目次

土地家屋調査士とは何か？〜試験概要と業務内容〜
学習ロードマップと試験科目の全体像
民法の基礎（物権変動・担保物権・制限物権等）
不動産登記法総論（登記の基本原則と構成）
不動産登記法各論（表題登記・表題変更登記・分筆登記等）
建物登記の要点（新築・滅失・増築等）
土地測量の基礎理論（測量法・三角測量・多角測量等）
用地測量実務と測量図作成のポイント
登記申請書の実務（書式の読み解き方・書き方）
境界問題と法的整理（筆界特定制度・境界訴訟等）
図面の作成要領（公図・地積測量図・境界確定図等）
合格につなげる記述式対策（書式問題の攻略法）
合格につなげる択一式対策（法律・測量の演習と解説）
試験直前期の総仕上げ（過去問分析と実戦的学習法）
実務で役立つ関連法規（建築基準法・都市計画法等）
電子申請とIT化の動向（オンライン登記申請・電子認証等）
土地家屋調査士の独立・開業ガイド（実務の流れ・営業戦略等）
業務拡大と他士業との連携（司法書士・弁護士・行政書士等）
最新動向と将来展望（2025年以降を見据えて）
総まとめと合格後のビジョン

第1章　土地家屋調査士とは何か？〜試験概要と業務内容〜

1-1. 土地家屋調査士の役割

1. 公示制度を支える専門家

日本の不動産取引は「登記」によって公示され、これを支える専門家として土地家屋調査士が存在します。土地家屋調査士は、不動産登記法に基づき、土地や建物の「表示に関する登記」の手続きや、そのために必要となる測量や調査を担当します。

表示に関する登記：土地の地目や地積、建物の種類や構造など、不動産の物理的状態を公示するための登記
土地家屋調査士の専門性：法的知識と測量技術の両面を理解していること

不動産の実体（面積や構造など）を適正に反映しなければ、不動産取引でのトラブルや不明確さが生じます。土地家屋調査士は、不動産の境界確定や登記の正確性を担保することで、社会の不動産流通を円滑にする重要な役割を果たすのです。

2. 他士業との比較

土地家屋調査士は不動産の“表示登記”を扱うのに対し、司法書士は主に“権利登記”を担当します。例えば、売買などで不動産の所有権を移転する場合は司法書士が登記を行い、分筆や合筆といった不動産の物理的変更を登記に反映する場合は土地家屋調査士が行う、というように業務範囲が明確に分かれています。

司法書士：所有権移転登記、抵当権設定登記など権利に関する登記
土地家屋調査士：表示変更登記、分筆登記、建物新築登記など物理的情報に関する登記

ただし、実際の業務現場では他士業との連携が重要であり、境界問題が生じたときは弁護士と協力し、相続登記の際は司法書士や税理士との連携が必要になることも多々あります。

3. 土地家屋調査士が関わる典型的なケース

分筆登記
不動産を分割するケースは相続や売却など、実務で多く発生します。土地家屋調査士は分筆のための測量、図面の作成、登記申請手続きなどを一手に担います。
表題登記（建物新築）
新築した建物を登記する場合、完成後1か月以内（正確には法で定められた「相当な期間内」）に表題登記を行わなければいけません。この申請には建物図面の作成や必要資料の整合が求められます。
境界確定や筆界特定
近年は、土地所有者同士の境界紛争が増加傾向にあります。土地家屋調査士は「筆界特定制度」の申請代理人となることができ、境界問題の解決に大きく寄与します。
地積更正登記
従来の登記簿に記載された地積が現地測量と合わない場合、地積を更正する登記が必要です。誤差が大きい場合や境界紛争などがある場合は、詳細な測量と近隣地権者との協議・立会いが不可欠です。

1-2. 試験概要と合格率

1. 試験の形式

土地家屋調査士試験は大きく**午前の部（択一式）と午後の部（書式・記述式）**に分かれています。

午前の部（択一式）：法律系科目（不動産登記法・民法・司法書士法や行政法規の一部など）、測量系科目（測量法、作図問題等）
午後の部（書式/記述式）：登記申請書や図面を作成する問題が出題される

合格には、午前と午後の両方で一定以上の得点を取る必要があり、例年の合格ラインは総合得点の6〜7割程度といわれています。

2. 合格率の推移

土地家屋調査士試験の合格率は毎年おおむね8〜10%前後を推移しており、決して易しい試験ではありません。ただし、司法書士試験などに比べるとやや高い合格率ともいわれ、正しい勉強法と適切な時間配分をすれば、十分合格が狙えます。

合格者数は例年600〜700名程度（年度によってばらつきあり）
出願者数は6,000〜7,000名程度（年度によってばらつきあり）

3. 受験資格

土地家屋調査士試験には年齢・学歴・国籍などの制限は一切なく、誰でも受験することができます。ただし、測量士補や測量士などの資格を持っている場合、午前の部試験の一部が免除される特典があります。

測量士補以上を取得している受験者は、午前の測量系科目が免除
一級・二級建築士など他の資格を持っていても直接の免除はないが、建物に関する知識は有利

1-3. どんな人が向いているか

1. 実務で手に職をつけたい人

土地家屋調査士は登記や測量に特化した専門家であり、独立開業して個人事務所を構えることも可能です。また、不動産会社や建設会社との取引需要があるため、安定的な仕事依頼が期待できます。現地を測量する必要がある場合が多く、机上の法律知識だけでなく体を動かす仕事も厭わない人に向いています。

2. 不動産・測量に興味がある人

測量の知識や図面作成など、理系的要素も活かせる資格です。一方で法律知識（民法や不動産登記法）も必要となるため、文系と理系の両面に興味を持つ人にとってはやりがいがあります。

3. コミュニケーション力がある人

土地の境界を確定するときには、近隣住民との立会いや相談が不可欠です。トラブルを未然に防ぎ、スムーズに合意形成を図るには、法律的根拠を正しく示すだけでなく、丁寧な説明や交渉スキルが求められます。現地での折衝や協議が多いため、人と話すのが苦にならない人が向いています。

1-4. 資格取得後のキャリアパス

1. 独立開業

土地家屋調査士としての最大の魅力は、やはり独立開業がしやすい点にあります。司法書士や行政書士と同様、個人事務所として業務を行い、顧客を獲得していくスタイルが一般的です。主なクライアントは不動産会社や建設業者、ハウスメーカー、個人の土地所有者など多岐にわたります。

収入モデル：案件単価（分筆、合筆、表題登記など）×件数
安定と変動：不動産市況に左右される面もある一方、相続や境界確定など恒常的に発生するニーズもある

2. 企業内専門家として勤務