AI革命に挑む通信帝国の変革ドラマ

2025年、孫正義と宮川潤一が描く未来への挑戦

目次

序章：過去最高業績の舞台裏

第1章：AI革命への大胆な賭け（OpenAI合弁会社設立）

第2章：財務戦略の国際化という大転換（初のドル債発行）

第3章：組織文化変革の最前線（DE&I推進）

第4章：新たな競争戦略の構築（HAPS商用化）

第5章：危機管理と信頼回復への道

第6章：未来への投資戦略

第7章：孫正義の影響力と親子上場の未来

終章：変革の先にある未来

特別章：関係者証言集

エピローグ、付録、あとがき等

序章：過去最高業績の舞台裏

2025年6月26日午後、東京都内のホテルで開催されたソフトバンク第39回定時株主総会。壇上に立つ宮川潤一社長の表情には、確固たる自信と未来への強い意志が宿っていた。彼が発表した2024年度の業績は、まさに同社史上最高の数字だった。売上高6兆543億円（前期比8%増）、営業利益9890億円（前期比13%増）、純利益5261億円（前期比8%増）。全セグメントで増収増益を達成し、2023年5月に発表した中期経営計画の目標を1年前倒しで達成したのである。

しかし、この華々しい数字の背後には、ソフトバンクという巨大企業が直面している根本的な変革への挑戦があった。通信会社として築き上げてきた帝国を、AI時代の新たなテクノロジー企業へと変貌させる。それは単なる事業拡大ではなく、企業のDNAそのものを書き換える壮大な実験だった。

数字が語る変革の兆し

2024年度の業績を詳細に分析すると、ソフトバンクの変革がいかに本格化しているかが見えてくる。従来の通信事業は安定した収益基盤を維持しながらも、新たな成長エンジンとしてのAI・テクノロジー事業が急速に存在感を増している。

エンタープライズ事業では、ソリューション領域の売上高が前年比27%増という驚異的な成長を記録した。これは単なる数字の向上ではなく、企業顧客がソフトバンクに求める価値が根本的に変化していることを示している。従来の通信サービス提供者から、AIトランスフォーメーションのパートナーへ。この転換こそが、宮川社長が描く「Beyond Carrier」戦略の核心だった。

ファイナンス事業も目覚ましい成長を見せた。PayPayの登録ユーザー数は6900万人を超え、連結営業利益は300億円を突破。PayPay銀行・PayPay証券の子会社化も完了し、米国市場も視野に入れた上場準備が進行している。これらの数字は、ソフトバンクが通信の枠を超えて、日本人の生活インフラそのものを変革しつつあることを物語っている。

株主構成の劇的変化が示す期待の転換

2024年10月に実施された株式分割とPayPayマネーライト株主優待の新設は、ソフトバンクの株主構成に劇的な変化をもたらした。株主数は136万人に増加し、特に40歳代以下の株主は2.4倍に増加した。これは単なる投資家層の拡大ではなく、ソフトバンクという企業に対する社会の期待の変化を反映している。

デジタルネイティブ世代の株主たちは、従来の通信会社に投資しているのではない。彼らが期待しているのは、AI革命の最前線で戦う次世代テクノロジー企業としてのソフトバンクなのである。PayPay連携の株主優待は、まさにこの新しい株主層との関係性を象徴している。

株主総会の会場でも、この変化は顕著に表れていた。従来の株主総会では、配当や株主優待に関する質問が中心だった。しかし、2025年の総会では、AI戦略、OpenAIとの提携、次世代通信技術への投資など、技術革新と将来性に関する質問が大幅に増加していた。

特に印象的だったのは、20代の若い株主からの質問だった。「ソフトバンクのAI技術は、私たちの世代の働き方をどう変えるのか」「グローバルテック企業との競争において、日本企業としての独自性をどう活かすのか」。これらの質問は、新しい株主層が単なる投資リターンを求めているのではなく、企業の社会的価値と将来性に深い関心を持っていることを示していた。