はじめに

デジタル変革が加速する現代社会において、情報セキュリティマネジメントの重要性はかつてないほど高まっています。サイバー攻撃の高度化、AI技術の悪用、新たな法制度の施行など、情報セキュリティを取り巻く環境は日々変化し続けています。

本書は、情報セキュリティマネジメント試験の合格を目指す皆様に向けて、2025年から2026年にかけての最新動向を完全に反映した実践的なテキストです。単なる試験対策書ではなく、現代のデジタル社会で真に求められる情報セキュリティマネジメントの知識と技能を体系的に学べる内容となっています。

特に本書では、2025年4月に施行された情報流通プラットフォーム対処法、同年5月に施行されたセキュリティ・クリアランス制度、そして急速に進化するAI活用攻撃への対策など、従来のテキストでは扱われていない最新の話題を詳しく解説しています。また、理論と実践を結びつけることを重視し、読者が実際の業務で活用できる知識の習得を目指しています。

本書が、情報セキュリティマネジメントの専門家を目指す皆様の学習の一助となり、ひいては我が国のサイバーセキュリティ向上に貢献できることを心より願っています。

目次

第1部：基礎編

第1章　情報セキュリティの本質と現代的意義

•1.1 デジタル社会における情報セキュリティの位置づけ

•1.2 情報セキュリティの歴史的変遷

•1.3 現代社会が直面するセキュリティ課題

•1.4 情報セキュリティマネジメントの役割と責任

第2章　情報セキュリティの三要素と拡張概念

•2.1 機密性（Confidentiality）の深層理解

•2.2 完全性（Integrity）の多面的考察

•2.3 可用性（Availability）の現代的解釈

•2.4 真正性、責任追跡性、否認防止の重要性

第3章　脅威と脆弱性の体系的理解

•3.1 脅威の分類と特徴分析

•3.2 脆弱性の発生メカニズム

•3.3 攻撃者の動機と手法の進化

•3.4 脅威インテリジェンスの活用

第4章　リスクマネジメントの基本原理

•4.1 リスクの定義と構成要素

•4.2 リスクアセスメントの手法

•4.3 リスク対応戦略の選択

•4.4 リスクコミュニケーションの重要性

第2部：技術編

第5章　暗号技術とデジタル認証

•5.1 暗号技術の基本原理

•5.2 公開鍵暗号とデジタル署名

•5.3 認証技術の多様化

•5.4 量子コンピュータ時代の暗号

第6章　ネットワークセキュリティの実装

•6.1 ネットワーク脅威の現状

•6.2 ファイアウォールとIDS/IPS

•6.3 VPNとゼロトラストアーキテクチャ

•6.4 クラウドネットワークセキュリティ

第7章　システムセキュリティとアクセス制御

•7.1 システムセキュリティの基本概念

•7.2 アクセス制御モデル

•7.3 特権管理とアカウント管理

•7.4 セキュアな開発ライフサイクル

第8章　最新サイバー攻撃手法と対策技術

•8.1 ランサムウェア攻撃の進化

•8.2 標的型攻撃とAPT

•8.3 AI活用攻撃の実態

•8.4 サプライチェーン攻撃への対応

第3部：管理編

第9章　情報セキュリティマネジメントシステム（ISMS）

•9.1 ISMSの基本概念とPDCAサイクル

•9.2 ISO/IEC 27001の要求事項

•9.3 ISMS構築の実践的アプローチ

•9.4 継続的改善の仕組み

第10章　情報資産管理とリスクアセスメント

•10.1 情報資産の識別と分類

•10.2 リスクアセスメントの実施

•10.3 管理策の選択と実装

•10.4 効果測定と見直し

第11章　インシデント対応とBCP

•11.1 インシデント対応の基本プロセス

•11.2 CSIRTの構築と運用

•11.3 事業継続計画（BCP）の策定

•11.4 危機管理とコミュニケーション

第12章　セキュリティ教育と組織文化

•12.1 セキュリティ意識向上の重要性

•12.2 効果的な教育プログラムの設計

•12.3 セキュリティ文化の醸成

•12.4 内部不正の防止策

第4部：法制度・標準編

第13章　情報セキュリティ関連法規の最新動向

•13.1 サイバーセキュリティ基本法の理解

•13.2 個人情報保護法の実務対応

•13.3 情報流通プラットフォーム対処法の影響

•13.4 セキュリティ・クリアランス制度の概要

第14章　国際標準とガイドライン

•14.1 ISO/IEC 27000シリーズの体系

•14.2 NIST Cybersecurity Frameworkの活用

•14.3 業界別ガイドラインの理解

•14.4 国際的なセキュリティ協力

第15章　コンプライアンスと監査

•15.1 コンプライアンス管理の基本

•15.2 内部監査の実施方法

•15.3 第三者監査への対応

•15.4 監査結果の活用と改善

第5部：実践編

第16章　業界別セキュリティ事例研究

•16.1 金融業界のセキュリティ対策

•16.2 製造業のサプライチェーンセキュリティ

•16.3 医療業界の情報保護

•16.4 教育機関のセキュリティ課題

第17章　演習問題と解説

•17.1 科目A対策問題（基礎知識）

•17.2 科目B対策問題（実践応用）

•17.3 解答解説と学習ポイント

•17.4 頻出問題の傾向分析

第18章　試験対策と学習方法

•18.1 効率的な学習計画の立て方

•18.2 科目別攻略法

•18.3 直前対策のポイント

•18.4 合格後のキャリア展望

第1部：基礎編

第1章　情報セキュリティの本質と現代的意義

1.1 デジタル社会における情報セキュリティの位置づけ

現代社会は、かつてないほど情報技術に依存した社会となっています。スマートフォンから始まる一日、クラウドサービスを活用した業務、IoTデバイスに囲まれた生活環境、そしてAIが支援する意思決定プロセスまで、私たちの生活のあらゆる側面がデジタル技術と密接に結びついています。このようなデジタル社会において、情報セキュリティは単なる技術的な課題を超えて、社会基盤そのものを支える重要な要素となっています。

デジタル変革（DX）の進展により、企業や組織の競争力は情報技術の活用度に大きく左右されるようになりました。しかし、この変革は同時に新たなリスクも生み出しています。従来の物理的な境界が曖昧になり、データは組織の境界を越えて流通し、クラウドサービスの利用により情報資産の所在も複雑化しています。このような環境において、情報セキュリティは事業継続性を確保し、顧客の信頼を維持するための必須要件となっています。

特に注目すべきは、情報セキュリティが経営戦略の中核に位置づけられるようになったことです。かつて情報セキュリティは主にIT部門の技術的な課題として扱われていましたが、現在では経営陣が直接関与すべき重要な経営課題として認識されています。これは、サイバー攻撃による被害が単なるシステム障害にとどまらず、企業の存続に関わる深刻な影響を与える可能性があることが広く認識されるようになったためです。

2025年に入ってからも、世界各地で大規模なサイバー攻撃が相次いで発生しており、その影響は個別企業にとどまらず、サプライチェーン全体、さらには社会インフラにまで及んでいます。このような状況において、情報セキュリティマネジメントの役割は、単に技術的な対策を講じることではなく、組織全体のリスクを統合的に管理し、事業価値の創造と保護を両立させることにあります。

また、デジタル社会における情報セキュリティは、個人のプライバシー保護という観点からも重要性を増しています。個人情報の価値が高まる一方で、その取り扱いに関する社会的な関心も高まっており、企業には従来以上に厳格な情報管理が求められています。2025年に施行された情報流通プラットフォーム対処法は、この流れを象徴する法制度の一つであり、デジタルプラットフォーム事業者に対してより透明性の高い情報管理を求めています。

さらに、国際的な視点から見ると、情報セキュリティは国家安全保障の重要な要素としても位置づけられています。サイバー空間における国家間の競争が激化する中、重要インフラの保護や機密情報の管理は国家の安全保障に直結する課題となっています。2025年5月に施行されたセキュリティ・クリアランス制度は、この認識を反映した制度であり、経済安全保障の観点から情報セキュリティの重要性がさらに高まっていることを示しています。

このような多層的な重要性を持つ情報セキュリティを効果的に管理するためには、技術的な知識だけでなく、経営的な視点、法的な理解、そして社会的な責任感を統合したアプローチが必要です。情報セキュリティマネジメントは、これらの要素を統合し、組織の持続的な発展を支える重要な機能として位置づけられています。