はじめに

採用現場で人事担当者なら一度は経験したことがあるだろう。最終面接も通過し、条件面談も順調に進み、「あとはオファーレターを送るだけ」という段階で突然聞こえてくる一言。

「実は、家族（配偶者）が反対していまして...」

この現象を、私たちは「パートナーブロック」と呼んでいる。一見すると単純な家族内の意見の相違に見えるが、実はその背景には、現代のビジネスパーソンが抱える深刻な課題と、企業の採用プロセスの盲点が隠されている。

本稿では、15年間で1,000人以上の採用に関わってきた経験と、心理学的観点から「パートナーブロック」の本質を解き明かし、企業と個人双方にとっての学びを提示したい。

パートナーブロックの実態

私が過去に遭遇したパートナーブロックの代表的なパターンを整理すると、以下のような傾向が見えてくる：

パターンA：条件面の懸念

パターンB：企業・業界への不安

パターンC：タイミングの問題

これらは確かに合理的な理由に見える。しかし、15年間この現象を観察し続けてきた結果、私はある重要な事実に気づいた。

真に優秀なビジネスパーソンほど、パートナーブロックに遭遇する確率が低い。

この事実が示唆するものは何か。それを理解するために、まず私たちは「パートナーブロック」の表層を剥がし、その奥に潜む真実を見つめる必要がある。

ある外資系コンサルティング会社で実際にあった事例を紹介しよう（個人情報は伏せている）。

事例：田中さん（仮名）のケース

田中さんは大手商社で7年間勤務し、優秀な成績を収めていた32歳の男性だった。MBA取得後、より戦略的な仕事を求めて転職活動を開始。書類選考、1次面接、2次面接、最終面接のすべてを順調にクリアし、提示された条件も希望を上回っていた。

しかし、内定通知の翌日、田中さんから連絡があった。

「申し訳ございません。妻に相談したところ、『コンサルティング業界は激務で家庭を顧みられなくなる』と強く反対されました。家族のことを考えると、今回はお断りさせていただきたく...」

表面上は、配偶者の懸念がもっともに聞こえる。確かにコンサルティング業界は激務として知られており、ワークライフバランスに対する不安は理解できる。

しかし、よく考えてみてほしい。田中さんは7年間商社で働いており、商社も決して楽な業界ではない。むしろ、海外出張や接待などを考慮すると、コンサルティング以上に家庭に影響を与える可能性もある。

さらに重要なのは、田中さんが転職活動を始めてから内定まで約3ヶ月間の時間があったということだ。その間、配偶者と転職について一度も具体的な相談をしていなかったのだろうか？