【本書構成】

パート1：労災保険法総論（導入・趣旨・適用範囲・保険関係の成立等）
パート2：保険給付の種類と概要（療養補償給付・休業補償給付・障害補償給付等）
パート3：具体的な保険給付Ⅰ（傷病補償年金・遺族補償給付・葬祭料・介護補償給付等）
パート4：保険給付Ⅱ（補償給付以外の給付・特別支給金・二次健康診断等給付）
パート5：請求手続き・支給決定・不服申立て
パート6：保険関係・保険料の徴収・メリット制
パート7：特別加入制度・海外派遣労働者への適用など
パート8：給付基礎日額・保険給付の調整・健康保険法やその他制度との関係
パート9：労働基準法や他の労働保険制度との総合比較・横断的論点
パート10：過去問分析・重要ポイント総まとめ・模擬問題

パート1：労災保険法総論

第1章：はじめに

1-1．労災保険法とは

労働者災害補償保険法（以下「労災保険法」）は、業務上または通勤途上での災害（負傷・疾病・障害・死亡）に遭った労働者やその遺族を保護するため、必要な保険給付を行う制度を定める法律です。略して「労災法」と呼ばれることもあります。

1-1-1．制度の意義

労働者の保護：業務上の事故や通勤での事故は、労働者本人に大きな負担や損害をもたらします。こうした損害を補償し、労働者の生活の安定を図ることが大きな目的です。
企業・事業主の負担軽減：個々の事業主が災害補償を全て自己負担で行うと大変なリスクになります。保険制度として社会全体で広く費用負担することで、事業主の経済的負担を合理的に分配する効果があります。

1-1-2．労働基準法との関係

労働基準法では、「業務上の負傷等に対して使用者が補償する」ことが定められています。しかし、企業単独の補償では不足が生じやすいため、これを保険方式で実現・補完するのが労災保険法です。

労災保険が給付を行うとき、労働基準法上の災害補償義務は事実上代替されることになります。
労働基準法により定められた「災害補償」が、国による保険給付に置き換わる点に注意が必要です。

1-1-3．社労士試験における位置づけ

社労士試験では、労災保険法は労働保険科目（労働保険徴収法と対になる形）で出題され、保険給付の種類・内容・手続きを中心に、適用範囲や特別加入制度などが問われます。近年では判例知識も必要とされ、労災認定の判断基準や通勤災害の範囲の拡大など、実務上の論点も確認が必要です。

1-2．歴史的背景と改正の流れ

労災保険制度は、1947年（昭和22年）の労働基準法施行当初、使用者が業務上の災害を直接補償する仕組みで始まりました。しかし、戦後の経済復興とともに、企業単独での補償には限界があることから、社会保険方式による救済を図る法律として、1947年（昭和22年）に「労働者災害補償保険法」が公布され、1948年（昭和23年）に施行されています。その後、給付水準の向上や通勤災害の範囲拡大、特別加入制度の充実など、幾度かの大きな改正を経て今日に至ります。

1950年代：給付水準を労働基準法の災害補償の基準に合わせて整備。
1970年代：高度経済成長下での災害増加への対応として、給付体系の充実。
1981年改正：通勤災害の適用範囲を拡大。
1995年改正（阪神・淡路大震災後）：災害救済の迅速化。
2000年代以降：社会情勢の変化に対応し、メンタルヘルスや脳・心臓疾患の過労死認定基準の見直しなどを実施。
2020年代の動向：テレワーク普及や多様な働き方に対応した通勤災害認定基準、海外派遣労働者の特別加入制度の見直しなど。

2025年度の試験においては、近年の改正情報や判例の動向、特に「長時間労働による脳・心臓疾患」の認定基準や「心理的負荷による精神障害」の認定基準などの最新情報が問われる可能性が高いでしょう。

第2章：労災保険法の目的・原則

2-1．目的（労災保険法1条）

労災保険法第1条では、法の目的として以下が定められています（条文要旨）：

業務上の事由または通勤による負傷、疾病、障害もしくは死亡に関して保険給付を行い、労働者の保護を図る。

さらに、業務災害・通勤災害についての補償を迅速かつ公正に行い、労働者の生活の安定・向上に寄与することが掲げられています。