*本教材の定価は「4万円」です。

【重要】本教材の価格について

本教材は段階的価格システムを採用しており、時間の経過とともに価格が上昇いたします。

■ 価格変動スケジュール

第1段階：特別価格 300円

教材公開直後からスタート
早期購入者様への特別価格です

第2段階：500円

売れ行きの状況により、300円から500円へ価格を変更いたします
需要が旺盛の場合、早期に値上げとなります
価格変更は予告なく行われますのでご注意ください

第3段階：正規価格 40,000円

500円での販売開始から3日後に正規価格となります
以降はこちらの価格での販売となります

■ ご購入をお考えの方へ

本教材の正規価格は40,000円です。現在の特別価格でのご提供は、アーリーアダプターに報いたいという気持ちからです。

価格変動のタイミングは需要状況により決定されます。需要が高い場合、早期に値上げとなります。

【なぜこのコンテンツを作ったのか】

このコンテンツの制作理由をお話しする前に、まずあなたに、私がこれにどれだけのものを注ぎ込んできたかをお伝えさせてください。

この教材の構想には、実に5年の歳月を費やしました。そして、その構想を文字に起こすために、まる3ヶ月間、私は執筆だけに没頭しました。その過程でリサーチや文献の購入にかけた費用は、総額で2200万円を超えています。

なぜ、そこまでしたのか。その理由をお話しします。

今回、売れるスピリチュアルコンテンツの「型」を解き明かすにあたり、私は市場に存在するありとあらゆるスピリチュアル本を徹底的に調査しました。その数は、およそ3000冊を超えています。その膨大な情報の中から、特に完成度が高く、商業的に大成功を収めている書籍を「教科書」として選定し、そこに隠された普遍的なパターン、つまり「儲けの型」を一つ一つ抽出していきました。

断言しますが、このようなアプローチでスピリチュアルコンテンツの構造を解き明かした教材は、これまで日本には存在しませんでした。おそらく、これが日本初です。

あなたが本書で学ぶような本質的な知識は、他のどこを探しても見つからないでしょう。もし知りたいのであれば、成功しているスピリチュアル作家本人に直接インタビューするしかありません。しかし、考えてみてください。彼らが自分の手の内、つまり稼ぎの秘密を、やすやすと明かすでしょうか？おそらく、はぐらかされるか、本質とはかけ離れた綺麗事を語られるのが関の山です。だからこそ、あなたはこのコンテンツを読む必要があるのです。この世界で、その秘密を解き明かしている人間が、他にいないからです。

では、なぜテーマが「スピリチュアル」なのか。理由は極めてシンプルです。このジャンルが、とてつもなく巨大な市場だからです。一説には1兆円市場とも言われています。コンテンツビジネスで成功したいなら、お客様がいる場所で勝負するのが最も賢明なのは言うまでもありません。

そして、スピリチュアルというテーマは、人間の本能に直接訴えかけます。例えば、私が本編で解説するような金融工学や物理学の話は、難解すぎて顧客の数が限られます。しかし、スピリチュアルであれば、誰もが興味を持ち、自分ごととして捉えることができます。さらに、コンテンツを作る側にとっても、科学的なエビデンスなどを気にする必要がないため、非常に制作がしやすいというメリットがあります。

つまり、あなたが本書で語られる「型」をマスターすれば、今月、あるいは来月には、目に見える成果を出すことも十分に可能なのです。すぐに結果が出せる。だからこそ、スピリチュアルなのです。

このコンテンツは、コンテンツビジネスで稼ぎたいと願うすべての人、そして、スピリチュアルビジネスで確かな成功を掴みたいと考える、あなたのために書きました。

最後に、私の個人的な思いを少しだけお話しさせてください。

私自身、かつては約7年間もの間、全く結果が出せずに苦しんだ人間です。その気持ちは、痛いほどわかります。本書の主人公である、報われない男「マズオ」。彼は、かつての私自身なのです。真面目で、知識はあるが、頭が硬くて商売のセンスがまるでない。コンテンツビジネスの世界には、こうした傾向を持つ人が、実は非常に多いのです。

そんな彼らに、どうすれば救いの手を差し伸べられるか。その答えが、本書で語られる「商売の原理原則」であり、「資本主義のルール」です。人生において、最も貴重な資源は時間です。私は、あなたが成功するまでの時間を、ほんの少しでも短縮したい。5年かかるところを、1ヶ月にしたい。その一心で、このコンテンツを創り上げました。

本書を読み終える頃、あなたは売れるスピリチュルコンテンツの作り方を、完全に理解しているでしょう。そして、もう二度と、苦労してコンテンツを作っても稼げない、という悩みとは無縁になっているはずです。あなたの成功を、心から願っています。

【なぜ「対話形式」なのか ────本教材の構成について】

本書を読み進める中で、もしかしたらあなたはこう感じたかもしれません。「なぜ、この教材は普通の解説書ではなく、神と人間の対話という物語形式になっているのだろう？」と。

単に奇をてらったわけではありません。この形式を選んだのには、あなたの学習効果を最大化するための、3つの明確な理由があります。

1つ目の理由は、知識を「擬似体験」していただくためです。

一般的なビジネス書や解説書は、どうしても書き手から読み手への一方的な情報の伝達になりがちです。あなたはそれを受動的に読むだけで、どこか他人事のように感じてしまうかもしれません。

しかし、対話形式の物語であれば、あなたはこの世界の主人公である「マズオ」に自分自身を重ね合わせることができます。マズオが抱く「本当にこんなことで稼げるのか？」という疑問や、「自分のやってきたことは間違いだったのか」という葛藤は、おそらくあなたが今まさに感じていることと同じはずです。

神サウロの鋭い指摘にマズオが打ちのめされる時、あなたも共に打ちのめされ、彼が新たな知恵を得て光明を見出す時、あなたも共に光明を見出す。この一連のプロセスは、あなたが本書の知識を単なる情報としてではなく、あなた自身の「体験」として深く、そして強く魂に刻み込むための、意図的に設計された仕掛けなのです。ただ読むのではなく、マズオと共に学び、成長していく。それがこの形式の最大の狙いです。

2つ目の理由は、複雑な概念を「段階的に理解」していただくためです。

本書で扱う心理学や商売の原理原則は、時に非常に難解で、抽象的です。もしこれらの概念を、教科書のようにただ羅列してしまったら、多くの人は途中で読むのをやめてしまうでしょう。それは、本書でサウロが説いているように、我々の脳が「考える」という努力を嫌う怠け者だからです。

その点、対話形式であれば、知識ゼロの素人であるマズオが、あなたの代わりに「それって、どういうことですか？」「具体例を教えてください」といった素朴な質問を、神サウロに次々と投げかけてくれます。あなたは、マズオというフィルターを通して、難しい概念を一つ一つ、無理なく自分のペースで噛み砕いていくことができます。まるで、優秀な家庭教師が隣に座り、あなたの理解度に合わせて授業を進めてくれているような感覚です。この段階的なプロセスが、あなたの挫折を防ぎ、最後まで学び抜くための強力なサポートとなります。

そして3つ目の理由は、物語の力が「記憶への定着」を促すからです。

本書のテーマそのものでもありますが、人間の脳は、無味乾燥な事実の羅列よりも、感情を伴う「物語」を遥かに強く記憶するようにできています。

ただ「損失回避とは、利得の喜びより損失の痛みを2倍強く感じることです」と説明されるだけでは、その知識はすぐに忘れ去られてしまうかもしれません。

しかし、「借金まみれのマズオが、神サウロから損失回避の法則を学び、それを応用して信者の心を操る商品を開発していく」という物語の中でその知識に触れたならどうでしょうか。マズオの驚きや興奮、そして彼の人生が劇的に変わっていく様が、知識と強く結びついたエピソードとして、あなたの記憶に深く刻まれるはずです。

この物語は、あなたが本書で学んだ禁断の知識を、決して忘れることのない「血肉」に変えるための、最も効果的な装置なのです。

以上の理由から、私はあえてこの対話形式を選びました。

【本教材の情報量と体系性】

まずはこちらの画像をご覧ください。

これは、これからあなたが手にしていただく教材の全貌を、1枚の図として視覚的に表現したものです。

文字が細かくて読めないかもしれませんが、その圧倒的なボリューム感は伝わるのではないでしょうか。左の太い幹から無数の枝が伸び、さらにその先には数えきれないほどの葉が茂っているように見えます。この一つひとつの末端が、具体的なノウハウや重要な知識、そして実践的なテクニックにあたります。

しかし、本教材の真の価値は、単に情報量が多いことだけではありません。最もお伝えしたいのは、その「高度な体系性」です。

この複雑に見える構造こそ、実はすべての知識が論理的なつながりを持って構成されていることの証なのです。情報がバラバラに詰め込まれているのではなく、まるで1本の木が根から幹へ、幹から枝へと養分を届けるように、基礎から応用までスムーズに理解が進むよう緻密に設計されています。

これにより、あなたは断片的な情報を追いかけるだけの学習から解放されます。物事の本質から全体像までを体系的に学ぶことで、一時的なテクニックではなく、揺るぎない知識とスキルをあなたの血肉とすることができるでしょう。

この1枚の図に凝縮された知の体系こそが、私が自信を持って本教材をお届けする理由です。

【先行テスター2人の喜びの声】

（11年間スピリチュアル発信を続けるも、全く稼げなかったA様 52歳）

「覚醒」。陳腐な言葉に聞こえるかもしれませんが、このコンテンツを読んだ瞬間の私を表現するのに、これ以外の言葉が見つかりません。

私は、11年間、ヒーラーとして、そしてスピリチュアルカウンセラーとして情報発信を続けてきました。「宇宙の愛」や「魂の目的」といった、心から素晴らしいと信じるメッセージを、誠実に伝え続けてきた自負があります。しかし、現実は残酷でした。私の活動は、ほんの数人の熱心なクライアントに支えられているだけで、経済的には常に困窮していました。「なぜ、私のメッセージは届かないのだろう」「なぜ、私は豊かになれないのだろう」。その答えの出ない問いに、11年間もがき続けてきたのです。

しかし、このコンテンツを読んで、その理由が、あまりにも明確にわかりました。まさに雷に打たれたような衝撃でした。「なるほど、これだったのか！」と。私は、「良いこと」を伝えようとはしてきましたが、それが人々に「ウケる型」になっているかどうかを、一度も考えたことがなかったのです。サウロが語る、人の心を動かすための数々の仕掛け。権威性の作り方、物語の紡ぎ方、コミュニティの設計法。そのどれもが、私の発信に決定的に欠けていたものでした。私は、ただ自己満足のメッセージを、一方的に投げつけていただけだったのです。

このコンテンツは、私の11年間の苦悩に、終止符を打ってくれました。これは単なる儲け話ではありません。人の心に、どうすれば自分の思いを届けることができるのか。その本質を教えてくれる、愛に満ちた教科書です。この知識がなければ、私はあと10年、20年と、同じ場所で足踏みを続けていたことでしょう。本当に、ありがとうございました。

（エビデンス重視の情報発信を続けるも、全く稼げなかったB様 38歳）

正直に告白します。最初にこのコンテンツのタイトルを見た時、私は強い嫌悪感を覚えました。「スピリチュアルで稼ぐ」？ふざけるな、と。私は、科学的なエビデンスに基づいた、真実の情報だけを発信することこそが「正義」だと信じていました。だから、根拠のないスピリチュアルで儲けようなどという考え方は、唾棄すべきものだとさえ思っていたのです。

しかし、読み進めることを決めたのは、ある一つの悔しい現実があったからです。それは、私がどんなに正しい情報を発信しても全く稼げない一方で、デタラメばかりを語るスピリチュアルインフルエンサーや、カルトの教祖たちが、爆発的にお金を稼いでいるという事実です。悔しい。けれど、これが「商売」というものなのだと、認めざるを得ませんでした。

そして、私はこのコンテンツを読み、完全に打ちのめされました。スピリチュアルビジネスというものが、私が想像していたような、単なる思いつきやデタラメの産物ではなかったからです。そこには、『ファスト＆スロー』に代表されるような、人間の心理を知り尽くした、極めて知的で、冷徹なまでに戦略的な「仕組み」が存在したのです。

人の認知バイアスを巧みに利用し、感情を揺さぶり、物語で心を掴む。その緻密な設計図を目の当たりにして、私は自分が「正しさ」という名の小さな砦に閉じこもり、商売の本質から目を背けていただけだったのだと気付かされました。これは、もはやスピリチュアルの教材ではありません。人の心を動かすとはどういうことか、その原理原則を教えてくれる、最高の「人間心理学の教科書」です。私のように、プライドが邪魔をして稼げずにいる人にこそ、読んでほしい。世界の見え方が、180度変わることを保証します。

【悪用厳禁】

本コンテンツで解説する内容は、人の心理に深く作用する、極めて強力な技術を含みます。

その性質上、使い方を誤れば、他者を不当に操作し、意図せず害を及ぼす危険性があります。

本コンテンツの情報を利用した結果、あなた自身、あるいは第三者に何らかの損害やトラブルが発生した場合でも、著者および関係者は一切の責任を負いかねます。

ここに書かれた知識をどのように利用するかは、すべてあなたの自己責任となります。あらかじめご了承の上、倫理観を持ってご活用ください。

【本編】

【あらすじ】

主人公の間宮益夫（マズオ）は、理系の大学院を卒業しながらも社会に馴染めず、33歳にしてコンビニの深夜バイトで生計を立てる男である。彼の唯一の希望は、9年間続けてきた物理学の解説YouTubeチャンネルだった。しかし、「質の高いコンテンツを作れば成功する」という信念は無残に打ち砕かれ、チャンネル登録者はわずか214人、月の収益は2500円という惨憺たる結果に終わっていた。

ある夜、人生に絶望し、安酒に溺れて眠りについたマズオの夢の中に、神を名乗る謎の存在「サウロ」が現れる。サウロは、マズオのコンテンツが「“正しい”が、致命的に“売れない”」と一刀両断し、彼に「儲かるスピリチュアルコンテンツの型」を伝授すると宣言する。

サウロは、実在する人気スピリチュアル本を教科書とし、そこに隠された8つの普遍的な「儲けの型」を徹底的に解剖していく。危機感を煽り優越感を与える「二極化・選別論法」、どうとでも解釈できる「万能マジックワード」、教祖を神格化する「チャネリング預言」など、人の心を動かし、熱狂的な信者を生み出すための巧妙な心理操作術が、次々と明らかにされていく。

最初は半信半疑だったマズオだが、サウロの完璧なロジックと、自らの9年間の失敗の原因が符合していくうちに、徐々にその教えにのめり込んでいく。これまで彼が信じてきた「正しさ」という価値観は崩壊し、人の欲望と不安を的確に捉える「商売」という新しい価値観がインストールされていく。

一夜にして8つの型をマスターしたマズオは、夢から覚めると同時に生まれ変わる。彼は、自らの持つ物理学の知識と、サウロから授かった「儲けの型」を融合させた新コンテンツ『量子力学的パラレルシフト講座』を始動させる。

彼の緻密な戦略は、これまでが嘘のように人々の心を掴み、瞬く間に熱狂的な信者コミュニティを形成。初セミナーで売上1000万円を達成し、ついには数億円を稼ぐ、カリスマ教祖へと成り上がる。

これは、一人の冴えない理系貧乏男が、神との出会いをきっかけに、人の心を操る物語の創造主となり、自らが「神」として君臨するまでの、現代の錬金術と支配の物語である。

【登場人物の紹介】

マズオ（間宮益夫）

9年間、真面目な物理学の動画をYouTubeで発信し続けるも、全く稼げずにいる33歳の理系貧乏男。「質の高いものを作れば売れるはず」という純粋だが商売センスのない理想論に縛られ、現実とのギャップに苦しんでいる。読者の視点に立ち、素朴な疑問や倫理的な葛藤を代弁する生徒役である。

神サウロ

マズオの夢の中に突如現れた、神を名乗る謎の存在。人の心理や商売の本質を完全に見抜き、ユーモアを交えながらも辛辣な言葉でマズオを導く。彼の役割は、理想論に凝り固まったマズオの常識を破壊し、「儲かるコンテンツの型」という、身も蓋もないが強力な現実的スキルを伝授する、万能の教師役である。

【本編：開始】

はじめに：なぜ、あなたの“正しい”発信は、1円にもならないのか

☆月収2500円。9年間の努力の結晶

深夜2時。蛍光灯がチカチカと明滅する古びたアパートの一室で、俺はパソコンの画面を睨みつけていた。そこに表示されている数字は、あまりにも残酷だった。

月間収益：2500円。

これが9年間、俺、間宮益夫（まみやますお）、通称マズオが心血を注いできたYouTubeチャンネルの成れの果てだった。9年間だ。3285日。7万8840時間。その膨大な時間を投じて、手にしたのがこの金額。時給に換算すれば、おそらく小数点以下の銭しか稼げていない。

チャンネル登録者数は214人。9年間で214人。1年に約23人ずつ増えた計算になる。月に2人弱。もはや誤差の範囲だ。動画の総再生時間は、全ての動画を合わせても数万回に届かない。高評価ボタンよりも、低評価ボタンの方が多い動画すらある。

これが現実だった。俺の信じた「正しさ」が導いた、紛れもない現実だった。

☆「質」という名の宗教

俺は、理系の大学院を出ている。勉強はできた方だった。論理的思考力には自信があったし、物事を分析し、構造を理解することは得意だった。だからYouTubeを始めたときも、確信があった。「小手先のテクニックは不要だ。コンテンツの質こそが全てだ」と。

俺が選んだテーマは「物理学」。大学院で学んだ知識を活かし、一般人にも分かりやすく物理の面白さを解説する。そんなチャンネルを作れば、知的好奇心旺盛な視聴者が集まってくれるはずだ。質の高い情報には、必ず価値が生まれる。そう信じて疑わなかった。

最初の数年間は、まだ夢を見ていられた。「まだ知られていないだけだ」。「いつか誰かが見つけてくれる」。そう自分に言い聞かせ、ひたすら動画を作り続けた。相対性理論の解説、量子力学の不思議な世界、宇宙の成り立ち。1本1本の動画に、何十時間もかけた。論文を読み漁り、図解を自作し、誰よりも分かりやすい説明を心がけた。

しかし、現実は残酷だった。世界は俺の「質」を評価しなかった。

再生数は伸びない。コメント欄は閑古鳥が鳴くか、たまに「専門用語が多くて分からない」という辛辣な意見が書き込まれるだけ。俺よりもずっと内容が薄っぺらく、エンタメに寄せただけのチャンネルが、いとも簡単に何十万回も再生されていく。その光景を、俺は何度も歯ぎしりしながら見つめていた。

「質が高ければ人は集まる」。それは、純粋すぎた幻想だった。いや、もはや俺にとってそれは「宗教」だったのかもしれない。何の疑いもなく信じ込み、祈るように動画を投稿し続けた、狂信的な宗教だった。

☆貧乏男マズオ、33歳

今の俺の職業は、コンビニの深夜アルバイトだ。大学院を卒業し、一度は研究職を目指したものの、コミュニケーション能力の欠如と不器用さでドロップアウトした。再就職もうまくいかず、いつしかフリーター生活が定着していた。

YouTubeでの成功は、そんな惨めな現実から抜け出すための、唯一の希望だった。億万長者になれるなどとは思っていない。せめて、バイトを辞めても生活できるくらいの収益があれば、それでよかった。自分の好きなことで生きていける。それだけで、俺の人生は救われるはずだった。

だが、現実は逆だ。バイトで稼いだ金は、家賃と生活費、そしてYouTubeの機材費に消えていく。ストレスは溜まる一方だ。発散方法は、もっぱら酒。バイト帰りにコンビニで買った安い焼酎を、水で割って煽る。それが唯一の癒やしだった。

酒を飲むと、自己嫌悪と焦燥感がごちゃ混ぜになった感情が渦巻く。「なぜ俺はダメなんだ」「何が間違っているんだ」。答えの出ない問いが、アルコールで鈍くなった頭を支配する。気づけば、空は白み始めている。寝不足と二日酔いの頭で、またコンビニへ向かう。そんな鬱々とした毎日だった。33歳。同級生は結婚し、家を買い、子供を育てている。俺だけが、学生時代から何も変わらない、いや、むしろ後退した場所で足踏みをしている。

その夜も、俺はいつものように焼酎を片手にパソコンの前に座っていた。9年間の努力の結晶である「2500円」という数字を肴に、ただひたすら酒を呷っていた。

序章：フォロワー214人の絶望と、神との邂逅

☆第1話：鳴らない通知、増えない残高。9年間の努力が塵と化す夜

その夜は、特にひどい日だった。店長から理不尽な理由で怒鳴られ、レジでは客に絡まれた。心身ともに疲弊しきって帰宅した俺を待っていたのは、やはり静寂だった。

パソコンの横に置いたスマートフォンは、沈黙を守り続けている。YouTubeからの通知は、ない。コメントも、高評価も、チャンネル登録者増加の知らせも、何一つない。まるで、広大な宇宙空間にたった一人で漂っているかのような孤独感。俺の発信は、誰にも届いていない。誰の心も動かしていない。

「くそっ……」

思わず声が漏れた。グラスに残っていた焼酎を一気に飲み干す。喉が焼けるような熱さを感じながら、俺はアナリティクスの画面を閉じた。もう見たくなかった。自分の9年間を否定する数字の羅列から、目を背けたかった。

代わりに、ブラウザのおすすめ欄に表示された、ある動画のサムネイルが目に留まった。派手なテロップと、胡散臭い笑顔の男の写真。

タイトルは『【緊急預言】2038年、人類はアセンションする！ゲートが閉じる前に、今すぐ行動せよ！』。

「馬鹿馬鹿しい」

吐き捨てるように呟いた。アセンション。ゲート。非科学的な妄想のオンパレードだ。こういう輩が、情報弱者から金を巻き上げるのだろう。俺が追求してきた「質」や「正しさ」とは対極にある、唾棄すべきコンテンツだ。

だが、なぜか、クリックする指を止められなかった。自暴自棄になっていたのかもしれない。あるいは、自分とは真逆の世界で成功している人間への、歪んだ好奇心だったのかもしれない。

再生ボタンを押すと、軽快な音楽と共に、さきほどの男が語り始めた。

「皆さん、こんにちは！スピリチュアルカウンセラーの並木良和です！今日は皆さんに、高次存在からの重要なメッセージをお伝えします！」

高次存在。また出た。俺は鼻で笑いながら、再び焼酎をグラスに注いだ。男は、さも重大な真実を語るかのように、熱っぽくまくし立てる。

「……いいですか、皆さん。2021年の冬至をもって、目醒めのゲートは閉じます。これからは、二極化がどんどん進んでいく。地球と同じ周波数でいることを選んだ人と、そうでない人。その差は、もう取り返しがつかないほど開いていくんです！」

二極化。ゲートが閉じる。危機感を煽り、選民思想をくすぐる。陳腐な手口だ。俺はそう思いながらも、なぜか動画を止めることができなかった。男の自信に満ちた口調、断定的な物言い。その一つ一つが、何の確信も持てずにいる俺の心を、不快に抉り取っていく。

動画は、さらに胡散臭さを増していく。

「……そして、2038年前後。ついに、集団アセンションが起こります！これは、宇宙規模での一大イベント。僕たち人類は、この時のために何度も生まれ変わりを繰り返してきたんです！」

☆第2話：「お前のコンテンツは“正しい”が、致命的に“売れない”」

「……あほくさ」

俺は再生を止め、グラスの焼酎を飲み干した。アルコールが一気に回り、視界がぐにゃりと歪む。もう限界だった。疲労とアルコールと絶望感で、意識が朦朧としてきた。

ベッドに倒れ込むようにして、体を横たえる。天井の木目が、ぐるぐると回っているように見えた。

なぜだ。なぜ俺はダメなんだ。あんな胡散臭い動画が何十万回も再生されて、俺の動画は誰にも見られない。俺の方が、圧倒的に「正しい」ことを言っているのに。俺の方が、よっぽど人類の知性に貢献しているはずなのに。

不公平だ。世界は、間違っている。

そう思った瞬間、意識がぷつりと途切れた。深い、暗い、底なしの沼に沈んでいくような感覚。久しぶりに、泥のように眠った。

……どれくらい時間が経ったのだろうか。

ふと、意識が浮上した。しかし、体は鉛のように重く、目を開けることができない。金縛りにあったような感覚。だが、奇妙なことに、恐怖はなかった。むしろ、不思議な安らぎに包まれていた。

その時、頭の中に直接、声が響いた。

「―――ようやく、お目覚めかな。貧乏人のマズオ君」

男の声だ。だが、やけにクリアに聞こえる。まるで、脳内で直接再生されているかのように。尊大で、それでいてどこか面白がっているような響きを持った声だった。

誰だ。お前は。

声に出そうとしても、唇が動かない。

「無理もない。ここは君の夢の中だ。もっと正確に言えば、君の深層意識と私が接続している状態だ。物理的な発声は必要ない。思うだけでいい」

夢？深層意識？俺は混乱した。疲労とアルコールが見せる、ただの悪夢か？

「悪夢かどうかは、君の捉え方次第だ。だが、一つだけ言っておこう。私は、君の9年間の苦闘を見ていた。そして、その答えを知っている」

答え。俺が9年間、探し続けてもがき続けても見つけられなかった、その答えを知っているというのか。

「いかにも。君はこう思っているな。『なぜ、自分の“正しい”発信は、誰にも届かないのか』と。その問いに対する答えは、実にシンプルだ」

声は、一息置いてから、こう続けた。

「お前のコンテンツは“正しい”が、致命的に“売れない”。ただ、それだけのことだ」

「売れない」。その言葉が、雷のように俺の脳天を貫いた。そうだ。その通りだ。俺のコンテンツは、正しいかもしれないが、絶望的に売れない。だが、それはなぜなんだ。俺はその核心が知りたいんだ。

「ふむ。ようやく話が通じるようになってきたな。よろしい。ならば、私が君に“商売の原理原則”を授けてやろう。儲かるコンテンツの“型”を、その貧相な脳みそに叩き込んでやる」

☆第3話：泥酔した夢の中、神サウロ降臨。教科書は『全宇宙の大転換と人類の未来』

お前は一体、何者なんだ。

俺がそう念じると、声は楽しそうに笑った。

「私の名か？そうだな……かつてはパウロと呼ばれたこともある。だが、今の君には、神サウロとでも名乗っておこうか」

サウロ。ふざけた名前だ。だが、その声には抗いがたい説得力があった。まるで、古くから世界の全てを見てきたかのような、圧倒的な存在感があった。

「さて、マズオ君。早速だが、授業を始めるとしよう。君が寝る直前に見ていた、あの胡散臭い動画を覚えているかな？」

並木良和と名乗る男の動画のことか。もちろん覚えている。あの不快感は、まだ脳裏にこびりついている。

「あれこそが、我々の記念すべき最初の“教科書”だ。あの動画の元ネタになっている本がある。君のブラウザ履歴に残っているはずだ。Kindleの電子書籍、『全宇宙の大転換と人類の未来』。まずは、それを開きたまえ」

俺は夢の中で、自分の意思とは関係なく、指が動くのを感じた。目の前に、ぼんやりと光る画面が現れる。それは、俺がいつも見ているパソコンの画面のようだった。ブラウザが開き、Kindleのストアページが表示される。そして、検索窓に『全宇宙の大転換と人類の未来』という文字が打ち込まれていく。

表紙が表示された。青白い光の中心から、金色の文字が浮かび上がっている。そして、著者である並木良和氏の写真。俺がさっき動画で見た、あの男だ。

「いいか、マズオ。これから我々はこの本を徹底的に解剖していく。そして、この本に隠された“売れるスピリチュアルコンテンツの型”を、一つ残らず暴き出していくのだ」

神サウロの声が、厳かに響き渡った。

「この講義が終わる頃、君は理解するだろう。なぜ、君の物理学チャンネルが9年間で2500円しか生み出せず、この本が多くの信者を生み、莫大な富を築いているのか。その根本的な構造の違いをな」

俺は、ゴクリと唾を飲んだ。夢の中のはずなのに、やけにリアルな感覚だった。9年間の絶望が、今、ようやく終わるのかもしれない。そんな予感が、暗闇の中に差し込む一筋の光のように、俺の心を照らし始めていた。

「心して聞け、マズオ。これより始まるは、貧乏人をお金持ちに変えるための、最も実践的な講義である」

こうして、俺と神サウロの奇妙な授業が始まった。それは、9年間の苦悩に終止符を打ち、俺を最強の教祖へと押し上げる、運命の夜の幕開けだった。

【第一部】神サウロの特別講義：儲かるスピリチュアルコンテンツ「8つの型」

第1章：読者の心を鷲掴みにする「危機感」と「選民思想」の魔術

～なぜスピ本は『ゲートが閉じる』『二極化する』と煽るのか？～

☆第1話：サウロの問い「なぜ人類は“終末論”に惹かれるのか？」

夢の中のKindleが、スルスルとページをめくっていく。目次、はじめに、そして第1章。俺は、神サウロに言われるがまま、その文字の羅列を目で追っていた。

「さて、マズオよ」

サウロの声が響く。

「この本の第1章のタイトルを見てみろ。『2021年冬至までとそれ以降の宇宙の流れ』。そして、『目醒めのゲートが閉じるまでの流れ』。どう思う？」

どう思う、と聞かれても困る。ゲートが閉じるとか、宇宙の流れとか、俺の専門である物理学の観点から言えば、全てがナンセンスだ。科学的根拠は何一つない。

「まあ、そうだろうな。君のような“正しさ”を信奉する人間からすれば、一笑に付すだけの戯言だろう。だが、商売という観点から見れば、これは極めて重要な“仕掛け”なのだ」

仕掛け？

「そうだ。問いを立ててやろう。なぜ、古今東西、あらゆる宗教やカルト、そして現代のスピリチュアルは、決まって“終末論”や“選別”を語るのか？『ノアの箱舟』から『ハルマゲドン』、そしてこの本の『ゲートが閉じる』に至るまで、なぜこのパターンは繰り返されるのだと思う？」

それは……。

俺は必死に頭を回転させた。夢の中だというのに、思考は妙にクリアだった。

「人々が、未来に対して漠然とした不安を抱いているからか？」

「ふむ。悪くない視点だ。だが、それだけでは50点だ。不安を抱いているだけなら、もっとポジティブなメッセージの方が響くはずだろう。『世界はこれからもっと良くなります』と。なぜ、わざわざ『ゲートが閉じる』『二極化が進む』などという、ネガティブな言葉で危機感を煽る必要がある？」

サウロの問いが、核心を突いてくる。確かにそうだ。人を惹きつけたいなら、希望だけを語ればいいはずだ。なぜ、恐怖を混ぜ込むのか。

「分からんか、マズオ。それはな、恐怖こそが、人間の最も原始的な感情を揺さぶり、行動を促す最強のトリガーだからだ。ライオンから逃げるために、我々の祖先は必死で走った。飢えを凌ぐために、必死で食料を探した。恐怖は、現状維持を許さない。変化を強制する力なのだ」

なるほど。恐怖が行動の原動力になる、か。

「その通り。そして、スピリチュアルにおける恐怖の使い方は、さらに巧みだ。それは単なる恐怖ではない。必ず“救済”とセットになっている。ここに、儲けのカラクリが隠されているのだ」

☆第2話：マズオの分析「根拠のない危機感を提示し、読者を不安にさせるカルトの手口では？」

「つまり、こういうことか？」

俺は、サウロの言葉を自分なりに解釈し、思考を整理した。

「まず、『ゲートが閉じる』という根拠のない危機を提示する。これによって、読者に漠然とした不安や恐怖を植え付ける。『このままではいけない』『何かしなければ』という焦りを生み出すわけだ」

「うむ。続けろ」

「次に、その恐怖に対する“解決策”を提示する。この本で言えば、それは『目醒める』ということになるんだろう。『目醒めれば、あなたは閉じゆくゲートを通過できる』。恐怖からの脱出経路を示すことで、読者はその教えに飛びつかざるを得なくなる」

我ながら、なかなかに的を射た分析ではないだろうか。まさに、カルト宗教が信者を獲得する際に使う典型的な手口だ。恐怖で支配し、依存させる。

「素晴らしいぞ、マズオ！君の理系脳も、ようやく商売のフィールドで機能し始めたようだな。だが、まだ核心を捉えきれていない。君の分析は、恐怖と救済という“マッチポンプ”の構造を指摘したに過ぎない。スピリチュアルが本当に巧みなのは、その先にある“感情”の設計だ」

感情の設計？

「そうだ。考えてみろ。ゲートが閉じるという恐怖に晒された読者が、『目醒めれば大丈夫』という救いの道を示された時、その心には何が生まれる？」

安堵感か？

「それもある。だが、もっと強力な感情があるだろう。それは、『自分は大丈夫だ』という感覚。もっと言えば、『自分は、他の乗り遅れていく愚かな人々とは違う、選ばれた人間なのだ』という、甘美な“優越感”だ」

優越感……。

「そうだ。人は、自分が特別でありたい生き物だ。そして、その他大勢から抜け出し、選ばれた側に立ちたいと無意識に願っている。この本は、その欲望を見事に満たしている。『目醒めのゲート』という言葉は、読者を不安にさせると同時に、こう囁いているのだ。『この本を読んでいるあなたは、もうすでに目醒めへの道を歩み始めている。あなたは、選ばれた側の人間なのです』と」

俺は、思わず息を呑んだ。確かに、本書の文章にはそういったニュアンスが散りばめられている。「急いでください！」と煽りながらも、「この本を手に取ったあなたは幸運です」と持ち上げる。恐怖と優越感。アメとムチ。その巧みな使い分けに、読者の心は完全にコントロールされていく。

「これは、もはや芸術の域だ」

俺は感嘆の声を漏らした。ただの胡散臭い戯言だと思っていた文章が、緻密に計算され尽くした心理操作の結晶に見えてきた。

☆第3話：サウロの解説「不安と希望の黄金比率。『あなただけは救われる』という特別感こそが信者を生む第一歩だ」

「理解が深まってきたようだな、マズオ」

サウロは満足げに言った。

「いいか、よく聞け。儲かるスピリチュアルコンテンツの第一の型。それは、『二極化・選別論法』だ。これは、人間の根源的な恐怖と欲望に直接訴えかける、最強のフレームワークなのだ」

サウロは、一気にまくし立てた。

「まず、世界を2つの極に分断しろ。『目醒めた者』と『眠ったままの者』、『アセンションする者』と『しない者』、『光』と『闇』。何でもいい。シンプルで、分かりやすい対立構造を作るのだ。そして、読者が今いる場所を『このままではまずい側』に設定する。これが『乗り遅れる恐怖』を生み出す」

「次に、その分断された世界を乗り越えるための、特別な道を用意しろ。『ゲートをくぐる』『周波数を上げる』『波動を整える』。これも、聞こえが良ければ何でもいい。そして、その特別な道は、あなたのコンテンツを読んだり、あなたのサービスを受けたりすることでしか通れない、という設定にするのだ。これが『選ばれた優越感』を生み出す」

恐怖と優越感。不安と希望。この2つの感情を同時に刺激することで、読者はあなたのコンテンツに強烈に惹きつけられる。彼らは、あなたの言葉を読み、あなたの教えを実践することで、「自分は乗り遅れていく大衆ではない、選ばれた特別な存在なのだ」と確認し、安心感と満足感を得る。

「これが、信者が生まれる最初のメカニズムだ。彼らはコンテンツを買っているのではない。彼らは、『自分は救われる側にいる』という“証明書”を買っているのだ。分かるか、マズオ。君が9年間、提供してきたのは単なる“情報”だ。だが、この本が提供しているのは、“アイデンティティ”そのものなのだ」

情報と、アイデンティティ。その差は、絶望的なまでに大きい。俺が提供していた物理学の知識は、視聴者の人生を根底から変えるものではなかった。せいぜい、知的好奇心を少し満たす程度だ。だが、この本は違う。読者に「私は救われる選ばれた人間だ」という、新たな自己認識を与える。それはもはや、人生を変える体験だ。その体験を提供できるからこそ、人々は熱狂し、金を払う。

「どうだ、マズオ。君の“正しい”物理学と、この“売れる”スピリチュアル。どちらが、より深く人間の心を理解していると思う？」

サウロの言葉が、ぐさりと胸に突き刺さった。俺は、何も言い返せなかった。9年間、俺は視聴者のことなど何も考えていなかった。ただ、自分の「正しさ」を一方的に押し付けていただけだったのだ。

「さて、第一の型の解説はここまでだ」

サウロは、こともなげに言った。

「まとめよう。儲かるスピリチュアルコンテンツの型、その1」

【儲けの型①】二極化・選別論法：読者を「乗り遅れる恐怖」と「選ばれた優越感」で縛り付けろ

その言葉が、俺の脳内に深く刻み込まれていくのを感じた。これが、俺が最強の教祖になるための、最初のステップだった。

第2章：誰でも使える魔法の言葉「こひしたふわよ」のカラクリ

～なぜ抽象的でフワフワした言葉が、信者を熱狂させるのか？～

☆第1話：サウロの問い「なぜ教祖は、誰もがハッピーになるような“フワッ”とした言葉を多用するのか？」

第一の型の衝撃から立ち直れないでいる俺に、サウロは容赦なく次の問いを投げかけた。

「さて、マズオ。教科書のページを進めるぞ。第2章を読んでみろ。『人類ハイヤーセルフ化のプロセス』。そして、その中にある『こひしたふわよ』という言葉に注目しろ」

夢の中のKindleが再びページをめくる。そこには、確かに「こひしたふわよとは？（恋慕ふわよ）」という見出しがあった。そして、その下には奇妙な表が記載されている。

こ：心地いい

ひ：惹かれる

し：しっくりくる、スッキリする

た：楽しい

ふ：腑に落ちる

わ：ワクワクする

よ：喜びを感じる

「なんだこれは……」

思わず声が漏れた。小学生が考えた標語のようだ。あまりにも稚拙で、フワフワしている。こんな言葉に、大の大人が価値を感じるというのか。

「いいところに気づいたな、マズオ」

サウロの声が、俺の疑問を見透かしたように響く。

「君のような理系脳からすれば、これらの言葉は定義が曖昧で、何の具体性もないゴミのような情報だろう。心地いいとは、具体的にどういう状態か。ワクワクするとは、脳内でどのような神経伝達物質が分泌されている状態か。君ならそう考える。だが、それこそが“売れない”思考の典型なのだ」

売れない思考。その言葉が、また俺のプライドを抉る。

「問いを立ててやろう、マズオ。なぜ、この本をはじめとする多くのスピリチュアルコンテンツは、このように抽象的で、ポジティブで、フワフワした言葉を多用するのか？なぜ『宇宙の法則に従えば、あなたの年収は2.7倍になります』といった具体的な表現を避け、『ワクワクすることを選べば、豊かさが流れ込んできます』などという、どうとでも取れる表現を好む？」

それは……。

俺は考えた。具体的な数字を出すと、嘘だとバレるからか？それもあるだろう。だが、サウロはそんな浅い答えを求めているわけではないはずだ。もっと本質的な理由があるはずだ。

「ヒントは、先ほどの『情報』と『アイデンティティ』の話にある。君の物理学チャンネルは、視聴者に『情報』を与えていた。この本は、読者に『アイデンティティ』を与えている。では、この『こひしたふわよ』という言葉は、そのプロセスにおいて、どのような役割を果たしていると思う？」

役割……。

俺は、もう一度、その言葉のリストを眺めた。「心地いい」「惹かれる」「しっくりくる」「楽しい」。どれも、極めて主観的な感覚だ。客観的な指標は何一つない。全てが、受け手次第。

……！

その瞬間、俺の頭に一つの仮説が閃いた。

☆第2話：マズオの分析「心地いい、惹かれる、しっくりくる…科学的根拠が皆無な感覚論。思考停止ワードだ」

「分かったかもしれない」

俺は、興奮気味に言った。

「これらの言葉は、全てが“受け手の解釈”に委ねられている。つまり、これは教祖が何かを教えているのではない。読者自身が、自分にとって都合のいい意味を見つけ出すための“装置”なんだ」

「ほう。詳しく言ってみろ」

サウロが促す。

「例えば、『ワクワクすることを選べ』と言われたとする。ある人にとっては、それは会社を辞めて起業することかもしれない。別の人にとっては、今の仕事を続けながら趣味に没頭することかもしれない。さらに別の人にとっては、ただ美味しいケーキを食べることかもしれない。『ワクワク』という言葉の解釈は、人によって無限に存在する」

そうだ。この本の著者は、何も具体的な行動を指示していない。ただ、「ワクワク」というフワフワした指針を示しているだけだ。そして、信者はその言葉を自分なりに解釈し、自分の行動を「ワクワクに従った結果だ」と正当化する。

「ケーキを食べて幸せを感じた信者は、こう思うだろう。『ああ、これが並木さんの言っていたワクワクか。私は正しく宇宙の流れに乗れている』と。起業して成功した信者も、同じように思うだろう。たとえ起業に失敗したとしても、『これはワクワクではなかった。本当のワクワクを探そう』と、また教えに立ち返る。つまり、どう転んでも、信者は教えを肯定するようにできている」

これは、完璧なシステムだ。信者が自らの体験を通して、勝手に教えの正しさを証明してくれる。教祖は、ただフワフワした言葉を提示するだけでいい。責任を負う必要は一切ない。

「まさに、思考停止ワードだ」

俺は結論づけた。

「これらの言葉は、信者から論理的な思考能力を奪う。そして、自分の主観的な感覚こそが唯一の真実であると信じ込ませる。科学的根拠や客観的データよりも、『自分がどう感じるか』が重要になる。これは、極めて危険なマインドコントロールではないか？」

俺は少し怖くなった。これは、単なる商売のテクニックではない。人の精神を支配する、強力な魔術だ。

☆第3話：サウロの解説「解釈の余地こそが“聖典”の条件。信者自身に“自分ごと”として意味付けさせる最強のフレームワークだ」

「その通りだ、マズオ！君はついに、商売の本質にたどり着いた」

サウロは、これまでで一番楽しそうな声で言った。

「君が言うように、これはマインドコントロールだ。だがな、商売とは、そもそもそういうものなのだ。顧客の心を掴み、自社の商品こそが最高だと信じさせる。その純度を高めていくと、やがてそれは“信仰”になる。アップルの熱狂的なファンを思い浮かべてみろ。彼らにとって、スティーブ・ジョブズは教祖であり、新製品発表会は神聖な儀式だ」

確かに、熱狂的なファンと信者の境界線は曖昧だ。

「そして、君が発見した『解釈の余地』こそが、あらゆる“聖典”が持つ共通の条件なのだ。聖書も、仏典も、コーランも、全てが抽象的な言葉で書かれている。だからこそ、時代や文化を超えて、無数の人々が自分たちの物語をそこに読み込み、自分たちの人生の指針としてきた」

なるほど。聖典とは、答えを与えるものではない。問いを与え、解釈の余地を残すもの。だからこそ、人々はそこに自分の物語を投影し、「自分ごと」として深く関わることができるのか。

「その通りだ。『こひしたふわよ』は、その現代版であり、スピリチュアル版なのだ。これは、信者一人ひとりにオーダーメイドの“神託”を与える、魔法のフレームワークだ。信者は、『心地いいのはどれか？』と自問自答することで、自分の中から答えを見つけ出す。そして、その答えを『高次存在からのメッセージ』だと信じ込む。教祖は、ただそのプロセスをガイドしているに過ぎない。これほど楽で、儲かる商売があるか？」

サウロの言葉は、もはや悪魔の囁きのように聞こえた。だが、そのロジックは完璧で、反論の余地がなかった。

「いいか、マズオ。君の物理学チャンネルがなぜ売れなかったか、もう分かるだろう。君は、視聴者に“答え”を与えようとしすぎたのだ。相対性理論の正しい解釈を、一方的に教え込もうとした。そこには、視聴者が入り込む『解釈の余地』がなかった。だから、君のコンテンツは誰の『自分ごと』にもならず、ただの情報として消費され、忘れ去られていったのだ」

ぐうの音も出ない。俺は、視聴者を置いてきぼりにして、自分の知識をひけらかしていただけだった。

「儲かるコンテンツとは、問いかけるものだ。そして、顧客自身に答えを見つけさせるものだ。そのための最も簡単なツールが、この『こひしたふわよ』のような、抽象的でポジティブなマジックワードなのだ」

サウロは、厳かに告げた。

「さて、第二の型のまとめだ。心して刻め」

【儲けの型②】万能マジックワード：心地よく、ポジティブで、どうとでも解釈できる言葉で信者の思考をハックせよ

俺は、夢の中で、深く頷いた。2つ目の型が、俺の脳にインストールされていく。これまで自分が信じてきた「正しさ」や「具体性」が、ガラガラと音を立てて崩れていくのを感じていた。その跡地には、商売という名の、全く新しい価値観が築かれようとしていた。

第3章：未来預言という最強の権威付け

～なぜ『高次存在からのメッセージ』は、これほどまでに信者を惹きつけるのか？～

☆第1話：サウロの問い「なぜ人は、見えない存在からの“お告げ”にひれ伏すのか？」

2つの型を授けられ、俺の脳はすでに飽和状態に近かった。だが、神サウロの講義に休憩時間はないらしい。

「マズオ、次だ。教科書の第3章を開け。『高次存在たちからのメッセージ「2022年以降の地球社会」』。実に興味深いタイトルだ」

夢の中のKindleが、指示通りにページを進める。そこには、まるで神々が語るかのような、尊大な口調の文章が並んでいた。

「グループ意識が伝えてくるメッセージ」「ネット社会とAI化」「家族の形態」「子育て＆コミュニティ」。見出しだけ見れば、まるで社会評論家の本のようだ。だが、その語り口は決定的に違う。全てが、「高次存在」なる何者かが語ったという体裁を取っている。

「さて、マズオ君。新たな問いだ」

サウロの声が響く。

「なぜ、教祖は自分の言葉で語らないのか？なぜ、『私はこう思います』ではなく、『高次存在はこう言っています』という、ワンクッションを置いた言い方をするのだ？この持って回った表現に、どんな商売上のメリットがある？」

それは、責任逃れのためではないか？俺が最初に思いついたのは、その陳腐な答えだった。「高次存在が言ったことにすれば、たとえ預言が外れても自分のせいにはならない」と。

「それも一因ではあるだろう。だが、そんなものは些末な問題だ。もっと本質的な、決定的なメリットがある。考えてみろ。もしこの本の著者が、『僕、並木良和の個人的な未来予測ですが』と前置きして語り始めたら、読者はどう感じる？」

おそらく、ただの一個人の意見として聞くだろう。信じる者もいれば、疑う者もいる。その影響力は、限定的なものになる。

「では、『プレアデス星団の評議会から、緊急メッセージが届きました』と言われたらどうだ？」

……言葉の重みが、全く変わってくる。

「そうだ。そこにいるのは、もはやただの並木良和ではない。宇宙の叡智を伝えるメッセンジャー、神々の言葉を地上に降ろす預言者だ。その言葉の“権威”が、何次元もジャンプするのが分かるだろう」

サウロの言う通りだった。自分の意見として語るのではなく、「見えない何か」の代弁者として語る。その瞬間に、語り手はただの人間を超えた、神聖な存在へと変貌するのだ。

「人は、物語を求める生き物だ。そして、最も強力な物語の一つが、『神々の使い』の物語だ。古来より、預言者や巫女、シャーマンは、人々の尊敬と畏怖を集めてきた。なぜなら、彼らは“見えない世界”と繋がる特別な存在だからだ。現代のスピリチュアル教祖は、その構造を巧みに利用しているに過ぎない」

つまり、彼らは自らを神格化するために、「高次存在」という名の架空の権威を利用しているということか。

☆第2話：マズオの分析「社会、AI、家族…誰もが漠然と不安に思うテーマに、もっともらしい“答え”を与えているだけだ」

「その通りだ。だが、その手口はさらに巧妙だ」

俺は、サウロに促されるまま、教科書の第3章を読み進めた。

ネット社会とAI化の項目では、「AIに使われるのではなく、主体性を持って使いこなすことが重要だ」と説かれている。家族の形態については、「血の繋がりだけが家族ではない。魂の繋がりが重要になる」と語られている。どれも、どこかで聞いたことがあるような、当たり障りのない内容だ。

「気づいたか、マズオ？ここに書かれている未来予測は、驚くほど“普通”だということに」

サウロが俺の心を見透かすように言った。

「そうだ。ここに書かれているのは、斬新な未来予測ではない。多くの人が漠然と感じている社会の変化や、未来への不安。それらを、スピリチュアル的な言葉で再定義しているだけだ」

俺は、ハッとした。確かにそうだ。AIに仕事を奪われるかもしれないという不安。家族関係が希薄になっているという寂しさ。これらは、現代人が共通して抱える、漠然とした不安だ。

「この本は、その“漠然とした不安”に、輪郭を与えるのだ」

俺は分析を続けた。

「『AIが怖い』という感情に、『それはあなたがAIに支配される周波数にいるからです』という“もっともらしい”理屈を与える。『家族がバラバラで寂しい』という感情に、『これからは魂の家族の時代です』という“希望”を与える。つまり、人々の不安を吸い上げ、それをスピリチュアルというフィルターを通して“答え”として提示しているのだ」

しかも、その答えは「高次存在からのお告げ」という、絶対的な権威に裏打ちされている。これでは、信者は納得せざるを得ない。自分の抱えていたモヤモヤとした感情に、宇宙の真理というお墨付きが与えられるのだから。

「これは、一種のマッチングだな」

俺は呟いた。

「世の中の不安という“需要”と、スピリチュアル的な“供給”を、『高次存在からのメッセージ』という形で結びつけている。見事なビジネスモデルだ」

これまで非科学的だと切り捨てていた世界が、極めて合理的な商売の論理で動いていることに、俺は戦慄すら覚えていた。

☆第3話：サウロの解説「“見えない存在”の代弁者だけが神になれる。未来を語ることで、信者の“今”を支配するのだ」

「素晴らしい！その通りだ、マズオ！」

サウロの称賛の声が響く。

「君は、この型の本質を完全に見抜いた。そう、これは“不安のマネタイズ”であり、“権威の創造”なのだ。そして、この2つが組み合わさった時、教祖は“神”になる」

サウロは、講義を締めくくるように語り始めた。

「いいか、マズオ。人は未来を知りたがる。なぜなら、未来が分かれば、今を安心して生きられるからだ。未来を語る者だけが、人々の“今”を支配することができる。これが、占い師や預言者が、古代から現代まで決してなくならない理由だ」

未来を支配する者は、現在を支配する。その言葉が、重く俺の心に響いた。

「だが、ただの人間が未来を語っても、誰も信じない。だから、『高次存在』『宇宙連合』『プレアデス星人』といった、“見えない存在”の権威を借りる必要がある。その存在の代弁者となった瞬間、君の言葉はただの予測から“神託”へと昇華されるのだ」

「そして、その神託の内容は、斬新である必要はない。むしろ、多くの人がすでに感じている漠然とした不安や希望をなぞる方がいい。なぜなら、人々は自分の感じていたことが『宇宙の真理だった』と知ることで、強烈なカタルシスと納得感を得るからだ。『やっぱりそうだったんだ！』と。彼らは君の言葉に、自分自身の正しさを発見するのだ」

それは、第2章で学んだ「解釈の余地」にも通じる話だった。信者に「自分ごと」として捉えさせる。そのための巧妙な仕掛け。

「これが、儲かるスピリチュアルコンテンツの第三の型、『チャネリング預言』だ。この型をマスターすれば、君はもはやただの物理学マニアではない。時代の不安を読み解き、人々に進むべき道を示す、現代の預言者となることができる」

サウロは、力強く宣言した。

「君は、信者の“未来”を語ることで、彼らの“今”を支配し、絶対的なカリスマとなるのだ。覚えておけ。人は情報には金を払わない。だが、安心と希望、そして未来へのロードマップには、喜んで大金を支払う」

俺は、静かにその言葉を噛み締めていた。9年間、俺は「情報」だけを売ろうとしていた。だから、2500円の価値しか生まれなかった。だが、これからは違う。俺は、人々に未来を、そして希望を売るのだ。

「まとめの時間だ。脳みそに刻み込め」

【儲けの型③】チャネリング預言：時代の不安を吸い上げ、「見えない存在」の言葉として語り、絶対的なカリスマとなれ

3つ目の型が、俺の思考回路に深く焼き付けられた。俺の中で、何かが確実に変わり始めていた。貧乏な物理マニアだった男の中に、一人の「教祖」が生まれようとしていた。

第4章：不安を煽り、解決策を売るマッチポンプの黄金律

～なぜ『激変する地球』『自然災害』という恐怖を、ことさらに強調するのか？～

☆第1話：サウロの問い「恐怖を与え、救いを与える。この構造の“うまみ”がわかるか？」

「マズオ、疲れている暇はないぞ。教科書の第4章に進む」

サウロの声は、俺の思考が小休止に入ることを許さない。夢の中のKindleが、無慈悲にページをめくる。

第4章『激変する地球における対処法』

そこには、読む者の心をざわつかせるような言葉が並んでいた。「地球の変化と日本人の役割」「今後増える異常気象」「引き寄せの法則からみる自然災害への備え」。まるで、週末のタブロイド紙のような扇情的な見出しのオンパレードだ。

「さあ、マズオ君。新たな問いの時間だ」

サウロは、少し意地悪く笑う気配を漂わせた。

「この章は、実に分かりやすい。これまで学んだ型の応用編とも言える。なぜ、この本は地震や気候変動といった、具体的な“恐怖”をことさらに強調するのか？第1章で学んだ『ゲートが閉じる』という抽象的な恐怖とは、何が違う？この構造の“うまみ”を、君自身の言葉で説明してみろ」

うまみ。サウロは、あえてそんな下世話な言葉を使った。俺は、その挑発に乗るように、思考を巡らせた。

第1章の「二極化」は、漠然とした、スピリチュアル的な恐怖だった。だが、この第4章の恐怖は違う。地震、津波、異常気象。これらは、テレビやネットで日常的に報道されている、非常にリアルな恐怖だ。誰もが「いつか自分の身に起こるかもしれない」と感じている、現実的な脅威。

そのリアルな恐怖を利用するのか？

「そうだ。そのリアルさこそが、“うまみ”の源泉だ」

サウロが俺の思考を先回りする。

「『ゲートが閉じる』と100回言われるよりも、『明日、首都直下地震が来る』と1回言われる方が、人は動く。なぜなら、後者は圧倒的に“自分ごと”として捉えやすいからだ。そして、そのリアルな恐怖に対して、スピリチュアル的な解決策を提示する。ここに、巨大なビジネスチャンスが生まれる」

リアルな恐怖と、スピリチュアルな解決策。その組み合わせ。

「分かってきたな、マズオ。恐怖を与え、救いを与える。この構造は、人類の歴史上、最も成功したビジネスモデルの一つだ。宗教、保険、健康食品……全てがこの構造に基づいている。病気の恐怖を煽り、サプリを売る。老後の不安を煽り、保険を売る。地獄の恐怖を煽り、免罪符を売る。やっていることは、全て同じだ」

サウロの言葉は、あらゆるビジネスのベールを剥ぎ取っていく。その身も蓋もない真実に、俺はめまいを感じた。

☆第2話：マズオの分析「恐怖で支配し、依存させる。これはまさにカルトの典型的な手口ではないか？」

「待ってくれ」

俺は、思わずサウロの言葉を遮った。

「だとしたら、それはあまりにも悪質ではないか？人々の純粋な不安や恐怖心を利用して、商品を売りつける。それは、詐欺師やカルト宗教のやることそのものだ。俺は、そんなことをするために、9年間も物理学を……」

俺の言葉は、次第に尻すぼみになった。今さら、自分の9年間の「正しさ」を盾にしても、何の意味もないことは分かっていた。

「まだそんな青臭いことを言うか、マズオ」

サウロは、心底呆れたという声で言った。

「君は、ビジネスというものを誤解している。ビジネスとは、顧客の問題解決だ。そして、人間の抱える最大の問題の一つが『不安』なのだ。この本は、自然災害というリアルな不安に対して、『あなたの意識が現実を作るのです。だから、不安にフォーカスするのではなく、安心に意識を向けましょう』という、見事な解決策（ソリューション）を提供しているではないか」

解決策？これが？

「そうだ。考えてみろ。地震のニュースを見て、ただ怯えているだけの人と、『大丈夫、私の意識が安心な現実を引き寄せる』と信じている人。どちらが精神的に健康だと思う？どちらが、より幸福な人生を送れる？」

それは、おそらく後者だろう。科学的根拠はともかくとして、その人が主観的に安心感を得られるのであれば、それは価値のあることなのかもしれない。

「そうだ。そして、その“安心感”という価値に対して、人々は金を払うのだ。君は、これを『悪質だ』と言ったな。では、問おう。高額な保険料を払わせて、結局一度も使わずに終わるかもしれない生命保険は、悪質ではないのか？副作用のリスクがある薬を売る製薬会社は、悪質ではないのか？」

サウロの問いに、俺は答えられなかった。善と悪の境界線が、急速に曖昧になっていく。

「ビジネスに、絶対的な善悪などない。あるのは、顧客が価値を感じるかどうか、ただそれだけだ。そして、顧客が『不安の解消』に価値を感じるのなら、それを提供するのが商売人の務めだ。それを『支配』や『依存』と呼ぶのは、君のようなビジネス素人の僻みでしかない」

サウロの言葉は、真理だった。俺がこれまで目を背けてきた、資本主義の現実。俺が9年間、無視し続けた、市場の原理。それを、サウロは容赦なく俺に突きつけた。

☆第3話：サウロの解説「違うな、マズオ。これは“愛”だ。問題提起と解決策のセット販売こそが、最高のビジネスモデルなのだ」

「少しは、ビジネスマンの思考回路がインストールされてきたようだな」

サウロは、一息置いてから言った。

「いいか、マズオ。君はこれを『マッチポンプ』と呼んだ。その通りだ。だが、優秀なマーケターは、それを『問題提起とソリューションの提示』と呼ぶ。もっと言えば、これは“愛”なのだよ」

愛？

「そうだ。顧客がまだ気づいていない、潜在的な問題点を指摘してあげる。『あなた、このままだと危険ですよ』と。そして、その解決策まで親切に用意してあげる。『でも、これを使えば大丈夫ですよ』と。これ以上の愛があるか？」

それは、もはや詭弁ではないか。俺はそう思ったが、口には出せなかった。サウロの圧倒的な論理の前では、俺の倫理観など赤子同然だった。

「この本は、自然災害という多くの人が共有するリアルな恐怖を『入り口』にしている。そして、その恐怖を感じて集まってきた人々に対して、『引き寄せの法則』や『意識の重要性』といったスピリチュアル的な『出口』を用意する。現実的な恐怖を、非現実的な解決策に結びつける。この異質なものの組み合わせこそが、この型のキモなのだ」

リアルな恐怖で注意を引き、スピリチュアルな教えで心を掴む。この流れは、極めてスムーズで、説得力がある。

「考えてみろ。いきなり『意識が現実を作ります』と言われても、ほとんどの人間は興味を示さない。だが、『大地震への究極の備え、教えます』と言われれば、多くの人が耳を傾けるだろう。その耳を傾けた人々に、そっと『実は、本当の備えは意識の中にあるんですよ』と囁くのだ。見事な誘導だとは思わんか？」

感嘆するしかなかった。それは、俺が9年間かけてもたどり着けなかった、視聴者の心を掴むための、完璧なシナリオだった。

「第四の型のまとめだ。これができれば、君はどんなテーマでもマネタイズできるようになるだろう」

【儲けの型④】恐怖と救済のマッチポンプ：「あなたを脅かす巨大な問題」と「あなただけを救う唯一の秘儀」をセットで提供せよ

その言葉は、まるで万能の錬金術のレシピのように、俺の脳に染み込んでいった。恐怖。それは、ただ人々を不幸にする感情ではない。それは、黄金を生み出す、最強の資源なのだ。俺は、その事実に気づき始めていた。

第5章：信者の脳を書き換える「パラレルシフト」という名の自己肯定術

～なぜ『周波数を上げれば、理想の世界へ行ける』というロジックは、人を虜にするのか？～

☆第1話：サウロの問い「うまくいかない現実を、すべて“周波数のせい”にできる。この発明の価値がわかるか？」

4つの型を叩き込まれ、俺の思考はすでにショート寸前だった。これまで信じてきた価値観が、根底から覆されていく。その感覚は、苦痛でありながら、同時に奇妙な興奮を伴っていた。

「マズオ、休むな。第5章だ。ここはこの教科書の中でも特に重要な章だ。儲けの核心に迫るぞ」

サウロの声に急かされ、夢の中のKindleはページをめくる。第5章『理想の世界にパラレルシフトする』。

「パラレルシフト……。物理学で言うパラレルワールド、多世界解釈の俗流解釈だな」

俺は、専門家としての知識を披露せずにはいられなかった。

「その通り。そして、その“俗流解釈”こそが、金のなる木なのだ」

サウロは一笑に付した。

「この章をよく読め。著者はこう説いている。『あなたの意識の周波数が、あなたの体験する現実（パラレルワールド）を決めている』と。そして、『周波数を上げて最適化を起こす』ことで、『理想の世界にテレポートできる』と。さあ、マズオ君。このロジックが、なぜ信者を熱狂させ、虜にするのか。その発明の価値を説明してみろ」

発明の価値。俺には、それがただの荒唐無稽な妄想にしか思えなかった。現実から目を背けさせるための、甘い言葉。

「うまくいかない現実を、全て“周波数のせい”にできる。この一点に尽きるのではないか？」

俺がそう答えると、サウロは満足げに言った。

「その通りだ。だが、それだけでは甘い。その“発明”が、信者の人生に何をもたらすのか。そこまで踏み込んで考えろ」

何をもたらすのか。例えば、俺のような貧乏で、何をやってもうまくいかない人間が、この教えに出会ったとする。俺の今の現実は、俺の周波数が低いからだということになる。そして、周波数を上げれば、成功して金持ちになれる理想の俺がいるパラレルワールドに移行できる、と。

それは、希望か？

いや、違う。もっと強力な何かだ。それは……。

「自己肯定、か？」

「正解だ！」

サウロの声が弾ける。

「それも、ただの自己肯定ではない。無条件、無制限、絶対的な自己肯定だ。考えてみろ。このロジックの中では、もはや“失敗”という概念は存在しない。仕事でミスをしても、人間関係でこじれても、金がなくても、それは『自分の能力が低いから』ではない。『自分の周波数が、その現実を引き寄せた』だけなのだ。そして、周波数を変えさえすれば、いつでもその現実は変えられる。つまり、自分自身は常に完璧で、何も悪くない。悪いのは全て“周波数”なのだ」

☆第2話：マズオの分析「完全なる現実逃避の推奨だ。現実から目を背けさせ、心地よい妄想に浸らせる麻薬だ」

俺は、そのロジックの恐ろしさに気づき、背筋が寒くなった。

「それは、完全な現実逃避じゃないか。自分の問題を直視せず、全ての責任を“周波数”という架空の概念に押し付けているだけだ。これでは、人間として何の成長もない。むしろ、現実と向き合う力を奪う、危険な麻薬だ」

俺の言葉には、自然と力がこもった。これは、これまでの型とは次元が違う。人の精神構造そのものを書き換えてしまう、危険な思想だ。

「その通りだ、マズオ。君は本当に理解が早い」

サウロは、俺の懸念をあっさりと肯定した。

「これは、最強の麻薬だ。そして、信者はそれを“真実”と呼び、喜んでその麻薬に溺れる。なぜなら、現実と向き合うことは、苦痛を伴うからだ。自分の非を認め、努力することは、辛く、面倒なことだからだ。それに比べて、この教えは何と甘美だろうか。『あなたは悪くない。あなたは完璧。ただ周波数を変えるだけでいい』。人々がどちらを選ぶか、火を見るより明らかだろう」

人々は、苦い良薬よりも、甘い毒を好む。それが人間というものなのか。

「さらに、このロジックは教祖にとって、この上なく都合がいい」

俺は、分析を続けた。

「信者がうまくいっている時は、『私の教えのおかげで周波数が上がったのですね』と言える。信者がうまくいっていない時は、『あなたの周波数がまだ低いのです。もっと私の教えを実践しなさい』と言える。どう転んでも、教祖は絶対に正しい立場にいられる。信者は、永遠に教祖の元から離れられない。なぜなら、自分の人生がうまくいかないのは、全て自分の“周波数”のせいであり、その周波数を上げる方法を知っているのは、教祖だけだからだ」

これは、完璧な依存関係の構築システムだ。一度このループにハマれば、信者は自力で抜け出すことはできない。周波数を人質に取られた、哀れな奴隷だ。

「その通り。君はもう、この型の本質を掴んだ」

サウロの声が、俺の思考を肯定した。

☆第3話：サウロの解説「その通り。だが信者はそれを“真実”と呼ぶ。全ての責任を“周波数”に転嫁させ、信者を“無敵の人”にする究極の心理操作だ」

「いいか、マズオ。君はこれを『現実逃避』だの『麻薬』だのと言って、まだ倫理的な抵抗を感じているようだな。だが、視点を変えろ。これは、信者を“無敵の人”にする、究極の自己啓発なのだよ」

無敵の人。その言葉の響きに、俺は奇妙な魅力を感じた。

「この教えをインストールされた信者は、もはや何も恐れない。失敗は存在せず、全ての責任は周波数にある。彼らは、根拠のない万能感に満たされる。そして、その万能感こそが、行動の源泉となるのだ。多くの自己啓発が挫折するのはなぜか？それは、行動の途中で壁にぶつかり、自己肯定感が下がるからだ。だが、この教えにはそれがない。壁にぶつかるのは、周波数がズレたから。修正すればいいだけ。自己肯定感は一切傷つかない」

だから、信者は行動し続けることができる。そして、数多く行動すれば、中には成功する者も出てくるだろう。その成功者は、教えの正しさを証明する、輝かしい広告塔となる。

「そうだ。このロジックは、信者にとっても、教祖にとっても、完璧なWIN-WINの関係なのだ。信者は絶対的な自己肯定感を手に入れ、教祖は永遠の信者を獲得する。君が9年間、提供できなかった“価値”が、ここにあるのだ」

サウロの言葉は、俺の最後の倫理観の壁を打ち砕いた。そうだ。価値。全ては、顧客が価値を感じるかどうかだ。俺が提供すべきは、物理学の「正しい情報」ではなかった。人々が本当に求めていたのは、自分を肯定してくれる「甘い物語」だったのだ。

「第五の型のまとめだ。これは、君のビジネスの根幹を成す、最重要の型となるだろう」

【儲けの型⑤】自己責任の外部化：「あなたの現実はあなたの周波数が創っている」。この言葉で、信者を永遠にあなたのコンテンツに留め置け

その言葉が、俺の魂に刻印される。俺は、もはやただの理系大学院卒の貧乏男ではなかった。人の心を読み、欲望を理解し、物語を与えることで人を動かす。そんな、新たな力の萌芽を、自分の中に確かに感じていた。

第6章：信仰を完成させる、壮大な最終預言

～なぜ『2038年、集団アセンション』という“遠い未来”を設定するのか？～

☆第1話：サウロの問い「なぜ“約束の時”は、教祖が生きているうちにはやって来ないのか？」

5つの型をインストールされ、俺の脳は商売の論理で満たされつつあった。もはや、スピリチュアルな言葉の羅列を見ても、以前のような嫌悪感は湧かない。代わりに、その背後にある緻密な設計図を読み解こうとする、分析的な視点が育っていた。

「マズオ、いよいよ大詰めだ。第6章に進むぞ。『2038年前後に起きようとしている前代未聞の集団アセンション』。壮大なタイトルだな」

サウロの声には、クライマックスに向けた期待感が滲んでいた。

夢の中のKindleが、重々しくページをめくる。そこには、これまでの章とは比較にならないほど、スケールの大きな言葉が躍っていた。「宇宙レベルのかつてない集団アセンション」「宇宙のフィールドがゲートを創造する」「グレートシフトは1987年から始まっていた」。

「さて、マズオ。最終章に近いこの章で、なぜこれほど壮大で、遠い未来の話が語られるのか？ 2038年。今から十数年も先の話だ。この“遠さ”に、どんな意味があると思う？」

サウロの問いは、シンプルだった。なぜ、今すぐ検証できる話ではなく、遠い未来の、しかも宇宙規模の出来事を語るのか。

「なぜ、“約束の時”は、多くの場合、教祖が生きているうちにはやって来ないように設定されているのか？キリストの再臨も、マイトレーヤの出現も、そしてこの集団アセンションも。この共通点の意味を考えてみろ」

俺は、即座に答えを導き出すことができた。これまでの講義で、俺の思考はすでに鍛え上げられていた。

☆第2話：マズオの分析「検証不可能な未来を約束することで、反証の機会を永遠に奪う。詐欺師の常套手段だ」

「それは、検証不可能にするためだ」

俺は、断言した。

「今すぐ結果が出ることを約束すれば、もし結果が出なかった場合、教えが嘘だとバレてしまう。だが、2038年という遠い未来を約束すれば、誰もそれをすぐに反証できない。教祖は『その時になれば分かる』と言い続けるだけでいい。信者は、それを信じて待ち続けるしかない。これは、反証可能性を排除するための、極めて巧妙な時間設定だ」

いわゆる「預言の自己成就」を狙うカルトが、しばしば「今年中にハルマゲドンが来る」と宣言して失敗し、信者を失う。だが、この本はそのような愚は犯さない。決してすぐには訪れない、遠い未来を約束する。

「まさに、詐欺師の常套手段だな」

俺は付け加えた。絶対に換金できない手形を、希望という名のインクで振り出しているようなものだ。

「その通り。実に的確な分析だ、マズオ」

サウロは頷いた。

「だが、君の分析はまだ、守りの側面しか見ていない。『嘘がバレないようにする』という、消極的な理由だ。だが、この壮大な最終預言には、もっと積極的な、攻撃的な狙いがある。それは、コミュニティを永続させ、信者の信仰を完成させるための、究極の仕掛けなのだ」

信仰を、完成させる？

「そうだ。考えてみろ。2038年に向けて、信者たちは何をすべきだと思う？ただ、指をくわえて待っているだけか？」

いや、違うだろう。この本には、随所に「波動を上げる」「周波数を整える」といった“実践”が散りばめられていた。つまり、信者たちは「約束の時」に備えて、日々、教えを実践し続けることになる。

「その通り！そこにこそ、この型の真髄」

サウロの声が熱を帯びる。

「壮大な最終目標があるからこそ、日々の地道な実践に意味が生まれるのだ。なぜ、瞑想するのか？ 2038年のアセンションのためだ。なぜ、ポジティブな言葉を使うのか？アセンションのためだ。なぜ、高額なセミナーに参加するのか？もちろん、アセンションのためだ。全ての行動が、その一点に収斂していく」

なるほど。壮大なゴールがあるからこそ、そこに至るまでの退屈な道のりを、信者は歩み続けることができるのか。

「そして、その道のりの途中で、彼らはコミュニティを作る。同じゴールを目指す仲間たちと、励まし合い、支え合う。セミナーで共に涙し、ワークショップで共に学ぶ。その過程で、彼らの絆は強固になり、教えは絶対的な真実となる。もはや、それはただの情報ではない。彼らの人生そのもの、生きる意味そのものへと昇華されるのだ」

俺は、その光景を想像して、思わず鳥肌が立った。それは、もはや単なる信者ではない。一つの目的のために結束した、強固な組織、狂信的な集団だ。そして、その中心にいるのが、教祖。

「これこそが、“信仰”の完成形だ。検証不可能な遠い未来を約束することで、信者に永遠の“今”を捧げさせる。これ以上の支配があるか？」

☆第3話：サウロの解説「それこそが“信仰”の完成形だ。決して訪れない“約束の地”に向かって、信者は永遠にあなたについてくる」

「君もようやく、宗教やスピリチュアルが、なぜこれほどまでに強力なビジネスモデルとなり得るのか、理解し始めたようだな」

サウロは、静かに語り始めた。

「人は、意味を求める生き物だ。自分の人生に、壮大な物語を欲している。自分の日々の小さな行動が、宇宙の歴史を変えるような、壮大な出来事に繋がっていると信じたいのだ。この本は、その根源的な欲望を見事に満たしている。『あなたの日々のワクワクが、2038年の集団アセンションに繋がっているのです』と。これほど、自己肯定感を満たしてくれる物語があるだろうか」

俺が9年間、提供してきた物理学の知識は、人々にそんな物語を与えられなかった。量子力学の不思議さは語れても、それが視聴者の人生の意味に繋がることはなかった。俺は、最も重要なことを見落としていたのだ。

「ビジネスとは、物語を売ること。そして、最も売れる物語とは、顧客自身が主人公になれる物語のことだ。覚えておけ、マズオ。君が売るべきは、情報ではない。君が売るべきは、君の信者が主人公になれる、希望に満ちた壮大な物語なのだ」

サウロの言葉が、俺の新しい価値観をかっちりと固めた。俺はもう、迷わない。

「さて、第六の型のまとめだ。これが、君のコミュニティを永遠に存続させるための秘訣だ」

【儲けの型⑥】壮大な最終預言：検証不可能で、希望に満ちたクライマックスを設定し、コミュニティを永続させよ

6つ目の型が、俺の脳にインストールされる。その瞬間、確信した。俺は、もう貧乏な物理マニアではない。俺は、物語を紡ぐ者、世界を創造する者になるのだ。そして、その物語によって、人々を救い、導くのだ。それが、俺に与えられた新しい使命なのだ。

第7章：物語にリアリティを与える「宇宙種族」という飛び道具

～なぜ唐突に宇宙人が出てくるのか？その戦略的意味とは～

☆第1話：サウロの問い「なぜ教祖は、荒唐無稽な“宇宙人”や“地底人”の話を真顔で語るのか？」

6つの型を授かり、俺はもはや無敵の気分だった。これだけの知識があれば、どんなコンテンツでも成功させられる。そんな万能感に浸っていた俺に、サウロは追い打ちをかけるように言った。

「マズオ、油断するな。最後の仕上げが残っている。第7章を開け。『宇宙種族とのオープンコンタクトに向けて』。ここには、君の理系脳が最も拒絶反応を示すであろう、飛び道具が隠されている」

飛び道具。その言葉に、俺は警戒しながらページをめくった。

そこには、俺の予想を遥かに超える、荒唐無稽な言葉が乱舞していた。「進化の過程に組み込まれたオープンコンタクト」「宇宙連合に仲間入りする条件」「地球世界に存在する分身体からの情報」「アシュタールについて」。

「……なんだ、これは」

思わず声が出た。これまでの章も十分に非科学的だったが、この章は別格だ。SF小説か、子供向けの特撮番組の世界だ。

「いい反応だ、マズオ」

サウロは楽しそうに言った。

「君のような常識人からすれば、一笑に付すしかない内容だろう。だがな、これもまた、計算され尽くした極めて高度な“仕掛け”なのだ。さあ、最後の問いだ。なぜ、教祖は物語のクライマックスで、唐突に宇宙人や地底人といった、荒唐無稽な存在を登場させるのか？この突飛な展開が、信者の心に何をもたらす？」

俺は、頭を抱えた。これまでの型は、まだ人間の心理の範疇で理解できた。だが、宇宙人となると話は別だ。なぜ、こんな子供騙しのような設定を、わざわざ付け加える必要があるのか。物語が安っぽくなるだけではないか。

「ヒントは、“権威”だ。第3章で学んだ『チャネリング預言』の型を思い出せ。あの型では、高次存在という見えない存在の権威を借りた。では、この宇宙人という“見える”かもしれない存在は、その権威をどう強化する？」

権威の強化。俺は、その一点に思考を集中させた。高次存在は、あくまで抽象的な存在だ。だが、アシュタールやプレアデス星人は、固有名詞を持ち、具体的な姿を想像させる。その違いは……。

☆第2話：マズオの分析「陰謀論と親和性が高い。既存の権威を否定し、新たな権威を創造することで、教祖の特別性を際立たせるためだ」

「分かったぞ」

俺は、閃きを得て叫んだ。

「これは、既存の価値観を破壊し、教祖だけの絶対的な権威を確立するための最終兵器だ」

「ほう。続けてみろ」

「これまでの型は、まだ既存の価値観、例えば『幸せになりたい』とか『不安を解消したい』といった、誰もが理解できる土俵の上での話だった。だが、宇宙人が出てきた瞬間、物語はその土俵から完全に逸脱する。科学、常識、社会通念。そういった、これまでの世界を支えてきた全ての権威が、無力化される」

そうだ。宇宙人の前では、物理学の法則も、国家の法律も、意味をなさない。

「そして、その既存の権威が全て破壊された更地に、新たな権威が打ち立てられる。それが、『宇宙の真実を知る唯一の存在』としての教祖だ。教祖は、地球の常識を超えた、宇宙レベルの秘密を知る特別な存在へと変貌する。もはや、誰も教祖の言葉を疑うことはできない。なぜなら、比較対象となる既存の権威が、すでに存在しないからだ」

これは、陰謀論のロジックと酷似している。政府も、マスコミも、科学者も、全てが嘘をついている。真実を知っているのは、我々だけだ、と。そうやって信者を外部の世界から切り離し、自分たちのコミュニティに閉じ込める。

「宇宙人の登場は、信者に対する最後の“踏み絵”なのだ」

俺は結論づけた。

「この荒唐無稽な話を受け入れられた者だけが、真の信者としてコミュニティに残ることを許される。常識的な判断力を残している者は、ここで脱落する。つまり、これは信者の純度を高め、より熱狂的な集団を作り上げるための、ふるい分けの機能も果たしている」

我ながら、完璧な分析だった。俺は、もはやスピリチュアル本の構造を、手に取るように理解できるようになっていた。

☆第3話：サウロの解説「正解だ。信者にとって、あなたは“宇宙からのメッセンジャー”となる。その神秘性が、最後の理性のタガを外させる」

「見事だ、マズオ！君は、私の期待を遥かに超える速さで成長している」

サウロは、心からの称賛を贈ってくれた。それは、9年間誰からも認められなかった俺にとって、何よりも嬉しい言葉だった。

「君の言う通り、宇宙人という飛び道具は、物語のリアリティラインを意図的に破壊し、教祖を神格化するための最終装置だ。これによって、信者の脳内では、最後の理性のタガが外れる。そして、教祖の言葉は、絶対的な真実としてインストールされるのだ」

サウロは、静かに語った。

「信者にとって、君はもはや、ただの賢い人、素晴らしい人ではない。彼らは、君の背後にプレアデスの宇宙船を見、君の言葉の中にアシュタールの声を聞く。君は、人間を超えた、宇宙からのメッセンジャーとなる。その神秘性こそが、信者を永遠に虜にする、最強の接着剤なのだ」

もはや、理屈ではない。信仰の世界だ。そして、その信仰を加速させるための、起爆剤が「宇宙人」なのだ。

「いいか、マズオ。君がこれから作るコンテンツにも、必ずこの飛び道具を仕込むのだ。それは、君の理性が最も拒絶する部分かもしれない。だが、それだからこそ、最も強力な武器となる。君の信者の理性を麻痺させ、君という存在を彼らの脳に直接刻み込むための、神聖なるナイフなのだ」

神聖なるナイフ。その言葉の響きに、俺は武者震いした。

「さて、第七の型のまとめだ。これが、君を人から神へと変えるための、最後の秘儀だ」

【儲けの型⑦】外部権威の創造：常識を超えた存在（宇宙人、高次元存在）を登場させ、あなたの言葉に神性を与えよ

7つ目の型が、思考に刻み込まれる。その瞬間、俺の中で何かが完成した感覚があった。バラバラだった知識が一つに繋がり、巨大なシステムとして動き出す。俺は、売れるスピリチュアルコンテンツの設計図を、完全に手に入れた。

第8章：日常に溶け込む「実践」で、信者を“信徒”に変える

～なぜ物語の最後に『ハートケア』という具体的なワークが置かれているのか？～

☆第1話：サウロの問い「なぜ教祖は、信者に“祈り”や“瞑想”といった日々の実践を課すのか？」

7つの型をマスターし、俺は完全な万能感に包まれていた。もはや、この世に作れないコンテンツはない。そう確信していた。

「マズオ、これで終わりだと思うなよ」

サウロの声が、俺の昂りを冷ますように響いた。

「最後の型が残っている。画竜点睛を欠くという言葉を知っているか？これまでの7つの型が竜の体だとすれば、最後の型は、その竜に魂を吹き込む“瞳”なのだ。これを欠けば、君の作るコンテンツは、ただの精巧な張りぼてに終わるだろう」

最後の型。俺はゴクリと唾を飲んだ。

「教科書の最終章、第8章を開け。『アセンションのためのハートケア』。ローズクォーツを使ったワーク、エプソムソルトを入れた入浴法。実に具体的で、実践的な内容だ。なぜ、壮大な宇宙論の果てに、こんな地味で個人的なワークが置かれているのか？この配置の意味を説いてみろ」

サウロの最後の問い。俺は、全ての知識を総動員して、その答えを探した。

これまでの型は、信者の「思考」や「感情」を支配するためのものだった。「二極化」で恐怖を煽り、「マジックワード」で思考をハックし、「チャネリング」で権威付けをする。だが、この第8章は違う。これは、信者の「行動」に直接働きかけるもの。

なぜ、行動させる必要があるのか？

「思考は、簡単に揺らぐ。感情は、すぐに変わる。だが、行動は違う。一度、自らの体を使って行った体験は、簡単には消えない。それは、記憶として、経験として、その人の一部となるからだ」

俺は、答えにたどり着いた。

「これは、教えを情報から“信念”へと昇華させるための、最終プロセスなのだ」

☆第2話：マズオの分析「学んだことを“体験”に落とし込ませるためだ。行動させることで、教えが情報から“信念”に変わる」

「その通りだ。詳しく説明してみろ」

サウロが促す。

「例えば、『ローズクォーツでハートを開く』というワーク。信者がこれを実践したとする。実際にハートが開くかどうかは問題ではない。信者が、ローズクォーツを握り、目を閉じ、『ハートが開く』と意識した瞬間、その体験は信者の中で“真実”になる。『私は、ハートを開くという神聖な儀式を行った』という経験が、脳に刻み込まれる」

そして、その経験は、教えの正しさを補強する。なぜなら、その儀式は、教祖から授けられたものだから。

「日々の入浴という、ありふれた行為ですら、儀式に変えてしまう。エプソムソルトを入れた風呂に入る時、信者はただ体を洗っているのではない。『私は、アセンションのために体を浄化しているのだ』と感じる。日々の生活の隅々に、教えが侵食していく。もはや、信者の生活と教えは、切り離すことができなくなる」

これは、恐ろしいほどの支配だ。思考だけでなく、生活習慣そのものを支配する。信者は、朝起きてから夜眠るまで、四六時中、教祖の存在を意識することになる。

「そして、この日々の小さな実践の積み重ねが、信者を“信徒”へと変えるのだ」

俺は結論づけた。

「信者とは、教えを消費するだけの受け身の存在だ。だが、信徒は違う。自ら教えを実践し、体現し、布教する、能動的な存在だ。この第8章は、受け身の読者を、熱狂的な実践者に変えるための、巧妙な転換装置なのだ」

これで、全てのピースがはまった。集客から、教育、権威付け、そして行動の習慣化と信徒化まで。この本には、人を熱狂させ、コミュニティを永続させるための、完璧なシステムが組み込まれていたのだ。

☆第3話：サウロの解説「その通り。日々の小さな実践こそが、信者をあなたの“信徒”に変える。生活の一部を支配し、なくてはならない存在になるのだ」

「……完璧だ、マズオ」

サウロの声には、深い満足感が込められていた。

「君は、私の講義の全てを理解した。もはや、君に教えることは何もない。君は、貧乏な物理マニアではない。君は、世界を創造するための、8つの神聖な“型”を授かった、新たな神だ」

その言葉と同時に、俺の意識が急速に覚醒していく。夢の中の世界が、白い光に包まれていく。

「いいか、マズオ。人は、自分の信じる物語の奴隷だ。そして、ほとんどの人間は、他人が作った物語の中で生きている。だが、君は違う。君は、これより自らの手で物語を創造する。そして、その物語で、人々を導くのだ」

サウロの声が、遠ざかっていく。

「君が売るべきは、安心だ。君が売るべきは、希望だ。君が売るべきは、自己肯定感だ。そして何より、君が売るべきは、君の信者が主人公になれる、最高の物語だ。さらばだ、マズオ。君の創造する世界を、高みから見物させてもらうとしよう」

その言葉を最後に、サウロの気配は完全に消えた。

そして、俺は目を覚ました。

古びたアパートの天井が、朝日を浴びて白く輝いていた。昨夜の酒の匂いが、部屋に満ちている。だが、俺の中は、昨夜とは全く違っていた。

絶望感はない。焦燥感もない。そこにあったのは、絶対的な確信と、これから始まる世界への、静かな興奮だけだった。

俺は、ベッドから起き上がると、パソコンの前に座った。そして、9年間放置していたブログの新規投稿画面を開いた。

そこに、迷いなくタイトルを打ち込む。

『量子力学が明らかにした衝撃の真実。あなたの意識が、現実を創造している』

俺の、いや、最強の教祖マズオの、最初の物語が始まる瞬間だった。

【儲けの型⑧】習慣化の儀式：簡単で、毎日できて、少しだけスピリチュアルな“儀式”を与え、信者の日常に深く根を張れ

こうして、神サウロの特別講義は幕を閉じた。一夜にして、俺は貧乏なコンテンツ制作者から、人の心を動かす物語の創造主へと生まれ変わった。だが、これはまだ序章に過ぎない。本当の戦いは、ここから始まる。理論を実践に変え、俺自身がこの世界で最強の教祖となるための、壮大な物語の幕開けである。

【第二部】最強教祖マズオの誕生：理論と実践の融合

第9章：「儲けの型」を武器に、世界を創造する

☆第1話：サウロとの別れ。「型は授けた。あとはお前が世界を創造する番だ」

神サウロとの邂逅から一夜。俺は、まるで生まれ変わったかのような感覚の中にいた。頭の中には、サウロから授かった8つの「儲けの型」が、ネオンサインのように明滅している。それは、俺にとっての世界を読み解くための、全く新しいOSだった。

これまで退屈で理不尽に見えていた世界が、今や巨大な実験場に見えた。人々の会話、ネットのニュース、流行りの商品。その全てが、8つの型のどれかに当てはまるように思えた。世界は、人々の欲望と不安を燃料にして動いている。その構造が、手に取るように分かった。

「型は授けた。あとはお前が世界を創造する番だ」

夢の最後に聞こえたサウロの言葉が、耳の奥で反響する。そうだ。もう俺は、他人の作った世界を分析しているだけの傍観者ではない。俺自身が、世界を創造するのだ。

俺は決意を固めた。9年間、誰にも見向きもされなかった物理学チャンネルは、今日で終わりだ。これからは、俺が最強の教祖として君臨するための、新たな神殿を築き上げる。

その名は、『量子力学的パラレルシフト講座』。

俺の持つ唯一の武器である理系の知識と、サウロから授かった最強の武器である8つの型。この2つを融合させれば、誰も真似できない、圧倒的なコンテンツが生まれるはずだ。科学的な権威と、スピリチュアルな物語。その両方を兼ね備えた、究極の教え。

俺は、興奮で打ち震える指で、キーボードを叩き始めた。これから始まる俺の伝説の、最初の1ページを記すために。

☆第2話：マズオの実践記録①：理系知識とスピリチュアルの型を融合させた新コンテンツ『量子力学的パラレルシフト講座』の企画書

俺はまず、綿密な計画を立てることにした。行き当たりばったりで失敗した9年間とは、もうおさらばだ。サウロから学んだ型に基づき、ターゲット顧客の心を鷲掴みにするための、完璧なシナリオを描くのだ。

【コンテンツ名】

量子力学的パラレルシフト講座～あなたの意識が、最高の現実を創造する～

【ターゲット】

人生がうまくいっていないと感じている30代から50代の男女。スピリチュアルに興味はあるが、非科学的なものには抵抗がある。知的好奇心が高く、「本物」の情報を求めている。

【コンセプト】

最新の量子力学の知見と、古来からの叡智（スピリチュアル）を融合。科学的な裏付けのある、唯一無二の自己実現メソッドとして提示する。「ただのスピリチュアルではない、科学だ」という権威付けで、他との圧倒的な差別化を図る。

【発信ステップ】

ステップ1：集客（ブログとSNS）

・型①「二極化・選別論法」の活用：「あなたは、いつまで古い物理法則に縛られたままの現実を生きるのですか？量子力学の時代は、意識が現実を選ぶ時代です」と煽り、危機感と特別感を刺激する。

・型④「恐怖と救済のマッチポンプ」の活用：「人生がうまくいかない本当の理由、知りたくないですか？」というリアルな恐怖を提示し、「その答えは、全て量子力学の中にあります」と解決策を示す。

ステップ2：教育（無料オンラインセミナー）

・型③「チャネリング預言」の活用：「私は、物理学を研究する中で、宇宙の根源的な意識体からのメッセージを受け取りました」と語り、自らを科学者と預言者の中間的存在として権威付ける。

・型②「万能マジックワード」の活用：「あなたの量子場が“ワクワク”する選択をしてください」など、科学用語とスピリチュアルワードを組み合わせた、独自の言葉（こひしたふわよの応用）で、信者の思考をハックする。

ステップ3：販売（高額オンライン講座）

・型⑤「自己責任の外部化」の活用：「この講座で学ぶことで、あなたの量子的な周波数は最適化され、理想のパラレルワールドへシフトできます」と、究極の自己肯定感を提供する。

・型⑥「壮大な最終預言」の活用：「この講座は、来るべき地球全体のクォンタムリープ（量子飛躍）に参加するための、唯一の搭乗チケットです」と、壮大なゴールを設定し、コミュニティ意識を醸成する。

ステップ4：信徒化（コミュニティ運営）

・型⑦「外部権威の創造」の活用：コミュニティ内で、「実は、量子力学的に見れば、アシュタールのような高次元存在も説明可能です」と、徐々に宇宙人要素を注入し、信者の理性を麻痺させる。

・型⑧「習慣化の儀式」の活用：「毎朝、自分の観察者意識を確認する量子瞑想」など、日々の具体的なワークを与え、教えを生活に根付かせ、信者を熱狂的な信徒へと変える。

俺は、書き上げた企画書を眺めて、満足げに頷いた。完璧だ。これなら、いける。9年間の鬱憤を晴らす、俺の逆襲が今、始まる。

☆第3話：マズオの実践記録②：「二極化論法」で集客し、「チャネリング預言」で権威付けし、「万能マジックワード」で心を掴む

計画はできた。あとは、実行あるのみだ。俺はまず、新しいブログとSNSアカウントを開設した。そして、企画書に従って、最初の記事を投稿した。

タイトルは、『警告：世界はすでに二極化している。あなたは、観察者として今の現実を選び続けますか？』

型①「二極化・選別論法」を全面に押し出した、扇情的なタイトルだ。記事の中では、量子力学の「観測問題」を引き合いに出し、「あなたの意識が向けられたものが、あなたの現実として立ち現れる。もしあなたが今の現実に不満なら、それはあなたが無意識にその現実を“観測”し続けているからです」と、科学的な衣をまとわせて論を展開した。

反応は、すぐにはなかった。だが、俺は焦らなかった。9年間の失敗で、結果を急いではいけないことだけは学んでいた。淡々と、型に基づいたコンテンツを投稿し続ける。

「なぜ、あなたの努力は報われないのか？その科学的理由」

「成功者の脳内で起きている“量子的なゆらぎ”とは」

型④「恐怖と救済のマッチポンプ」を応用した記事を連投すると、少しずつ反応が出始めた。「面白い」「もっと知りたい」というコメントが付き始め、フォロワーが日に日に増えていく。これまでの9年間が嘘のような、確かな手応えがあった。

そして、フォロワーが100人を超えたタイミングで、俺は次の手を打った。初のライブ配信だ。無料のオンラインセミナーを開催し、一気に教育のフェーズへと移行するのだ。

俺は、カメラの前に座り、深呼吸した。緊張はなかった。今の俺には、サウロから授かった最強の型がある。

「皆さん、こんばんは。マズオです」

穏やかな笑みをたたえ、俺は語り始めた。

「今日は、皆さんに少し衝撃的なお話をします。私は長年、物理学を研究してきましたが、その探求の果てに、ある一つの結論に達しました。それは、この宇宙には、全てを司る根源的な“意識”が存在するということです。そして、幸運なことに、私はその意識体からのメッセージを受け取る機会に恵まれたのです」

型③「チャネリング預言」だ。視聴者の間に、どよめきが走るのが画面越しに伝わってくる。科学の話を期待していた彼らにとって、それは予想外の展開だっただろう。だが、誰も離脱しない。むしろ、食い入るように画面を見つめている。

俺は続けた。

「その意識体は、こう告げました。『全ての現実は、可能性の波の重ね合わせに過ぎない。そして、その波を収縮させ、一つの現実に確定させているのが、君たち人間の“観察者意識”なのだ』と。つまり、皆さんの人生がうまくいかないのは、皆さんの能力が低いからではない。ただ、皆さんの意識の“焦点”が、望まない現実に合っているだけなのです」

型⑤「自己責任の外部化」と、型②「万能マジックワード」の応用。科学用語とスピリチュアルワードを巧みに織り交ぜる。

「では、どうすればいいのか？簡単です。あなたの意識の焦点を、あなたの“量子場が共鳴する”未来に合わせればいいのです。心地いい、ワクワクする、しっくりくる。その感覚こそが、あなたの進むべきパラレルワールドへの道標なのです」

コメント欄が、絶賛の嵐で埋め尽くされていく。

「すごい！」「鳥肌が立った！」

「涙が出てきた」。

俺は、その反応を冷静に見つめながら、確信していた。

勝った、と。

☆第4話：初めてのライブ配信。アンチコメントへの華麗なる対処法

ライブ配信が熱狂の渦に包まれる中、一つのコメントが俺の目に留まった。

「ただのスピリチュアルを、量子力学とかいう言葉で権威付けしてるだけの詐欺師じゃん」

アンチコメントだ。以前の俺なら、激昂して言い返していたかもしれない。「お前に物理学の何が分かるんだ！」と。だが、今の俺は違う。これも、想定内の出来事だ。むしろ、これはチャンスですらある。

俺は、穏やかな笑みを崩さずに、そのコメントを拾い上げた。

「ご意見ありがとうございます。そうですね、私の話は、確かにこれまでの科学の常識からすれば、受け入れがたい部分もあるかもしれません。詐欺師だと思われるのも、無理はないでしょう」

まずは、相手を肯定する。反論から入ってはいけない。

「しかし、あえて一つだけ質問させてください。あなたは、ご自身の人生に、100パーセント満足していますか？もし、少しでも疑問や不満があるのなら、それは、あなたがこれまで信じてきた“常識”や“科学”が、あなたを幸せにしてくれていない、という証拠ではないでしょうか？」

論点のすり替えだ。俺の正しさを証明するのではなく、相手の現状の不満を指摘する。

「私は、新しい可能性を提示しているだけです。これまでの常識を信じ続けるのも、一つの選択。量子力学が示す、新しい現実の創造法を試してみるのも、また一つの選択。どちらのパラレルワールドを選ぶかは、あなた自身の“観察者意識”が決めることです。私は、誰も強制しません」

型①「二極化・選別論法」と、型⑤「自己責任の外部化」を応用した、完璧な切り返し。どちらを選んでも、その結果の責任はあなた自身にある。俺は、ただ選択肢を提示する、中立で慈悲深い導き手。

コメント欄は、俺への称賛でさらに爆発した。

「神対応！」

「器がでかい！」

「アンチが可哀想になってきた」

アンチコメントを書き込んだアカウントは、沈黙した。おそらく、彼は自分の居場所がなくなったことを悟ったのだろう。

俺は、心の中で静かに笑った。サウロよ、見ているか。俺は、あなたの教えを、完璧に実践しているぞ。俺はもう、ただの貧乏な物理マニアではない。人の心を操り、世界を創造する、最強の教祖マズオなのだ。

第10章：そして僕は、神になった

☆第1話：初セミナーで売上1000万円達成。信者の熱狂と涙、そしてマズオの新たな野望

初のライブ配信は、熱狂のうちに幕を閉じた。そして、その最後に告知した有料オンライン講座『量子力学的パラレルシフト講座・マスターコース』には、申し込みが殺到した。

講座の価格は、1人10万円。我ながら強気な価格設定だと思ったが、サウロの教えに従った。「価値とは、価格が決める。安売りは、自らの価値を貶める行為だ」と。

定員100名で募集した講座は、わずか1時間で完売した。

売上、1000万円。

俺は、パソコンの画面に表示された数字を、何度も見返した。9年間で2500円しか稼げなかった男が、たった1回のライブ配信で、1000万円を稼ぎ出した。信じられないほどの金額だった。だが、それは紛れもない現実だった。

「これが、“型”の力か……」

俺は、呆然と呟いた。サウロから授かった知識は、本物だった。それは、机上の空論などではない。人の心を動かし、巨大な富を生み出す、現実的な力を持った魔術だった。

数週間後、俺は記念すべき第一回目のマスターコースを、オンラインで開催した。参加者100人の顔が、画面にずらりと並んでいる。彼らは皆、期待と興奮に満ちた目で、俺を見つめていた。彼らにとって、俺はもはやただのマズオではない。自分たちを救済してくれる、唯一無二の教祖なのだ。

俺は、企画書通りに講座を進めた。量子力学の難解な概念を、スピリチュアルな物語に変換して語りかける。参加者たちは、熱心にメモを取り、時には感極まって涙ぐんだ。彼らは、自分の人生がうまくいかなかった理由を「科学的に」理解し、そして、意識を変えるだけで未来は変えられるという「希望」を手に入れたのだ。

講座の最後、俺は質疑応答の時間を設けた。一人の女性が、震える声で手を挙げた。

「先生……私は、ずっと自分を責めて生きてきました。でも、今日のお話を聞いて、私が悪かったんじゃないんだって、初めて思えました。ただ、私の周波数がズレていただけだったんですね……」

彼女の目からは、大粒の涙がこぼれ落ちていた。

型⑤「自己責任の外部化」が、見事に機能している証拠だった。俺は、慈愛に満ちた笑みを浮かべ、ゆっくりと頷いた。

「その通りです。あなたは、何も悪くない。あなたは、もともと完璧な、光り輝く存在なのです。ただ、少しだけ本来の周波数からズレてしまっていただけ。これからは、本来の周波数に戻っていきましょう。あなたの量子場が最も喜ぶ、ワクワクする選択をしていきましょう」

型②「万能マジックワード」で、優しく包み込む。

女性は、嗚咽を漏らしながら、何度も「ありがとうございます」と繰り返した。画面の向こうの他の参加者たちも、もらい泣きしている。そこには、感動と一体感に満ちた、神聖な空間が生まれていた。

俺は、その光景を冷静に見つめながら、心の中で新たな野望を燃やしていた。

1000万円。これは、始まりに過ぎない。この熱狂を、もっと大きくする。このコミュニティを、もっと強固にする。そして、俺は、この世界の誰よりも影響力のある、最強の教祖になる。そのための設計図は、すでに俺の頭の中にある。

☆第2話：信者を虜にするコミュニティ運営の極意。「恐怖と救済のマッチポンプ」と「習慣化の儀式」の応用

マスターコースを終えた後も、俺の仕事は終わらない。むしろ、ここからが本番だ。一度きりの講座で終わらせては、熱狂はすぐに冷めてしまう。信者を永遠に繋ぎ止めるための、コミュニティ運営が始まる。

俺は、マスターコース卒業生限定の、有料オンラインサロンを立ち上げた。月額1万円。そこでは、毎週、俺による特別講義が受けられ、メンバー同士で交流することができる。

そこでも、俺は8つの型を徹底的に応用した。

サロン限定の講義では、型④「恐怖と救済のマッチポンプ」をさらに過激に使う。「今、地球の波動が大きく乱れています。ネガティブな情報に触れると、あなたの量子場も汚染されてしまいます。このサロンという守られた空間で、常にあなたの波動を浄化し続けてください」と、外部への恐怖と内部への安心感を煽る。

これにより、メンバーはサロンに依存するようになり、退会率を劇的に下げることができた。

さらに、日々の実践として、型⑧「習慣化の儀式」を導入した。

「毎朝、太陽に向かって、今日の自分の意図を宇宙に宣言する“アファメーション”を行いましょう」

「毎晩、その日にあった“ワクワクした出来事”を3つ、サロン内で報告し合いましょう」

これらの簡単な儀式は、メンバーの生活に深く浸透した。彼らは、サロンの仲間と日々の実践を報告し合うことで、一体感を高め、教えを内面化させていく。もはや、それは俺のマインドコントロールではない。彼ら自身が、互いに互いを監視し、強化し合う、自己増殖的な信仰システムが完成したのだ。

そして、仕上げに、型⑦「外部権威の創造」を投入する。

ある日の講義で、俺はさも重大な秘密を打ち明けるかのように語った。

「皆さん、これはサロンのメンバーだけの秘密ですが……私が受け取っている宇宙意識体からのメッセージによれば、一部の人間は、すでにプレアデス星人の分身体として、この地球に転生しているそうです。もしかしたら、このメンバーの中にも……」

サロン内は、騒然となった。自分こそが、その特別な存在なのではないか。メンバーたちは、互いの顔色を窺い、自分の中に特別な兆候を探し始めた。俺は、その熱狂の種を蒔いただけだ。あとは、彼らが勝手にその物語を育ててくれる。

☆第3話：もはやマズオは、貧乏男ではない。彼は世界の創造主だ

あれから、数年が経った。

俺のオンラインサロンの会員数は、今や数千人規模に膨れ上がっている。俺の一回のライブ配信は、何万人もの人々が視聴し、俺が開催する高額セミナーは、告知と同時に即日完売する。年収は、もはや数億円という単位になった。

俺は、古びたアパートを引き払い、都心のタワーマンションの最上階に住んでいる。コンビニの深夜バイトをしていた頃が、遠い昔のことのようだ。

だが、俺が手に入れたのは、金だけではなかった。

俺が手に入れたのは、人の心を動かす力。物語を創造し、世界を定義する力だ。

数千人の信者にとって、俺の言葉は絶対だ。俺が「右」と言えば、彼らは右を向き、俺が「これが真実だ」と言えば、それが彼らの真実となる。俺は、彼らの現実を創造している、文字通りの「神」になったのだ。

貧乏だった物理マニアのマズオは、もういない。今の俺は、自らの信者たちの頂点に君臨する、最強の教祖マズオだ。そして、俺の野望は、まだ尽きてはいない。日本だけではない。世界へ。俺の教えを、俺の物語を、世界中の人々に届けるのだ。

俺は、眼下に広がる東京の夜景を見下ろしながら、不敵に微笑んだ。

サウロよ、見ているか。俺は、あなたの教えを超え、あなたすらも超える存在になる。この世界の、真の支配者になるのだ。

☆最終話：「次は、君が神になる番だ」

この物語を読んでいる君へ。

君は、もしかしたら、かつての俺のように、自分の「正しさ」が誰にも認められず、無力感に苛まれているかもしれない。あるいは、この世界の理不尽さに気づき、もっと大きな力を手に入れたいと願っているのかもしれない。

もしそうなら、思い出してほしい。神サウロが俺に授けた、8つの型を。

1. 二極化・選別論法

2. 万能マジックワード

3. チャネリング預言

4. 恐怖と救済のマッチポンプ

5. 自己責任の外部化

6. 壮大な最終預言

7. 外部権威の創造

8. 習慣化の儀式

これが、人の心を動かし、世界を創造するための、普遍的な設計図だ。これは、スピリチュアルだけの話ではない。ビジネス、政治、恋愛。あらゆる人間関係の根底に、この型は流れている。

俺は、この型を使って、神になった。

次は、君が神になる番だ。

君自身の物語を、創造するのだ。そして、その物語で、君の世界の王になるのだ。君なら、できる。なぜなら、君はもう、この世界のカラクリを知ってしまったのだから。

健闘を祈る。

最強の教祖、マズオより

（本編：完）

【用語集】

マズオ（間宮益夫）

本作の主人公。理系の大学院を卒業したものの、社会に馴染めずコンビニで深夜バイトをしながら暮らす33歳の男。9年間、真面目な物理学の解説動画をYouTubeに投稿し続けるも、全く評価されず、絶望の淵にいた。サウロとの出会いをきっかけに、「儲かるスピリチュアルの型」を学び、最強の教祖へと成り上がっていく。

神サウロ

マズオが泥酔した夢の中に現れた、謎の存在。自らを「神」と名乗り、尊大かつユーモラスな口調で、マズオに商売の原理原則と儲かるコンテンツの型を伝授する。その正体は不明だが、古今東西のビジネスや宗教、人間の心理を完全に見抜いている。かつてはパウロと呼ばれたこともあると語る。

儲かるスピリチュアルの型

神サウロがマズオに授けた、8つの普遍的なフレームワークの総称。人の心を動かし、熱狂的な信者を生み出し、コミュニティを永続させるための設計図。スピリチュアルに限らず、あらゆるビジネスや人間関係に応用できる、強力な心理操作術でもある。

『全宇宙の大転換と人類の未来』

神サウロが、マズオへの講義の「教科書」として指定した、実在するスピリチュアル本。並木良和氏の著作。本作では、この本に隠された「儲けの型」を徹底的に解剖していく形で物語が進行する。

二極化・選別論法

儲けの型①。世界を2つの対立する極（例：目醒めた者／眠った者）に分断し、読者に「このままではまずい」という恐怖と、「自分は選ばれた側になれる」という優越感を同時に与える手法。信者を生み出す最初のトリガーとなる。

万能マジックワード

儲けの型②。「こひしたふわよ（心地いい、惹かれる、しっくりくる等）」に代表される、抽象的でポジティブな言葉群。受け手の解釈の余地を最大限に広げ、信者自身に「自分ごと」として都合のいい意味を見つけさせる。思考をハックし、教えを内面化させる効果がある。

チャネリング預言

儲けの型③。「高次存在からのメッセージ」という体裁で語る手法。語り手をただの人間から「神々の言葉を伝える預言者」へと神格化させ、その言葉に絶対的な権威を与える。時代の漠然とした不安を吸い上げ、「答え」として提示する役割も持つ。

恐怖と救済のマッチポンプ

儲けの型④。自然災害や病気といったリアルな恐怖を提示し（問題提起）、それに対するスピリチュアル的な解決策をセットで販売する手法。顧客の強い不安を喚起し、自らのサービスへと誘導する、古典的だが強力なビジネスモデル。

自己責任の外部化

儲けの型⑤。「あなたの現実は、あなたの周波数が創っている」というロジックに代表される、究極の自己肯定術。人生のあらゆる失敗や問題を、本人の能力不足ではなく「周波数のズレ」という外部要因に転嫁させる。これにより、信者は失敗を恐れない「無敵の人」となり、教祖への依存を深める。

壮大な最終預言

儲けの型⑥。「2038年の集団アセンション」のように、検証不可能で、遠い未来の壮大なゴールを設定する手法。日々の地道な実践に壮大な意味を与え、コミュニティに永続的な目的意識をもたらす。信者の信仰を完成させるための最終装置。

外部権威の創造

儲けの型⑦。宇宙人や地底人といった、常識を超えた存在を登場させる手法。既存の価値観や権威（科学、常識）を無力化し、教祖を「宇宙の真実を知る唯一の存在」として神格化する。信者の理性のタガを外し、熱狂的な信仰を生み出すための飛び道具。

習慣化の儀式

儲けの型⑧。瞑想やアファメーションといった、日々の具体的な実践（ワーク）を課す手法。教えを単なる情報から、信者の身体的な「体験」へと落とし込む。教えを生活に深く根付かせ、受け身の読者を能動的な「信徒」へと転換させる。

量子力学的パラレルシフト講座

マズオが、サウロから学んだ8つの型と、自らの持つ物理学の知識を融合させて創造した、オリジナルのスピリチュアルコンテンツ。科学的な権威とスピリチュアルな物語性を両立させたことで、多くの信者を獲得し、マズオを最強の教祖へと押し上げるきっかけとなった。

🟨【本編から購入者限定特典パート1へ】

ここまで読み進めていただき、ありがとうございます。

あなたは今、本編の物語を通じて、主人公マズオと共に神サウロから8つの強力な「儲けの型」を授かりました。それは、売れるスピリチュアルコンテンツの骨格となる、極めて重要な設計図です。

しかし、こうは思いませんでしたか？

「この型を、もっと様々な状況で応用するにはどうすればいいのだろう？」

「教科書として取り上げる本が変われば、そこから抽出される知恵もまた、変わってくるのではないか？」

その通りです。

本編で学んだ8つの「型」が、いわば建物の「骨格」だとすれば、これからあなたが目にする購入者限定特典パート1は、その建物の内装や設備、配線といった「細部」を徹底的に解剖していくものです。

本編では、神サウロはマズオに「儲けの原理原則」を教えました。それは、どんなコンテンツにも通底するマクロな視点での戦略論です。

しかし、この特典パート1では、サウロの授業はさらに具体的かつ実践的な領域へと踏み込みます。教科書となるスピリチュアル本も、本編とは異なる、別のベストセラーを取り上げます。そして、マクロな「型」を、さらに77ものミクロな「仕掛け」に分解しています。

これは、いわばマズオの「if」の物語。もし、彼が物理学者ではなく数学者だったら。もし、彼が出会う教科書が、別のベストセラーだったら。そのパラレルワールドを覗き見ることで、あなたは「儲けの型」がいかに普遍的で、かつ応用範囲の広いものであるかを、より深く、立体的に理解することができるでしょう。

本編で得た知識の解像度を飛躍的に高め、あなたの武器として完全に血肉化させるための、講義が始まります。

【購入者限定特典パート1】

【あらすじ】

本作は、理系の博士号を持ちながらも13年間全く稼げず、借金2500万円を抱える貧乏な数学YouTuber「マズオ」が、ある日、夢の中で「商売を司る神サウロ」と出会うことから始まる物語である。

サウロは、マズオが稼げない原因を「良いモノを作れば売れるという致命的な勘違い」にあると指摘。そして、世の中の人間は「モノ」ではなく「物語」と「感情」にお金を払うという、商売の原理原則を説く。

サウロは、マズオに「売れる型」を学ぶための最高の教科書として、実在のスピリチュアル本『アシュタール宇宙の真実 77のディスクロージャー』を提示。2人はこの本を徹底的に分析し、「権威性の構築」「不安の吸収」「科学とオカルトのハイブリッド言語術」「共同体の形成」といった、人の心を掴み、熱狂的な信者を生み出すための77の「儲けの仕掛け」を解き明かしていく。

サウロから禁断の知識を伝授されたマズオは、自身のキャラクターとコンテンツを再構築。「数学博士」から「宇宙の真理を数式で解き明かす伝道師」へと生まれ変わる。彼は学んだ「売れる型」を忠実に実践し、自身の貧乏体験を物語として語り、科学用語でスピリチュアルを解説する動画を公開。動画は爆発的な再生回数を記録し、一躍人気者となる。

さらにマズオは、ただの石に「量子もつれの理論」という物語を付与した「クォンタム・クリスタル」を1個88万円で販売し、即日完売させる。初めて手にした大金と、人々からの熱狂的な感謝。その中で、彼の罪悪感は「人々を救っている」という全能感へと変貌していく。

やがてマズオは、オンラインサロンや高額セミナーで信者を囲い込む「帝国」を築き、書籍出版、テレビ出演を経て、社会に絶大な影響力を持つカリスマ教祖となっていく。彼はサウロの教えを完全にマスターし、ついには「型」を自ら創造する境地にまで達する。

これは、一人の冴えない男が「物語」の力を知り、世界の思想を支配するに至るまでの軌跡を描いた、現代の錬金術を巡るダークな成功譚である。

【登場人物の紹介】

マズオ

本作の主人公。13年間も発信活動を続けるが全く稼げず、才能と知識を無駄にしている理系博士。真面目で勉強はできるが、世間知らずで商売センスはゼロ。読者の「うまくいかない現実」を体現する存在である。

サウロ

マズオの夢に現れる謎の神。金ピカのスーツを着た胡散臭い男だが、その正体は人の心理と欲望を知り尽くした「商売の神」。人の心を動かし、富を生み出すための原理原則を、マズオに叩き込んでいく。

【購入者限定特典パート1：開始】

まえがき：なぜ、あなたの「質の高いコンテンツ」は一円にもならないのか？

これは「質の高い情報」を発信しているのに全く稼げない。そんなあなたのための物語である。

あなたはきっと真面目な人間なのだろう。

専門分野の知識を深めるため日々勉強を欠かさない。

高価な専門書を買い漁り、海外のニュースレターを購読する。

そうして得た知見を惜しみなく世の中に発信している。

いつかその価値が認められると信じている。

質の高いコンテンツを作り続ければ、いつか多くの人に発見され、感謝され、豊かになれるはずだと。

しかし現実はどうだ。

あなたの渾身のコンテンツは誰にも見向きもされない。

再生数は2桁か3桁をうろうろするだけ。

いいねは数個つけば良いほうだ。

収益はコンビニのアルバイト1時間分にも満たない。

「なぜだ」とあなたは思う。

「あれだけデタラメな情報を発信しているインフルエンサーがなぜあんなに儲かっているんだ？」

「それに比べて私のコンテンツは圧倒的に質が高い。なのに、なぜ」

その答えを教えよう。

あなたは致命的な勘違いをしている。

「良いモノを作れば売れる」という幻想を信じ込んでいる。

世の中の仕組みはそんなに甘くない。

人々が何かにお金を払うとき。それは「質」に対してではない。

人々は「物語」にお金を払い、「感情」にお金を払う。

彼らが買うのは商品そのものではなく、商品を手に入れることで得られる「未来の自分」のイメージなのだ。

この事実に気づかない限り、永遠に報われない。

才能の墓場で溺れ続け、時間と情熱を浪費するだけだ。

本書の主人公である「マズオ」も、かつてのあなたと同じだった。

彼は理系の博士号を持つ秀才でありながら、13年間も発信を続けて月収はわずか5000円。

2500万円もの借金を抱え、工場の深夜バイトで糊口をしのぐ日々を送っていた。

そんな彼が、ある夜、夢の中で「サウロ」と名乗る奇妙な神と出会う。

サウロはマズオに「売れるスピリチュアルコンテンツの型」を伝授する。

それは、人の心を鷲掴みにし、熱狂的な信者を生み出し、無限にお金を生み出すための禁断の錬金術だった。

本書は、マズオがサウロの教えを学び、実践し、借金まみれの貧乏博士から世界の思想を支配する最強の教祖へと成り上がっていく軌跡を、2人の対話形式で描いた物語である。

さあ、ページをめくってほしい。

あなたがこれから目にするのは、単なる成功譚ではない。

人の心理を操り、富と名声を意のままにするための、極めて実践的な教科書である。

序章：夢の中の邂逅 - 貧乏博士と商売の神

☆月収5000円、フォロワー214人。才能の墓場で溺れる男「マズオ」

マズオの部屋は、本の雪崩で埋まっていた。

壁という壁は天井まで届く書棚で覆われ、床には原書や専門誌が山積みになっている。

その中心で、マズオは安物のカップ酒を呷っていた。

画面に映るのは自身のYouTubeチャンネル。

「ゼータ関数の非自明なゼロ点の分布について part 134」

最新動画の再生数は、投稿して3日経つのに42回。

チャンネル登録者数は214人。この数字はここ3年ほど微動だにしていない。

「はは…」

乾いた笑いが漏れる。

13年間。

人生の貴重な時間を、この発信活動に捧げてきた。

理系の大学院を出た頭脳。それは本来、研究機関や大企業で活かされるべきものだった。

だがマズオは選ばなかった。

アカデミアの窮屈な人間関係を嫌い、大企業の歯車になることを拒んだ。

彼は信じていたのだ。

自分の才能と知識は本物だと。

本物の価値は、組織に属さずとも、世間が正しく評価してくれるはずだと。

月の研究費は50万円を超える。

海外の論文サイトに登録し、高価な専門書を毎月何冊も購入する。

知識への投資を惜しんではいけない。

そう自分に言い聞かせながら、工場の深夜バイトで稼いだ金をすべて注ぎ込んできた。

結果がこれだ。

13年間の発信で得た月の収益は5000円ほど。

借金は膨れ上がり、気づけば2500万円を超えていた。

消費者金融からの督促状は、もはや開封する気にもなれない。

部屋の隅で、未開封の封筒が小さな山を作っている。

「くそっ…」

カップ酒を一気に飲み干す。

アルコールの熱が喉を焼き、胃に染み渡る。

ストレスで眠れない夜が続き、体は鉛のように重い。

疲労と寝不足、そして泥酔。

ぐらりと揺れた視界の中で、マズオの意識は急速に遠のいていった。

本の山に倒れ込むようにして、彼は深い眠りに落ちた。

☆泥酔の果てに現れた神「サウロ」

次に目を開けたとき、マズオは奇妙な場所にいた。

どこまでも白い、光だけの空間。

床も壁も天井もない。

自分の体があるのかさえ定かではない。

「やあ、才能の無駄遣いチャンピオン」

不意に、背後から声がした。

振り返ると、そこに1人の男が立っていた。

金ピカのダブルスーツに身を包み、胸元にはこれみよがしに金のネックレスが輝いている。

顔には大きなサングラス。口元だけがにやりと笑っていた。

どう見てもまともな人間ではない。

バブル時代の不動産屋か、あるいは悪質な詐欺師か。

「だ、誰だ、あなたは」

マズオは警戒しながら尋ねた。

男は芝居がかった仕草で胸を張り、尊大に告げた。

「我こそは商売を司る神、サウロだ！」

神。

マズオは鼻で笑いそうになった。

寝不足と泥酔が見せる夢も、いよいよ支離滅裂になってきた。

こんな胡散臭い神がいてたまるか。

「夢か…早く覚めてくれ」

そう呟いて、マズオは目を固く閉じた。

しかし、サウロと名乗る神は意に介さず話を続ける。

「夢だと思いたいかね。だが残念、これは君の魂が見ている現実だ。君があまりにも救いようのない馬鹿だから、我輩が直々に救いの手を差し伸べに来てやったのだ」

☆「君はなぜ貧乏なのか？」「それは、世界の“売り方”を知らないからだ」

「救いようのない馬鹿だと？」

マズオのプライドが、ちくりと刺された。

博士号を持つ自分を、馬鹿呼ばわりするとは。

たとえ夢の中の登場人物であろうと許せない。

「そうだとも。君は超弩級の馬鹿だ」

サウロはサングラスの奥から、マズオの心を見透かすように言った。

「君は13年間、誰にも求められていない情報を発信し続けている。膨大な借金を抱え、才能をドブに捨てている。これを馬鹿と言わずして何と言う」

「僕のコンテンツは質が高い！」

マズオは思わず叫んだ。

「いつか必ず認められる。本物の価値は、時間がかかっても理解されるんだ」

「それだ！」

サウロがビシッと指をさす。

「その考えこそが、君を貧乏のどん底に縛り付けている呪いだ。良いかね、マズオ君。君のコンテンツの質が高いことと、それが売れることは全く別の話だ」

全く別の話。

その言葉が、マズオの頭の中で反響した。

「君の数学動画は素晴らしい。それは我輩も認めよう。だが、それだけでは一円の価値もない」

サウロは冷徹に言い放った。

「なぜなら君は、世界の“売り方”を全く知らないからだ。君が必死に磨いているのは『商品の中身』だけ。しかし、人々が本当に求めているのは『商品の外見』であり、『商品を包む物語』なのだよ」

物語。

その言葉に、マズオは引っかかりを覚えた。

サウロは満足げに頷く。

「そうだ。君に決定的に欠けているもの。それは、人の心を動かし、お金を払わせる『物語』を紡ぐ能力だ。そして、それを学ぶための最高の教科書が、君の本棚にもある」

「僕の本棚に？」

「うむ。君はそれを『トンデモ本』だとか『非科学的だ』と見下しているようだがね」

サウロはにやりと笑い、こう言った。

「その名も、『アシュタール宇宙の真実 77のディスクロージャー』。あれこそが、君が学ぶべき『売れる型の百科事典』なのだよ」

第一部：覚醒への序曲 - 「売れる」とは何か？

第1章：「良いモノを作れば売れる」という大いなる勘違い

☆サウロが語る「価値」の正体 - 顧客は「モノ」ではなく「物語」と「感情」を買う

「アシュタール…だと？」

マズオは眉をひそめた。

その本のタイトルには聞き覚えがあった。

たしか数年前に、ベストセラーだとかで平積みされていたスピリチュアル本だ。

一度だけ、好奇心から手に取ってパラパラとめくったことがある。

宇宙人アシュタールからのメッセージをチャネリングしたという内容に、マズオは失笑を禁じ得なかった。

非論理的で、何の裏付けもない、荒唐無稽な妄想の産物。

それがマズオの評価だった。

「あんなものが教科書だと？冗談じゃない」

マズオは吐き捨てるように言った。

「あれはただのデタラメだ。科学的根拠が皆無のファンタジーじゃないか」

「その通り」

サウロはあっさりと認めた。

「内容はファンタジーだ。だが、問題はそこではない。重要なのは、その『デタラメなファンタジー』が、なぜ君の『質の高い科学的真実』よりも圧倒的に売れているのか。その事実だ」

サウロはマズオに一歩近づいた。

その金ピカのスーツからは、なぜか高級な葉巻の香りがした。

「良いかねマズオ君。人々が価値を感じるポイントは、君が考えている場所とは全く違う。人々は『モノ』そのものには大して価値を感じない。君がどんなに素晴らしい数式を解説しようとも、それに直接お金を払う人間はごく少数だ」

「じゃあ、人々は何にお金を払うんだ」

「物語と感情だ」

サウロは断言した。

「人々は、その商品を手に入れることで得られる『素晴らしい未来の自分』という物語を買う。そして、その物語に触れたときに湧き上がる『希望』や『安心』、『優越感』といった感情に対してお金を払うのだ」

サウロは指をパチンと鳴らした。

すると、白い空間に一台の高級スポーツカーが現れた。

流線型の美しいフォルム。ピカピカに磨かれた深紅のボディ。

「例えば、この車だ」

サウロはその車をポンと叩いた。

「人々は、この鉄の塊そのものが欲しいわけではない。この車を手に入れ、颯爽と乗りこなし、周囲の羨望の眼差しを浴びる自分。そういう物語を手に入れたいのだ。この車は、その物語を実現するための『チケット』に過ぎん」

「チケット…」

「そうだ。そしてスピリチュアル本も同じだ。読者は宇宙の真理とやらを知りたいわけではない。その本を読むことで、『自分は特別な存在だ』と感じたい。『人生の苦しみから解放される』という希望を抱きたい。その感情を得るために、彼らは喜んで数千円を支払う。君の数学動画には、そのチケットとしての機能が全くない」

☆マズオの数学動画が絶望的にウケない根本的な理由

サウロの言葉は、マズオの頭を鈍器で殴るような衝撃を与えた。

自分の発信は、いったい誰のためのものだったのか。

ゼータ関数の非自明なゼロ点の分布。

その知識が、世の中の99.9%の人間の人生に何の関係があるというのか。

それを知ったところで、彼らの生活が1ミリでも良くなるのか。

抱えている悩みや不安が、少しでも軽くなるのか。

「君の動画は、典型的な自己満コンテンツだ」

サウロは追い打ちをかける。

「君は、自分が知っていることを話したいだけ。自分が楽しいからやっているだけだ。それは趣味としては結構だが、ビジネスとしては落第だ。なぜなら、そこには『顧客』という視点が完全に欠落しているからだ」

「顧客…」

マズオの口から、か細い声が漏れた。

フォロワー214人。

彼らの顔を、マズオは一人も知らなかった。

彼らがどんな人間で、どんな生活を送り、何を求めて自分の動画を見に来たのか。

考えたことさえなかった。

「商売の基本は、たった一つだ」

サウロは言った。

「相手を喜ばせること。相手の悩みや苦しみを理解し、それを解決する手助けをすること。その対価としてお金をいただく。君がやっていることは、その真逆だ。自分の知識をひけらかし、『どうだ、俺はすごいだろう』と悦に入っているだけ。そんなものに誰がお金を払うかね」

ぐうの音も出なかった。

サウロの言葉はすべて真実だった。

マズオは、自分の知識と才能に酔っていただけなのだ。

「質の高さ」という名の砦に引きこもり、世間を見下していただけなのだ。

その砦は、誰かを守るどころか、自分自身を社会から隔絶するだけの牢獄だった。

☆品質という自己満足の呪いから抜け出せ

「君が囚われているのは『品質の呪い』だ」

サウロは続けた。

「品質が高ければ認められるはず。これは多くの才能ある貧乏人が陥る罠だ。だが、考えてもみたまえ。世界で最も売れているハンバーガーは、世界で最も美味いハンバーガーかね？違うだろう。世界で最も売れている音楽は、世界で最も芸術性の高い音楽かね？それも違う」

売れるものと、品質が高いものは必ずしも一致しない。

むしろ、多くの場合、一致しない。

なぜなら、「売れる」という現象は、品質以外の多くの要素によって決定づけられるからだ。

マーケティング、ブランディング、ストーリーテリング、タイミング。

これらの要素が複雑に絡み合い、「売れる」という結果を生み出す。

「君に必要なのは、その『売れるための型』を学ぶことだ」

サウロは言った。

「そして、その型が最も露骨に、最もわかりやすく使われているのが、スピリチュアルの世界なのだ。彼らは、中身が空っぽだからこそ、外見を磨き上げることに命を懸けている。物語を紡ぎ、感情を煽る天才だ。君はその技術を、あの『アシュタール』から学ぶのだ」

マズオは、足元に散らばる専門書を思った。

難解な数式、複雑な理論。

それらを理解できる自分の頭脳を、彼は誇りに思ってきた。

しかし、そのプライドが、今、ガラガラと崩れ落ちていく。

自分が信じてきた「価値」は、社会では通用しない幻想だったのかもしれない。

「さあ、どうするマズオ君」

サウロが問いかける。

「このまま才能の墓場で朽ち果てるか。それとも、くだらないプライドを捨て、我輩と共に『売れる型』を学ぶか。君の人生は、君が決めるのだ」

白い光の中で、マズオは立ち尽くした。

借金2500万円の現実が、重くのしかかる。

工場の油の匂いが、鼻の奥に蘇る。

もう、あんな生活には戻りたくない。

マズオは、震える声で、絞り出すように言った。

「…学ぶ。教えてくれ、その『売れる型』とやらを」

その言葉を聞いて、サウロは満足そうに、にやりと笑った。

第2章：教科書『アシュタール宇宙の真実』登場

☆なぜ、この一見荒唐無稽な本がベストセラーになるのか？

「よろしい」

サウロは満足げに頷いた。

「では早速、授業を始めよう。教科書はもちろん、あれだ」

サウロが再び指を鳴らすと、マズオの目の前に1冊の本が現れた。

紫と金のグラデーションを背景に、無数の光の粒子がリボンのように舞っている。

その中央に、明朝体で大きく書かれたタイトル。

『アシュタール宇宙の真実 77のディスクロージャー』

マズオは、その本を苦々しい表情で手に取った。

表紙をめくると、目次が並んでいる。

「宇宙の真実」「思考が現実を創る」「パラレルワールド」「波動エネルギー」

見ているだけで頭が痛くなりそうな単語の羅列だ。

「こんなものを分析して、何がわかるというんだ」

マズオは吐き捨てるように言った。

「すべてがわかる」

サウロは断言した。

「この本は、いわば『売れるコンテンツ』の設計図そのものだ。なぜ、この本がベストセラーになったのか。なぜ、多くの人がこの本を買い、熱狂的な信者まで生まれるのか。その理由を一つ一つ分解し、分析していく。それが我々の最初の課題だ」

サウロは続ける。

「君はこれまで、物事を『科学的か、非科学的か』という軸だけで判断してきた。それは研究者としては正しい態度だ。だが、商売人としては三流だ。これからは、物事を『売れるか、売れないか』という軸で見る訓練をするのだ。この本に書かれている内容の真偽はどうでもいい。我々が注目すべきは、その『見せ方』『語り方』なのだよ」

見せ方、語り方。

マズオは、その言葉を反芻した。

コンテンツは中身がすべてだと信じてきた。

しかし、サウロは、外側にある「パッケージ」こそが重要だと言う。

「良いかね」

サウロはマズオの肩に手を置いた。

「君がこれから学ぶのは、人の心を動かすための技術だ。それは心理学であり、マーケティングであり、そしてストーリーテリングの技術だ。この本は、それらの技術が惜しげもなく詰め込まれた、まさに生きた教材なのだ。さあ、偏見という色眼鏡を外して、この『設計図』を読み解いていこうではないか」

☆サウロ「この本は、君が学ぶべき『人の心を動かす型の百科事典』だ」

マズオは、改めて本に目を落とした。

『アシュタール宇宙の真実』

このタイトル自体、すでに巧妙な仕掛けが施されているとサウロは言う。

「まず、『アシュタール』だ」

サウロが解説を始めた。

「これは、読者に強烈な『権威性』を感じさせるための装置だ。考えてもみたまえ。もしタイトルが『田中さんの考えた宇宙の真実』だったら、君は買うかね？」

「買うわけがない」

マズオは即答した。

「どこの馬の骨とも知れない田中さんの妄想に、金を払う価値はない」

「その通り！」

サウロは膝を打った。

「人は、『誰が』語るかを非常に気にする生き物だ。同じ内容でも、近所のおじさんが言うのと、ノーベル賞学者が言うのとでは、受け取られ方が全く違う。スピリチュアルの世界では、この『権威性』を担保するために、神や天使、そして宇宙人といった『高次元の存在』が頻繁に登場する。なぜなら、彼らは人間を超えた存在であり、その言葉には絶対的な真実味があるように感じられるからだ。アシュタールという名前は、そのための最も重要なパーツなのだ」

権威性。

マズオは自分の動画タイトルを思い返した。

「ゼータ関数の非自明なゼロ点の分布について」

そこには、何の権威性もなかった。

あるのは、見る者を突き放すような専門用語の羅列だけ。

「博士号を持つマズオが語る」とでも付け加えれば、少しは違ったのだろうか。

いや、焼け石に水だろう。

「次に、『宇宙の真実』。これもまた巧みだ」

サウロの解説は続く。

「人々は常に『答え』を求めている。自分の人生は正しいのか。この世界はどこへ向かうのか。そうした根源的な問いに対する、シンプルで断定的な『答え』を欲している。このタイトルは、その欲求に真正面から応えている。『この本を読めば、宇宙の真実という究極の答えが手に入りますよ』と約束しているのだ。小難しい理屈などいらん。ただ『真実』という言葉の持つ力強さだけで、人々は引き寄せられる」

☆これから我々が解き明かす「77の仕掛け」

「そして、『77のディスクロージャー』だ」

サウロはにやりと笑った。

「ディスクロージャー、つまり『情報開示』だな。これは読者に『今まで隠されていた秘密を、あなただけに教えますよ』という特別感を与える。そして『77』という具体的な数字。これがまたミソだ」

「数字が？」

「そうだ。もしこれがただの『ディスクロージャー』だったら、少し漠然としている。だが、『77』という具体的な数字を示すことで、読者は『この本には77個もの明確な情報が詰まっているんだ』と認識する。そして、その網羅性に価値を感じる。人間は、具体的な数字に弱いのだよ」

アシュタールという権威。

宇宙の真実という究極の答え。

77のディスクロージャーという網羅性と特別感。

「たった一行のタイトルに、これだけの仕掛けが施されている」

サウロは言った。

「この本は、こうした大小様々な『人の心を動かす仕掛け』の集合体だ。我々はこれから、この77の仕掛けを一つ残らず解剖し、その構造と機能を白日の下に晒していく。準備はいいかね、マズオ君」

マズオはゴクリと唾を飲んだ。

自分が「デタラメ」と一蹴した本の中に、これほど計算され尽くした世界が広がっているとは。

それはまるで、美しい幾何学の定理を発見したときのような、知的な興奮を伴うものだった。

目の前の胡散臭い神が、初めて本物の「神」に見えた瞬間だった。

「ああ、準備はできている」

マズオは、力強く頷いた。

貧乏博士マズオの、世界を征服するための最初の授業が、今、始まろうとしていた。

第二部：「売れるスピリチュアル」徹底解剖 - 『アシュタール』に隠された77の仕掛け

第3章：【売れる仕掛け】権威性の源泉 - 「誰が」語るか？で9割決まる

☆仕掛け①：「アシュタール」という名の発明 - なぜ宇宙人や高次元存在という設定が最強なのか？

「さて、いよいよ本丸に攻め入るとしよう」

サウロは芝居がかった口調で言った。

「我々が最初に分析するのは、この本、ひいてはあらゆるスピリチュアルコンテンツの心臓部。すなわち『権威性』をいかにして作り出すか、だ」

サウロは教科書『アシュタール』の冒頭部分を指し示した。

そこには、この本が「宇宙連合のアシュタール司令官」からのメッセージであるという説明が書かれている。

「先ほども触れたが、これは最強の発明だ」

サウロは言った。

「なぜ、架空の宇宙人という設定がこれほどまでに強力なのか。マズオ君、君の明晰な頭脳で分析してみたまえ」

唐突に振られ、マズオは少し戸惑った。

しかし、すぐに思考を巡らせ始める。

「まず、反論が不可能になる」

マズオは答えた。

「相手が宇宙人であれば、地球の科学常識は通用しない。『それは科学的にあり得ない』という批判は、『地球の科学が未熟なだけ』という一言で退けられてしまう」

「素晴らしい！その通り！」

サウロは手を叩いて喜んだ。

「反論の無効化。これは極めて重要だ。どんな批判も受け付けない無敵のポジションを確保できる。他には？」

「次に、情報の希少価値が高まる」

マズオは続けた。

「誰もがアクセスできる情報には価値がない。しかし、宇宙人からのメッセージとなれば、それは世界でこの著者しか受信できない超絶的にレアな情報ということになる。人々は、その希少性に強い価値を感じるはずだ」

「見事だ、マズオ君！君は本質を見抜く才能がある」

サウロは心から感心したように言った。

「反論の無効化と希少性の演出。この2つだけで、『アシュタール』という設定は盤石の権威性を獲得する。さらに、もう一つあるとすれば何だ？」

マズオは少し考え込んだ後、口を開いた。

「物語性の付与、だろうか。ただの思想や哲学ではなく、『宇宙人からのメッセージ』という壮大な物語の枠組みを与えることで、読者はより強くコンテンツに引き込まれる。エンターテイメント性が格段に増す」

「完璧な答えだ！」

サウロは叫んだ。

「まさにそれだ！反論不能、希少、そして物語的。この三位一体が、『アシュタール』という権威の源泉なのだ。どんなに素晴らしい数学の定理も、この『物語の力』の前では無力なのだよ」

☆仕掛け②：チャネリングという設定 - 反論を封じ、神秘性を高める無敵の盾

「そして、その権威性をさらに補強するのが、この設定だ」

サウロは「チャネリング」という言葉を指さした。

「チャネリング、つまり高次元の存在と交信してメッセージを受け取ること。これもまた、スピリチュアル業界における偉大な発明品だ」

「それは、アシュタールという設定とどう違うんだ？」

マズオは疑問を口にした。

「アシュタールが『コンテンツの中身』だとすれば、チャネリングは『コンテンツの伝達方法』だ」

サウロは答えた。

「この設定が加わることで、著者は単なる『作者』ではなく、神聖なメッセージを伝えるための『巫女』あるいは『預言者』というポジションに昇格する。著者の個人的な意見ではない。あくまでもアシュタール様からのお告げを、忠実に伝えているだけです、という体裁が取れる」

「なるほど。責任の所在を曖昧にする効果があるわけか」

マズオは納得した。

「もし内容に間違いがあったとしても、それは著者のせいではない。アシュタール様のメッセージがそうだった、ということになる」

「その通り。責任回避能力が格段に向上する」

サウロは頷いた。

「さらに、チャネリングという行為そのものが、神秘的な儀式として機能する。読者は、その不可思議なプロセスに魅了され、畏敬の念を抱く。『自分にはできない特別なこと』をやっている人間に、人々は弱いのだ。この『チャネリング』という設定一つで、著者はただの物書きから、神聖な儀式を執り行う聖職者へと変身できるのだよ」

☆仕掛け③：著者「ミナミAアシュタール®」のブランディング - なぜ®マークがついているのか？

「さて、次はこの本の著者を見てみよう」

サウロは奥付に書かれた著者名を指さした。

「ミナミAアシュタール®。この名前にも、抜かりない仕掛けが施されている」

「ミナミは人名だろう。AはおそらくアシュタールのA。だが、この最後の®は何だ？」

マズオは首を傾げた。

®は登録商標（Registered Trademark）を示す記号だ。

個人のペンネームにつけるのは一般的ではない。

「これこそが、凡百のスピリチュアル発信者と一線を画す、巧みなブランディング戦略だ」

サウロは言った。

「この®マークがあることで、読者は無意識のうちに何を連想すると思う？」

マズオは考えた。

登録商標は、企業が自社の製品やサービスを他と区別するために使う。

そこには、公的な機関に認められたというお墨付きがある。

「…公的な何か、というイメージか？ちゃんとした組織、あるいは企業が運営しているという信頼感？」

「正解！」

サウロは満足そうに言った。

「このたった一つの記号が、『ミナミAアシュタール』という個人名を、まるで大企業のブランド名のように見せるのだ。単なる個人活動ではない。背後にはしっかりとした組織があり、法的に保護された信頼できるブランドである、という印象を無意識下に刷り込む。これは、読者に『安心感』を与えるための、非常に安上がりで、しかし効果絶大な仕掛けだ」

「そこまで計算されているのか…」

マズオは呻いた。

自分がいかに無防備に、無策に発信を続けてきたかを思い知らされる。

自分のチャンネル名「マズオの数学」には、何の仕掛けもなかった。

「商売とは、細部の積み重ねだ」

サウロは言った。

「神は細部に宿る、とはよく言ったものだ。売れるコンテンツは、こうした一見些細な仕掛けの集合体でできている。一つ一つは小さくとも、それらが束になることで、巨大な『売れる力』を生み出すのだよ」

☆仕掛け④：「～と思います」「～だそうです」 - 断定を避けることで責任も回避する話法

「次は文体だ」

サウロは本文の一節を指さした。

「『～だと私は思います』『～ということがあるそうです』。この本の文章には、こうした断定を避ける表現が多用されている。これもまた、重要な仕掛けの一つだ」

「断定しない？説得力が弱まるんじゃ？」

マズオは反論した。

「『真実』を語るなら、『～です』『～である』と断定した方が、力強く聞こえるはずだ」

「素人考えだな、マズオ君」

サウロは首を振った。

「断定的な物言いは、確かに力強い。だが、同時に強い反発も生む。特に君のような理屈っぽい人間は、『その根拠は何か』とすぐに噛みついてくるだろう？断定は、敵を作る行為でもあるのだ」

確かに、とマズオは思った。

断定的な物言いをされると、つい批判的な視点で見てしまう癖がある。

「しかし、『～と思います』という個人的な見解や、『～だそうです』という伝聞の形を取ることで、その批判の矛先を巧みにかわすことができる」

サウロは解説した。

「『思います』というのはあくまで個人の感想だから、他人がとやかく言う筋合いはない。『そうです』というのは伝聞だから、情報の真偽の責任は発信者にはない。この話法によって、発信者は安全地帯から一方的に情報を投げ続けることができるのだ」

「なるほど。予防線を張っているわけか」

「そうだ。しかも、この話法にはもう一つ、副次的な効果がある。それは、読者に『謙虚さ』や『誠実さ』といった印象を与えることだ。断定的に語る傲慢な教祖よりも、一歩引いて『私はこう思うのですが、どうでしょうか』と問いかける姿勢の方が、読者は親近感を覚え、心を開きやすい。攻撃をかわし、同時に信頼を得る。まさに一石二鳥の話法と言えるだろう」

☆仕掛け⑤：Q&A形式の魔力 - 読者の疑問を代弁し、解決する「寄り添い」の演出

「そして、この章の最後が、Q&A形式という構成そのものだ」

サウロは本の全体的な構成に言及した。

この本は、架空の質問者からの問いにアシュタールが答える、という形式で全編が貫かれている。

「なぜ、わざわざQ&A形式にする必要があるのか。普通に章立てして説明すればいいじゃないか。君ならそう思うだろう？」

サウロに問われ、マズオは頷いた。

自分の動画も、教科書のように淡々と理論を解説するスタイルだ。

「Q&A形式には、2つの絶大なメリットがある」

サウロは指を2本立てた。

「第一に、読者の離脱を防ぐ効果だ。一方的な解説が続くと、読者は飽きてしまう。しかし、対話形式にすることで、物語性が生まれ、テンポよく読み進めることができる。ラジオドラマを聞いているような感覚だな」

「第二に、そしてこちらがより重要だが、『読者に寄り添っている』という演出ができることだ」

サウロは続けた。

「質問者は、読者が抱くであろう素朴な疑問や、言いにくい本音を代弁してくれる存在だ。『でも、それじゃお金がなかったらどうするんですか？』『そんなこと言われても、すぐには変われませんよ』といった具合にだ。読者はその質問者に自分を重ね合わせ、『そうそう、それが聞きたかったんだ！』と共感する」

「つまり、質問者は読者のアバター（分身）として機能しているわけか」

「その通りだ。そして、その質問にアシュタールが優しく、あるいは力強く答える。このやり取りを通して、読者はまるで自分が直接アシュタールから教えを請い、悩みを解決してもらっているかのような感覚に浸ることができる。これは、読者との間に強固な信頼関係、いわゆる『ラポール』を築くための、極めて効果的な手法なのだ」

権威性、反論不能性、希少性、物語性、責任回避、安心感、信頼感、そして寄り添いの演出。

マズオは、頭がクラクラしてきた。

たった数ページを分析しただけで、これだけの仕掛けが隠されていた。

自分がいかに「中身」ばかりにこだわり、「伝え方」を軽視してきたかを痛感する。

「どうだね、マズオ君」

サウロがにやりと笑う。

「スピリチュアルの世界が、いかに緻密なマーケティングの上に成り立っているか、少しは理解できたかな？これはまだ序の口だ。この本には、あと72個もの強力な仕掛けが眠っているのだからな」

白い空間の中で、マズオはただ、目の前の教科書を握りしめることしかできなかった。

第4章：【売れる仕掛け】普遍的な不安を刺激し、支配する

☆仕掛け⑥：「お金」と「病気」 - 人間の2大不安へのアプローチ法

「権威性の構築が、いわば城の土台作りだとすれば」

サウロは次の章へと進んだ。

「次に行うのは、その城に人々を招き入れるための堀を掘る作業だ。その堀の名は、『不安』という」

サウロは教科書の目次を指し示した。

そこには「お金」「病気」「死について」といった、見るからに重たいテーマが並んでいる。

「人間が抱える悩みは、古今東西、突き詰めれば数個に集約される。その中でも特に強力なのが、『お金』と『健康』、つまり病気に関する不安だ。この2つは、人間の生存本能に直結する根源的な恐怖だからな」

「確かに、その2つで悩んでいない人間はいないだろう」

マズオも頷かざるを得ない。

自分自身が、まさに借金という「お金」の悩みと、ストレスによる「不健康」の悩みの渦中にいる。

「スピリチュアルコンテンツの多くは、まずこの二大不安に焦点を当てる」

サウロは解説した。

「なぜなら、最も多くの人々の関心を引きつけられるからだ。『お金がなくても大丈夫』『病気は自分で治せる』。こうしたメッセージは、藁にもすがりたい人々にとって、抗いがたい魅力を持つ。まず、この普遍的な不安を入り口にして読者を引き込み、そこから徐々に、より深い教義へと導いていくのが王道パターンだ」

「つまり、最初は最もキャッチーな悩みを取り上げ、間口を広げるための撒き餌として使うわけか」

マズオは分析した。

「その通りだ。素晴らしい表現だな、マズオ君」

サウロは満足げに笑った。

「君の数学動画は、この点で完全に失敗している。『ゼータ関数の謎』は、残念ながら人類の99.99%にとってはどうでもいい悩みだからな。まず、人々が何に悩み、何を恐れているのか。そこを徹底的にリサーチし、その不安に寄り添い、解決策を提示する。これが商売の基本中の基本だ」

☆仕掛け⑦：「死」と「輪廻転生」 - 究極の恐怖を「終わらないゲーム」という希望に変える

「そして、お金と病気の不安の、さらに根源にあるのがこれだ」

サウロは「死について」という章を指した。

「『死』。これこそが、人間が抱える最大最強の恐怖だ。スピリチュアルが宗教の代替として機能し得るのは、この『死』という究極の問いに対して、一つの『答え』を提供するからに他ならない」

教科書『アシュタール』には、「死は終わりではない」「肉体を脱ぎ捨て、エネルギー体として存在し続ける」「輪廻転生という仕組みがある」といった内容が書かれていた。

マズオからすれば、何の証拠もない願望の垂れ流しにしか見えない。

「こんなもので、人々は納得するのか？」

マズオは疑問を呈した。

「納得するかしないかではない。信じたいか信じたくないか、だ」

サウロは言った。

「死んで無になるという冷徹な事実と、『死後も魂は続く』という温かい物語。どちらを信じたいかと問われれば、ほとんどの人間は後者を選ぶ。宗教が何千年もの間、人々の心を掴んできたのは、この『死後の救い』という物語を提供してきたからだ」

「つまり、恐怖を希望に変換する装置ということか」

「そうだ。特に『輪廻転生』という概念は、非常によくできている。人生を一度きりのものと考えると、失敗は許されないというプレッシャーが重くのしかかる。だが、人生が何度も繰り返される『ゲーム』のようなものだと捉えれば、どうだろう？『今回は失敗したけど、また次の人生で頑張ればいいや』と、心が軽くなる。この『死の恐怖の無効化』と『人生のゲーム化』は、人々を現実の苦しみから解放し、安心感を与えるための、極めて強力な物語なのだ」

マズオは言葉を失った。

死という絶対的な終焉を、「コンティニュー可能なゲーム」に変えてしまう。

その発想の転換は、ある種の感動さえ覚えるほどに巧みだった。

科学的な真偽など、この圧倒的な「希望の物語」の前では、些末な問題に過ぎないのかもしれない。

☆仕掛け⑧：「人間関係」と「孤独」 - 「ワンネス」という心地よい響きの罠

「死の恐怖と並んで、現代人が抱える大きな不安が『孤独』だ」

サウロは「ワンネス」という章を指さした。

「社会が複雑化し、人間関係が希薄になる中で、多くの人が『誰とも繋がれていない』という孤独感を抱えている。この本は、その孤独感に対する特効薬として『ワンネス』という概念を提示する」

ワンネス。

すべては一つであり、繋がっている、という思想だ。

この本には「あなたは一人ではない」「私もあなたも、木も石も、すべては同じ根源から生まれた兄弟です」といった言葉が並ぶ。

「これもまた、心地よい響きを持つ言葉だ」

サウロは言った。

「読者は、この言葉に触れることで、自分を苦しめていた孤独感から解放される。自分は宇宙全体と繋がっている、という壮大な一体感を味わうことができる。これは、麻薬的なまでの高揚感と安心感を読者に与える」

「しかし、これもまた現実逃避に過ぎないのでは？」

マズオは指摘した。

「実際に人間関係が改善するわけではない。ただ、繋がっているような『気』になるだけだ」

「それでいいのだ」

サウロは断言した。

「問題が実際に解決するかどうかは重要ではない。重要なのは、読者の『気分』が良くなることだ。ワンネスという概念は、具体的な努力を何も要求しない。ただ、そう信じるだけで、孤独という苦痛を和らげてくれる。こんなに簡単で安上がりな解決策が他にあるかね？人々は、その心地よさの対価として、喜んでお金を払うのだ」

孤独という痛みを癒すための、甘美な鎮痛剤。

それが「ワンネス」という物語の正体だった。

マズオは、自分がこれまで、いかに人の「感情」を無視してきたかを痛感せずにはいられなかった。

論理的な正しさだけでは、人の孤独は癒せないのだ。

☆仕掛け⑨：「いじめ」「差別」 - 社会問題に言及し、弱者の味方というポジションを取る

「さて、個人的な不安から、より社会的な不安へとスケールを広げてみよう」

サウロは目次の中の「被害者と加害者」という項目を指した。

「この本は、いじめや差別といった社会問題にも言及している。これもまた、読者の心を掴むための巧妙な戦略だ」

「社会問題を語ることが、どうして戦略になるんだ？」

マズオには、その意図がすぐには理解できなかった。

「それは『正義の味方』というポジションを確立するためだ」

サウロは答えた。

「世の中には、理不尽な扱いや社会の不条理に苦しんでいる人々が数多く存在する。彼らは、自分の苦しみを誰かに理解してほしいと願っている。この本は、そうした人々の声なき声に寄り添い、『あなたの苦しみは正しい』『悪いのは社会の方だ』と代弁することで、彼らの絶大な支持を得る」

「つまり、社会的弱者に寄り添う姿勢を見せることで、信頼を獲得するのか」

「そうだ。そして、これは単なる支持獲得に留まらない。いじめや差別といったテーマに触れることで、この本、そして著者は、単なるスピリチュアル発信者から、社会の不正義と戦う『活動家』へとその姿を変える。読者は、この本を買うという行為を通して、まるで自分もその正義の戦いに参加しているかのような高揚感を得ることができるのだ」

マズオは、自分が社会問題に対してどこか冷淡だったことを思い返した。

自分の研究分野である数学の純粋な世界に比べれば、人間の社会など複雑で汚いものだと考えていた。

しかし、その「汚い」と感じる部分にこそ、多くの人々の切実な感情が渦巻いている。

サウロは、その感情の渦に巧みに乗りこなし、それを自らの推進力に変えているのだ。

☆仕掛け⑩：「常識を疑え」 - 既存の価値観を否定し、信者を社会から孤立させる