだ。ジレンマはキャラクターにプレッシャーをかけ、リスクを負わせる。彼がどちらを選ぼうと、その選択は、彼の価値観の序列、つまり『真のキャラクター』を、これ以上ないほど明確に表現するのだ。『ノーカントリー』の男が、家族の命と麻薬組織の金を天秤にかけた時のようにな。

マーベリックは、マズオの目を覗き込む。

マーベリック： いいかね。リスクとプレッシャーが大きければ大きいほど、その選択はより深く、より真実味を帯びる。そして、その選択が自由であればあるほど、その選択はキャラクターのアイデンティティそのものを、より深く、より真実に描き出す。ハムレットがシェイクスピアの悲劇の中で最も複雑なのはなぜか？嫉妬に盲いたオセロや、娘たちに運命を委ねたリア王と違い、彼には、自殺するか否か、復讐するか否か、愛するか否か…無限の『自由な選択』が与えられていたからだ。

マズオは、自分のノートに震える手で書きなぐった。「キャラクターとは、選択である。そして、その選択は、ジレンマの中でこそ輝く」。

マーベリック： さあ、外面的なキャラクターリゼーションと、選択によって明らかになる内面的な真のキャラクター。この二つの概念は理解できたかな？次回は、この二つの層の間に生じる『矛盾』こそが、キャラクターに『次元』、すなわち深みを与えるという、さらに高度な領域に足を踏み入れることにしよう。

第九話：「矛盾」こそがキャラクターの命